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私の理解が追いつかない

 私の直ぐ目の前にまで王女殿下が近付いて来られている気配がする。絨毯を敷き詰められたこの会場で響くはずの無い足音が聞こえるようで。まるで断罪へのカウントダウンの様。


「頭を上げよ」


 命じられるがまま頭を上げれば、思った以上に近くにおられた王女殿下の存在にビクッと一歩足を下げてしまった。

 これ以上失礼の無いように……と思っていたのに。自分の小胆さに嫌気がさす。


「そなた……結婚を諦めて修道院に入ると言うのは本気か?」


 私の顔を覗き込む様に顔を近づけ、聞いて来られる王女殿下の質問の意図が掴めず戸惑いつつも、私は「はい」と頷く。

 アロイス様との離婚の事もそうだけれど、王女殿下の祝いの夜会で騒動を起こしたという醜態を晒した私が嫁ぐなんて夢のまた夢。もう、実家にいる事すら家の恥となるだろう私が修道院に行くのは妥当だわ。


「そうかそうか。ではそなた、我の侍女になれ!」


「は……え? え、はい?」


 じじょになれ? え? じじょってなんでしたっけ? 何か罰になるようなものでしたかしら??


「我は近々隣国へ嫁ぐ事が決まっておる。それにそなた、付いて来い! 修道女になるつもりなのであれば、何の不都合もなかろう」


「え? じ、じじょって侍女でございますか!? 私が、王女殿下の侍女にでございますか!?」


「なんだ、不満か?」


「めめめ、滅相もございません!!」


 王女殿下の命に否など唱えられる筈が無い。唇とツン、と尖らせて、大変愛らしい表情で不満を表しておられる王女殿下に慌ててかぶりを振って否定すれば、パァっと嬉しそうなお顔で「そうか! では、侍女になってくれるな!」なんて言われたら、頷く他じゃない!

 それでも、なぜ、私を侍女にだなんて王女殿下が言い出したのかは、全く理解出来ない。

 

「あ、あの……とても光栄なお話なのですが、私などが王女殿下の侍女に召し上げて頂いても、本当に宜しいのでしょうか?」


「我が良いと言っておるのだぞ? 何の問題がある」


「そう、ですが……私は、王女殿下の為の祝いの夜会で騒動を起こした身でございます。それなのに」


「そこなのじゃ!! その騒動を起こしたそなたを見込んで言っておるのじゃ」


「ええ!?」


 まさかの理由に私の理解が追いつかない。王女殿下が冗談を仰っているとは思わないけれど、どう言う事?


「我が嫁ぐ事は決まっておるが、お相手の王子との交流は形式的な文を数回交わしたきりでな。正直、人となりも良く分からん。そんな所に嫁ぐとなると不安も多い。愛だ何だは政略結婚ゆえ重要ではない。だが、理不尽な扱いや冷遇された場合は我的にも国際問題的にも困る。そこで、そなただ!」


「わ、私?」


 ビシッと指さされ、面食らう。

 その様な重大な問題に私程度の人間がどう関係あると仰られるのか。

 

「先程あの愚劣な男とのやり取りを見させて貰ったが、そなたは一方的に理不尽な扱いを受け、暴力的な態度を取られたというのに怯え泣き暮れる事も、相手の男に怯む事も無く毅然とした態度で立ち向かっておった。我は、その強さが欲しいのだ!」


「強さ、で、ございますか……」


 あんな自暴自棄な意趣返しに強さなんて。 

 私としては生来の負けん気の強さで、いつまでたっても自分の非を認めないアロイス様の自惚れをへし折る程度の気持ちだったのに。


「そなたが一緒にいてくれればこれ程心強い事は無い! もし冷遇などされようものなら我もそなたみたいにズバーッとやり返してやるのだ!! その時に、そなたには仕返しの指南、監修を頼みたいのだ」


「王女殿下、隣国の方々も王子殿下もその様な事をされる方ではありませんよ」


「そんな事、分からんでは無いか!」


 興奮気味に語る王女殿下の言葉に黙っていられなかったのか、従者の方が声を掛けられるけれど王女殿下は納得されないご様子で腕を組んでプリプリと頬を膨らませている。

 そんな王女殿下に肩を竦めた従者の方は、申し訳なさそうな苦笑いで私へと顔を向けられた。


「この様な訳で、王女殿下をご安心させる為にも隣国へご一緒して頂けませんでしょうか?」

「行ってくれるよな! あ、そう言えばそなた名前は何と言う? 父上に新しい侍女と同行の許可を貰わねばならんからな」


 なんて軽い。しかも、王女殿下は私がどこの誰かも知らず侍女に、だなんて仰ったのですか!?

 眩暈を覚える程の急展開に、つい先程までのアロイス様との対峙なんて吹き飛んでしまった。



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