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これでもまだ私を男だと仰られるのですか?

「男じゃなかったのか!?」


「なぜ、私が男なのです? 理解に苦しみますわね。アロイス様はずっと私が男だと主張されておられますけど、何を根拠に仰っているのですか?」


「胸が無かったじゃないか!!」


「あるじゃございませんか」


「ぐ……ぐ、ぅ」


 信じられない、とばかりの顔で私の顔と胸を交互に何度も見て来るアロイス様の不躾な視線に、ついつい眉根が寄ってしまう。いくら魅せる為にやった事でも、こうも露骨に見られるのは不快でしかない。

 素気無くアロイス様の主張を切り捨てると、悔しそうに唸るだけになってしまわれたアロイス様は本当に今の今まで私を男だと思い込んでおられたのが良く分かる。でも、そんな頑固で思い込みの激しいアロイス様も、流石にお認めにならざるを得ないんじゃないかしら?

 

「で? アロイス様は、これでもまだ私を男だと仰られるのですか?」


「い……いや」


「いや? いやとは? アロイス様は、あれだけ私が否定しても男だと言って聞かず、散々罵倒されて来たじゃございませんか。だから、はっきり言って下さらないと分かりませんわ」


「女だ! そんな胸をしておいて男の訳がないだろう!!」


 ですわよねー。やってやりましたわ! アロイス様から女認定頂きましたわ!! あれだけ認めなかった事実を、やっと認めさせてやる事が出来たのね!

 あの初夜で、ベッドの上で男の胸だと罵詈讒謗を浴びせかけられ、どれだけ私が悔しかったか。女としてのプライドを、どれ程傷付けられたか。

 それが『そんな胸をしておいて男の訳がないだろう』ですって? まったくもってその通り! そんな胸をアロイス様は男だと言い張っていたのですわよ!!


 はぁ~、スッとしましたわ。スッとしましたけど……まだ、ですわ。


「ところで、アロイス様。私は一体何の罪から逃れようしたのでしょう? コルベール子爵家の悪行、というのも気になるところですし。全く身に覚えが無いのですが、ご説明下さりますか?」


「そ、それは……あ~、なんだ、あの、ちょっとした思い違いがあっただけなんじゃないかな? アンヌ、なぜそんな怖い顔で、そんなにも冷たい事を言うんだい? 君はそんな事を言う子じゃ無かっただろ?」


「私も、まさかアロイス様が私を男だなどど頓珍漢な言い掛かりをつけて罵倒して来る方だとは思いませんでしたわ」


「ア……アンヌ?」


 今まで言い返す事も、異を唱える事すらしなかった私から皮肉が返って来た事に、アロイス様は信じられないものを見る様な目を私に向けて来た。

 アロイス様に散々言われたせいで密かにコンプレックスになっていた私の胸が変わった様に、私自身も強く変わりましたの。もう、言われるがまま、されるがままな私では無いのよ。


 ドレスの胸元からこぼれそうな胸を張り、アロイス様を見据えていると「ああ……ああ、そういう事か」と、アロイス様が口角を引き上げ、先程までの戸惑った表情から得意気な表情に一変させた。

 そんな不気味なアロイス様の変化に、強気であろう、と張っていた胸の中がゾワッと嫌な音を立てた。


「アンヌ……拗ねているんだね」


「は?」


「ちょっとした勘違いじゃないか。俺達がすれ違ってしまったのだってお互い様なんだから、そんなに拗ねないで」


「お互い様? 何を言って……」


「お互い様だよ。元はと言えば君が紛らわしかったのが原因なんだし、俺だって凄くビックリしたし傷ついたんだよ?」


 紛らわしい!? 傷ついた!?


「ね? お互い様だろ? だから、俺達が離縁してしまったのは、運の悪いアクシデントだったんだ。君も意固地になって離縁なんて言い出すから後に引けなくなってしまうんだよ。そのせいで俺達は離縁する結果になったんだし、ね? でも、それで拗ねるなんて、そんなアンヌも可愛いね」


 運の悪いアクシデント!? 意固地!?


「でも、また結婚すればいいんだから、もう拗ねるのはお終い。半年も愛しいアンヌと離れ離れになってしまって、俺の魂は半分に引き裂かれてしまった様でとても辛かったよ。ああ、そうだ。父上と教会の方にはアンヌからちゃんと嘘でしたって謝罪をするんだよ? いくらなんでも、俺の印象をあそこまで悪くするのはやり過ぎだよ。でも、惚れた弱みかな。俺は君にはどうしても甘くなっっちゃうから、君が今すぐ俺の胸に飛び込んで来るなら許してあげるよ」


 さぁ、飛び込んでおいで……と両腕を広げていい笑顔のアロイス様とは反対に、私の表情と感情がスン……と地の底まで落ちて行く感じがした。



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