38話「スイカ割り──ズルくて正確なひと振り」
午後の陽射しが、浜辺の白い砂をさらに照らし出していた。
パラソルの影でうとうとしていたナオが、突如身を起こした。
「おい、マジで? スイカ出るって!」
海の家のスタッフが、大きなスイカを抱えてきたのだ。
「本日のお客様サービスでーす! スイカ割り、ご自由にどうぞー!」
ナオとナツミとユウ、そして周囲の若者たちが、砂浜に輪になって集まり始める。
棒とアイマスクが渡され、軽いルール説明があった後──トップバッターはナオ。
「おっしゃ、任せろって!」
ナオがアイマスクをつけて、棒を構える。
周囲から「右ー! もっと前!」「ちょっと左ー!」と指示が飛ぶ中、 ぐるぐると回ってから突進──
スパーン!
……砂を打った。
「ちっくしょー、なんでだよ!」
次はナツミ。
ゆっくりと歩を進め、スイカの前で一瞬躊躇。
えいっと振り下ろすも、惜しくも外れる。
「うわー、近かったのにー!」
「じゃ、ユウの番ね」
棒を渡されたユウ。
アイマスクをかけようとした瞬間、ユリがすっと隣に立つ。
「ユウ様、よろしければナビゲーションを承ります」
「え、マジで? アリなのそれ」
「本イベントにおける“外部補助による視覚誘導”に関して、ルールの明示的禁止は確認されておりません」
「合法かよ……」
そして始まる、AIの超精密誘導。
「現在地点より方位角12度、距離2.1メートル。三歩直進、そこで一旦停止。右手を肩の高さまで上げ、やや斜めに角度を取り……」
「……」
「今です」
スパーン!
見事に命中。
直撃を受けたスイカに、周囲がどよめく。 「うおお、すげー!」 「マジかよ!」
ナオが棒を奪いながら叫ぶ。
「それはもうお前が当てたんじゃないだろ!」
「うん、俺もそう思う」
ユウは苦笑しながらアイマスクを外した。
そのあと、周囲の陽キャたちが順番に挑戦し──ようやくスイカは真っ二つに割れた。
ユウの一撃は確かに直撃だったが、細腕では力が足りず、入ったのは浅いひびだけだった。
海の家のスタッフがシートの上で割れたスイカをカットしてくれる。
スイカは、甘く、よく冷えていた。
砂浜に座って、それぞれが手にした三角形をかじる。
塩気の残る唇に、甘みがじんわりと広がった。
風が吹き抜ける。 ただ、それだけのことが、なんだか贅沢に感じられた。




