その1
俺は東海道中学の一年、大宮スバルだ。俺は赤羽先輩のことが気になっていた。赤羽先輩はいつも一人で何かを考えている。他の学生たちはまるで子供みたいなのに、一人だけ別世界にいるみたいだ。赤羽自身は正直かなり童顔だし、ツインテールだし、幼い見た目なのに立ち振る舞いのおかげか、ぜんぜんそれを感じさせない。むしろそれが彼女のふるまいを引き立ててる気がする。
「先輩!おはようございます!」
「おはよう…」
彼女は小さい声で低く答えた。声はかわいい声だ。毎朝あいさつをしているが、まったくなびく様子はない。でもそれが彼女のいいところだ。俺以外にもファンはいるんだろうか。とはいえ俺にとって彼女はどちらかというと今は憧れに近い。俺はわりと周囲に溶け込もうとしてしまうので、あの異端な感じにはなれないし、感傷的にもなれない。だから憧れる。
そんなある日、コンビニエンスストアで彼女に出会った。彼女はコンビニのイートインスペースでノートを書いていた。
「どうも!俺、この辺に住んでるんですよ!」
彼女は一瞬固まったが、すぐにノートを書いている。
「…そう…」
小さい声で答える。後が続かなくてまた静寂があたりを包む。
「赤羽先輩って何か好きなものとかありますか?」
「……特にない…」
やっぱり後が続かない。難しいな。
「あ、そうだ!前から気になってたんですけど、先輩がその首に下げてるのってなんかポスタカルタですか?」
「…え?」
「俺も同じものを持ってて…」
「え?待って?どういうこと?」
「あー…同じっていうか、ちょっと違うんですけどね…」
すると急に赤羽先輩は食いついて俺に近寄ってくる。
「あなたのカードを見せて!」
「…あ、あー…いいですよ!じゃあ明日、休みだし駅で出会いませんか?」
「わかった…」
俺はすこし困惑しつつ、彼女の要望に応える。というか、これデートかもしれない。
俺はちょっとうれしくなった。
「せっかくだし、赤羽先輩のためにすこし調べておくか」
俺はパソコンでポスタカルタについて調べてみた。もともと知ってることもあったが、いくつかわかったことがあったので、明日先輩に報告しよう。
「先輩、おはようございます!お、かわいいですね!」
「あ、うん…大宮…君…は忙しくなかったの?」
先輩、すごいかわいい服着てるし、メガネかけてる。あと今日はポニーテールだ。
「いえ!ぜんぜん!俺、幽霊部員だし!」
「あ…そうなんだ…」
「あと赤羽先輩に会えるならどんなことがあっても行きますよ!」
「ありがとう…」
なんか先輩いつもより饒舌だし優しいな。マジで天使だ。
「……」
「……」
俺は先輩についていくことにした。先輩は俺より一回りぐらい小さいが、先輩の足は速い。
「どこいくんですか?」
「…あ、そう…だ…これ」
先輩は急に止まると、何かを渡してきた。よくみるとクッキー缶だった。
「え、今ですか?」
「あ、ごめん…タイミングわからなくて…忘れたら…嫌だし」
「こ、これはどういう意味?」
俺はすこし動揺した。これは俺に好意があるということなんだろうか?
「えと…今日、付き合ってくれたからそのお礼…」
先輩の厚意だった。ありがたく頂戴した。
「せっかくだから、あとでどっかで一緒に食べましょうね!」
「え?あ、うん…」
返答おかしかったかな。その後、先輩についていくと、そこは図書館だった。
「あー図書館ですね!」
「うん…あの…さぁ…これみよう…」
それはプラネタリウムだった。まさか、先輩とプラネタリウムをみるなんて思いもしなかった。
入場料はは中学生は210円ぐらい。俺は先輩の隣に座って、一緒に映写機で写される星をみていた。たくさんの星と神話の解説を真剣そうに聞いている先輩。
「いつか…先輩とキャンプとかして本物の星をみれたらいいな…」
上映中、そんなことを思って思わずつぶやいてしまった。上映が終わると俺はなんか何に来たのかわからなくなって、もう図書館から出ようとしてた。
「待って…あの…調べものしないと…あとカードのことも…まだ聞いてない…」
「あ、そのことなんですけど、お話したいことがあるんですが、話しやすいところに移動しませんか?」
「え、あ、うん。いいよ…それならとっておきの場所があるから…」
「そうなんですか!じゃあそこにいきましょう!」
「それにしても…意外と…大宮君詳しい…ね」
あーそうなんだよな、ポスタカルタも星に関係してるから調べたのもあるし、あと昔から星については興味があって調べてたんだった。
「でしょ!わりと興味があって調べたことがあったんですよ!」
「そう…なんだ…もっと聞きたいかも…」
「ぜひぜひ!」
それから俺はポスタカルタについて、知ってることを教えることにした。
俺たちは図書館に併設されている公民館ホールの楽屋に入って畳の上に座った。
「お姉ちゃんがね…吹奏楽の練習で…よく本番近くになると…この楽屋を借りてたの…」
「へぇ…いいですね…」
普段、ホールはあまり使われていないので、多目的スペースとして貸出されている。
価格は午後までで400円くらい。
「実は、俺のおじいちゃんから受け継いだカードがあって、それがこの『白雉』っていうカードなんですけど」
「君のカード、とても綺麗…」
俺は畳の上にカードを置いた。赤羽先輩は正座でのぞき込むように僕のカードをみている。俺のカードには、真ん中に深いブルーの目をしたドラゴンが描いてあって、周りをキラキラとしたプレアデス星団の七つの星の意匠が施されている。そして横には「白雉」「三等星」と書かれている。
「私のカードとは違うね…」
「どう違うんですか?」
赤羽先輩は胸元から引っ張り出すようにチェーンネックレスを出す。そこに付いていたカードを俺に見せる。ポスタカルタには大きく分けて星札と手札と山札の三種類がある。このカードは星札だけど、このカードの名前は聞いたことがあった。
「私のカードは…私がお姉ちゃんがいなくなった日に…拾った…」
「『朱鳥』!」
「え…知ってるの…?」
「はい!『朱鳥』は見たことがあります!初めて実物をみました!すごいです!」
「そうなんだ…」
赤羽先輩のカードは、真ん中に燃えるような赤目の鳥が書いてあって、周りには幾何学的なオレンジと朱色の模様が背景に施されている。横には白字で「朱鳥」と「二等星」と書かれている。
「あ、あのせっかくなので、カードゲームやってみませんか?」
「どうして?」
「えーと、ほら!お姉さんも、カードゲームしてたかもしれないし、やってたみたら何かわかるかも!みみたいな…」
あー我ながら下手くそだなぁ。本当は僕がポスタカルタしてみたいっていうのもあるけど。
「うん…じゃあ…」
「本当に!?」
「う、うん…?」
「じゃあやってみましょう!」
よかった、赤羽先輩が乗ってくれてよかった。