プロローグⅡ
プロローグⅡ
ぬるい水の中に落ちたような感覚がした。
この感じ、どこでだっけ。そうだ、思い出した。今日父ちゃんと一緒にいった市民プールだ。
幼稚園のキンキンに冷えた水やゴムプールと違って、市民プールは大きくて、とても温い感じがした。
父ちゃんが大きいほうのプールで泳いでいる間に、あたしは小さいほうの子供プールで泳いだ。
スイミングスクールには週に一回通っていたから、子供プールの端から端まではすぐに泳ぎ切ってしまう。
そしてプールがつまんなくなって、水の中ででんぐり返しをしたり、逆立ちみたいにしてプールの底まで潜ってみたりしたなあ。
夏美が落ちた水の中はとても暗かった。水の中なのに息は全然苦しくない。温かい水が全身を包み込んでいて、眠たくなるほど居心地がよかった。
そういえば、あたしは父ちゃんと一緒にプールに行って、そのあとどこにいったんだっけ。
夏美がうつらうつらと考えていると、水の底の方から柔らかい光の粒が浮かんできた。夏美の身体もゆっくりと光の方へ沈んでいく。沈めば沈むほど光の粒は強く、大きく光り輝く。
それはやがて人の形になり、夏美と同じくらいの少女の姿になった。光の少女はゆっくりと夏美の手を取り、水の底の方へ導いた。不思議と怖い感じはしなかった。むしろ、どこか懐かしい感じだ。
光の少女は何も言わずに夏美に笑いかけた。とても可愛らしい顔をした女の子だ。
底の方から明るい光が差し込んできた。夏美は水の中へ沈んでいたはずなのに、だんだん浮かんでいくような感覚になった。水の底、いや水面にはやわらかい日差しと水辺に生えている草花が映っている。
水面がどんどん近づいてくる。光の少女が夏美の手を放し、「さよなら。」と言わんばかりの悲しそうな顔をした。夏美が上を見上げると、水辺からこちらをのぞき込んでいるような人の姿が見えた。
夏美はゆっくりと目を閉じた。水面に近づくと不思議と眠たくなったからだ。眠りに落ちる刹那、夏美は少女の名前を聞いた。
光の少女は「ソラ」と名乗った。