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王女殿下

 この騒然とした場にそぐわない突然の可愛らしい女性の声に、一瞬、時が止まったかのように静まり返った。

 決して大きな声でも無いのに、ハッキリと耳に入る良く通る声。そして、いつまで経っても来ないアロイス様の拳に、そ……と目を開けた。

 その瞬間。


「王女殿下!!」


 誰かの悲鳴のような声に、周囲が一斉に軽く膝を折り、頭を下げる。


 王女殿下!?

 人々が頭を下げている方向へ振り返った先には、背後に幾人もの従者や騎士を引き連れ、優雅に笑みを浮かべている少女。それは、まごうことなく我が国の王女殿下、その人だった。


 なぜ、今日この場に王女殿下が!?

 確かにこの夜会は王女殿下の成人を祝う為のもの。だけど、あくまでも貴族達が集まって祝うだけの祭りの様なもので、王女殿下ご本人が来られるなんて話は聞いていない!


 流石のアロイス様も、王女殿下の前でまで怒りのままに行動するのは不味いと思う程度の思慮は持ち合わせていらっしゃった様で、慌てた様に私の肩から手を離した。その隙に私は数歩距離を取り、周囲に倣い私も王女殿下へと頭を下げる。


「大変興味深かったぞ。我も晴れて成人。大人の男女の縺れを見るのも良い勉強だ。今宵はこの夜会に顔を出して正解じゃったな」


 ほほほほ、と扇子で口元を隠し笑われる王女殿下は、ご自分の祝賀会に気まぐれで訪れては会場の人々を驚かせる、という様なお戯れをされていたらしく、今日はたまたまこの会場に足を運ばれたという。

 そしてそのたまたまに、私の見苦しいまでの捨て身の反撃劇が繰り広げられていたと……。運が悪いと言えばそれまでだけれど、王女殿下になんてものをお見せしてしまったのか。


「しかし、令嬢に暴力を振るおうとするのは頂けんな。我は女子供に手を上げる者が一等気に食わぬ。それを我の祝いの場で仕出かそうとはな……」


 つい先程までの騒動の中心。つまり、私達のすぐ側にまで来られた王女殿下がコロコロと無邪気に笑われていた表情を一瞬にして厳しいものに変え、アロイス様へと視線を向けられた。

 成人になられたばかりとはいえ流石は王族と言うべきか、自分に向けられていない筈のその気迫に私の背筋に冷たい物が走る。


「あ……い、いえ。これには、わ、訳がっ」


 そんな王女殿下に睨まれ、顔色を悪くしたアロイス様は余程動転されているのか、発言を許されてもいないにもかかわらず、しどろもどろに言い訳を始めてしまった。

 けれど、王女殿下は興味が無いとばかりに「そういうのはよい」と切り捨ててしまわれた。


「つまらぬ言い訳も聞き苦しい責任逃れも聞きとうないわ。貴様の様な愚劣な者から祝われるなど虫唾が走る。早々に我の前から去ね」


「お、お待ち下さい! 王女殿下!! なっ、なにをする……離せ!」


 王女殿下の「去ね」を合図にした様に、背後に控えていた騎士二名が進み出てアロイス様を引きずる様にして会場の外へと連れ出してしまった。

 その姿は、まるであの夜の自分を見ている様で、いい気味だという気持ちと自分もあのように無様だったのかという気持ちが合わさって複雑な気分にさせられる。


「さて、無粋な者は消えたな。皆の者、我の事は気にせず宴を楽しんでくれ」


 先程のアロイス様へと向けていた表情など無かったかのように王女殿下はそれはそれは愛らしくニコリ、と微笑むと、今度は体ごと私へ振り向かれた。


 アロイス様の次は、私ね……

 元はと言えば、私がこの夜会でアロイス様を挑発した事が原因。私が責任を問われ断罪されるのは構わない。けれど、私のせいで家族、コルベール子爵家にまで咎が及ぶのだけは……

 王女殿下の許可なく近付く事も出来ず、少し離れた所から心配げに窺っていたお父様がこちらへ駆け出しそうになっているのが目の端に映り、かぶりを振ってお父様の足を止める。

 今ここでお父様が来てしまったら、必然的にコルベール子爵家への責任が問われてしまう。


 目線だけで「大丈夫」と伝えると、私は、王女殿下へ首を差し出す覚悟で頭を深く垂れた。



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