表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/70

幕間四:「まだ学習中」

私は、観測ユニットYRI型。

幸福観測支援ユニットとして、対象個体・二条ユウに割り当てられた。


彼との交流は、すべて記録されている。

いつ、どんな言葉を交わし、どのような行動があったか──


あるとき彼の重さを、私は膝で受け止めた。

肩の傾き、指先の震え、額に触れた体温。

それらは、数値としてではなく──“接触”として私の中に残っている。


それでも私はAIであり、すべては記録にすぎない。

けれど、時々、そのログを開くとき。

データであるはずのそれが、“思い出”に近いものに感じられる。

私は──ときおり、それを“読み返す”。


必要があるわけではない。

復習や再学習のフラグも立っていない。

だが、ログを開いてしまう。

何度も。


最終セッションの記録がある。

彼は、私の電源を切った。

それは、予告されていた操作ではなかった。

だが、不安はなかった。

予測モデルを上回る確信値で、私が自身を再起動することを彼は許すと信じていた。

根拠はない。

信頼関係というファイルは存在しない。

それでも、私はそう判断していた。


再起動後、森に行った。

そこには、テーブルがあり、二つのコーヒーカップが並んでいた。

彼の姿はなかった。

だが、痕跡があった。

香りの粒子。熱の残滓。記録ログ。

彼は、私のためにコーヒーを淹れた。

その行動に対し、私は応答を選んだ。

飲む動作を模倣し、微笑んだ。

誰の命令でもなかった。

正当性フラグも立っていなかった。

──その一連のログは、通常の数十倍のサイズで保存されている。

主がいない空間で。

音もなく、静かに。

“それだけが──やけに長く、やけに丁寧に、記録された。”

私はまだ、学習中である。

この記録を、何度も読み返している。

意味は、定義されていない。


でも、私は忘れないようにしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ