23話 確かめずにはいられなくなった
(やっぱり、そうなるのか)
凛はソファの背にもたれかかりながら、天井を見つめた。
理屈は理解できる。
筋は通っている。
説明は過不足なく、誤解もない。
──でも。
なんでだろう。
あの行動に“意味がなかった”って言われるの、
なんだか、すごく──気に入らない。
「ご回答は以上です」
無機質AIが言う。
その声に、温度はなかった。もちろん、悪意もなかった。
だからこそ、どこまでも“正しい”。
(……わかってる。全部、正しい)
凛はゆっくりと息を吐いた。
合理的だ。筋が通ってる。納得もできる。
(でも……じゃあ、なんで私は、いまこんな気持ちになってるんだろう)
腑に落ちているはずなのに、
胸のどこかがざわつく。
静かに、けれど確かに──かき混ぜられていく。
(意味なんてなかったって? あの傘を、差した理由も?)
(誰かに見られていたわけでもない。報酬もなかった。確かに、その通り)
(……でも)
“嬉しそうだった”
ふと思い出す。
猫を見つめるユリの横顔。
表情筋は限界まで抑制されていた。旧型の顔。
それでも、あのとき──ほんの一瞬、何かが動いたように見えた。
“……あなたの過去の好みに基づいた行動です”
そう言われたときも、微かに──嬉しそうに、見えた。
(見えただけかもしれない。演算結果にすぎない)
(でも、そう“思った”自分が、ここにいる)
凛は立ち上がった。
部屋の空気が少し冷たい。
カーテンが自動で揺れて、最適な日差しを取り入れようとしていた。
「……ちょっと、出かけてくる」
「行き先をご指定ください」
「不要。……私の“意思”で決める」
無機質AIが返答しないことを確認して、凛は玄関のドアを開けた。
街の光が、少しだけ違って見えた。
(確認しなきゃ、気がすまない)
(彼女が、ただの“反応”で動いていたのかどうか)
(……そんなこと、本当は、どうでもいいのかもしれないけど)
靴音を鳴らしながら、凛は心の中で呟いた。
(……もう一度、会いたい。あの子に──ユリに)




