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もう、連れてきたのはばばあだったんだが。
もう本当にどうにかなりそうだ。
こいつを本当に八つ裂きにしたい。
今はだれもいない。だからできるだろ!
「やあああ!!」
俺はおばあさんを右腕て引っ掻いた。
おばあさんは顔面に傷を負って、後ろ向きに倒れていった。
いたがる余裕もないらしい。
顔だけでなく、胸部にも深い傷を負ったらしく、倒れたまま痙攣してしまっている。
「はぁ、はぁ、ざまぁねぇぜ」
仕方がない。
これが俺の宿命だったんだ。
俺と、おばあさんの宿命だ。
これはこの星が誕生するより前から決まっていたことなんだ。
「あー、なんだか体を動かしたら疲れてきたなー。そうだ、宿に泊まるってことだったよな? でもお金を持ってないんだよ……うわー、結局ここかよ。もうこうなったら宿の人に直談判してみよう」
もしかしたらなんとかなるかも。
そう思い、俺は直接宿を目指すことにした。
その辺の人に十人を無作為に選び、おすすめの宿を聞いてみた。
八人、回答。二人回答拒否だった。
八人のうち、さらに二人がよくわからないという回答だった。
残る六人のうち、一人が近くに宿があるということを教えてくれたので、そこにすることにした。
探すのが面倒だったのでちょうどよかった。
「ここかなぁ」
看板には教えて貰った通り『がんばっ亭』と書かれていた。
俺は扉をがらがらと開け、中に入っていく。
「いらっしゃいませ!」
快く出迎えてくれたのは、一人の少女だった。
中学生くらいの、可愛らしい感じの茶髪ショートの少女だ。
「一人なんだけど、宿空いてますかね」
「はい、お一人部屋の方が空いておりますよ。泊まっていかれますか?」
「ああ、ぜひ頼むよ」
「ではこちらへどうぞ!」
俺は目の前のカウンターに案内された。
「当宿は一泊ごとの料金となっておりまして、朝食も付いています。料金は前払い制で、数日分をまとめてお支払いすることも可能です。如何なさいますか?」
げげ、前払い制かよ……余計なシステム導入してんな。じゃあ無理なんじゃないか? いいや、もう俺は疲れている。どうしても街の宿で寝泊まりしたい!
「えーとですね。実はお金を持っていなくてですね……この場合どうしたらいいですかね」
「え? それは一パラックも持っていないということ、ですか?」
「そうなんです。もしよかったら店員さんのお悩み相談とか聞きましょうか? 無料で聞く代わりに、宿代を浮かせていただきたいんですが、できますかね」
「え、ええ……!?」
少女はあからさまにびっくりしていた。
まぁそりゃそうか。
「ちょ、ちょっとお母さんとかに相談してきますので……」
そう言って少女は奥の方に引っ込んでいった。
待つことしばし。
「おいおい、あんたか? 悩み相談やらわけのわかんねぇこと言ってんのは」
奥からじいさんが出てきた。
もしかしてこいつがお母さん? いや、そんな複雑な関係性のようには……
「申し訳ねぇが、うちは常識人しか泊まれない宿なんだ。嫌だと言っても帰ってもらうぞ」
「いえ、その、無理を言ってしまったのは本当に申し訳ないと思っているのですが、いかんせん本当にお金がなくて……」
俺は本当に切羽詰まってる演技をした。
演技だけは誰にも負けない自信があった。
「はぁ? なんだ。どっか追い出されでもしたのか? 身なりはそれなりのようだが……」
現在俺は異世界風の初期衣装をまとっている。転生時に身に着けていたものだ。いい素材ではないが、新品のため見栄えはそう悪くない。
「事情は詳しく話してもあれなので……でも行先がないのは確かです。お願いです。本当にこのままだとホームレスになってしまうんです。スラム街で寝泊まりは嫌です、一泊でもいいので泊めさせていただけませんか? 勿論お役に立てることならなんでもします! 皿洗いでも靴磨きでもお悩み相談でもなんでもします! 本当にお願いします!」
俺は最大級の誠意を持って腰を曲げ頭を下げる。
完璧すぎる……思ってもないことがペラペラと出てくるぞ……どこまでも喋れてしまいそうだ。自分の才能が怖い。
「……はぁ、まぁ悪いやつではなさそうか……。しゃあない。こんな客も偶にはくるだろ。いい経験だ、おいベル、案内してやれ」
「え、その、いいの……?」
「悪いことにはなんねぇだろ。おいあんちゃん、泊めるとは言ったが一泊だけだぞ? それと夜はがっつり皿洗いしてもらうからな。その覚悟はあんのか?」
「ありがとうございます! もちろん喜んで皿洗いさせていただきます!」
ということでまさかのタダで泊めて貰えることになった。
うっそん。本当にか? マジでこんなことってあるんだな、チョーラッキー! やってみるもんだな。
「で、ではこちらにどうぞ」
ベルと呼ばれた少女に案内され、俺は二階へと上がっていった。
「ここがお客様の部屋になります。鍵の方をお預けします」
俺は少女の小さな手から鍵を預かった。
「万が一紛失された場合は一万パラックいただきますので……と言ってもお客さんの場合ないのか、あ、すみません! ともかくなくさないようにお願いします!」
少女は最後の方は早口で説明してくれた。
「ありがとうございます。これもあなたのおかげですよ。ベルさんでしたっけ? 本当にありがとうございます」
「え? い、いえ、私なんて何もしてないですよ」
少女は慌てて手をふっていた。
小動物みたいだなと思った




