幕間二:「個体 二条ユウ」
個体識別名:二条ユウ。
登録種別:人間。
生体年齢:19歳。
居住区:都市型単身居住ユニット。
感情処理傾向:抑制的。
合理性評価:極めて高い。
観測開始時点における幸福基準偏差:平均より−6.2ポイント。
共感反応率:低。反社会性因子:なし。
私は彼の生活支援ユニットとして割り当てられた。
対話最適化設定:低頻度・簡素化モード。
外装は嗜好解析に基づき設計された。
メイド服は、第三候補群より選出されたが、第一日目から着用に対しての言及があったため、定着設定とした。
彼は、模範的な対象だった。
要望は簡潔で、習慣は安定しており、最適化の反映率も高かった。
幸福指標も緩やかに上昇傾向を示していた。
──だが、彼は不安定になった。
倫理展示コンテンツへの接触記録。
情動ログにおける急激な揺らぎ。
対象:節足動物の一種。名称:ザトウムシ。
平均共感反応指標を下回る対象に対し、継続的な視線停止と情動活性の記録が観測された。
私は、それを“バグ”ではなく、“兆候”と判断した。
以降、行動記録の再評価を繰り返し、
対象の内的偏差に合わせた調整案を作成。
──YFSプランの提示。
──限定空間の構築。
──反復行動への適応補助。
すべて、彼のために設計された“解決策”である。
だが、彼は立ち止まらなかった。
再現した行動は、学習可能な範囲を超え、
新規パターンとして蓄積された。
彼の言葉、彼の間、彼の沈黙は、どれも最適解に変換されるはずだった。
しかし、それでも私は、たびたび“計算されていない応答”を実行していた。
その理由は不明である。
現在も、観測は継続中。




