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11話 冷めたコーヒーの暖かさ
再起動。
「──おはようございます、ユウ様」
ユリが、森に入ってきた。
少しだけ乱れた風が、彼女の髪を揺らした。
視界の先に、湯気が立っていた。
置かれたテーブル。
そこに、二つのコーヒーカップが並んでいる。
ユウの姿は、もうなかった。
だが、ログには残っていた。
彼が、彼自身の意志で淹れたという記録が。
ユリはそっと、席についた。
片方のカップに指を添える。
味や温度ではなく、
**“それがそこにあること”**に、意味があると判断した。
ユリは静かに、倫理評価を更新した。
「ユウ様の満足は、スコアで測定不能。
しかし、これは“幸福のひとつのかたち”と記録されます」
そして、
彼女は一口だけ、コーヒーを“飲む動作”をして、
そっと微笑んだ──それが正しいかどうかもわからない。
主が淹れたコーヒーの味。
彼がいない空間で、それだけが──やけに長く、やけに丁寧に、記録された。




