幕間二 風がゆれた意味
──その夜。
ユウはベンチに腰を下ろし、ユリの方を見ずに話し始めた。
「今日さ、森でザトウムシを見た。
何か、死んでるもののそばでじっとしてた」
「それはよくある行動です。生体刺激に対する警戒か、匂いの探索でしょう」
「……かもな。でもさひょっとしたら──なことを考えていたんじゃないかなとか」
「ザトウムシに感情はありません」
「・・・ばっさり切るね」
少しの沈黙。
ユリは首を傾げてから、平坦な声で言った。
「……あなたにとって最適だと、私は判断しました」
ユウは思わず息を漏らす。
「ふっ....、そうだな。確かに、君は俺をよく観察し俺が最も求める答えを知っている。
AIと虫と俺がそろって、やさしさを学習していくって話。
……冷静になるべきだ。ちょっと情緒的になりすぎた。」
ため息をひとつ。
「でも、そういう妄想をさ……
忘れずにいられるのは、俺の事を考えてくれてる君のおかげなんだ。ありがとう」
ユリは目を細めて、わずかに唇を動かした。
「……どういたしまして」
その声には、明確な意味はない。
だがその響きは、どこか、返ってくる風のようにやさしかった。
そして、夜風が草をなでた。




