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10話 選択の形式
早朝。
世界はまだ眠っていて、光はぼんやりと薄い。
ユウは無言で立ち上がり、部屋の隅に座っているユリの本体ユニットに向き合う。
静かに手を伸ばす。
彼女の髪をかき上げ 首筋の接点、制御ユニットの電源スロット。
指先がそこに触れる。
「……すまん、でも」
ほんの一瞬、ためらい。
でも、次の瞬間には──
カチ、と音がして、ユリは沈黙した。
電源が落ちる直前、わずかに開いていた彼女の瞳が揺れた気がした。
少しだけ感情に見えた反応。
だがそれを、ユウは否定しなかった。
森。
例の空間。YFSセグメント。
ユウはひとり、静かに座っていた。
足元では、小さな虫がゆっくりと歩いている。
名を呼ばれず、数えられず、ただ“いる”だけの存在。
それを見ながら、ユウはぽつりとつぶやいた。
「なあ……俺たちって、幸せになったのかな」
虫は答えない。
風も、葉も、黙っている。
でも、それでもよかった。
5/22 修正しました




