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こんなに早くにぶっ込んでくるなんて聞いてない

 茉莉花は苛々していた。

 何度言ってもおろしてくれないどころか、何の交渉もできないまま国王を追い出され、しかも茉莉花の右手はいつのまにか恋人繋ぎ。ふざけすぎだ。


 「怒った顔も素敵だね。私の妖精は何がお気に召さないのかな?」


 「……いい加減おろして頂きたいと思っております」


 「そんなに私の膝の上は嫌?」


 「………………はい?」


 一瞬何を言われたのか理解できなかった。いや、今も理解はできてはいない。どこの世界に十八にもなって見ず知らずの男の膝に乗せられて喜ぶ女がいるんだ。

 もしやこの世界は女が膝の上なのは当たり前なのかとも思ったが、それなら国王が戸惑うこともなかっただろう。わけがわからない。


 混乱する思考を落ち着かせるために深呼吸ひとつ。

 自分を抱え続ける変態を改めてじっくりしっかり観察してみたけれど、見れば見るほど綺麗な顔をしている。全てのパーツは理想系とも言える大きさ配置で綺麗に並び、髭は生えていないし、剃り跡も見つからない。肌にはシミひとつなく、睫毛は嫉妬してしまうほどバサバサで長いのだから、なんだかもう本当に色々腹が立つ。


 「そんなに見つめられたら照れてしまうな」


 楽しそうに笑う変態は絶対に照れてなどいない。間違いない。断言できる。真面目に相手をするのも疲れてきた。


 「いい加減おろしませんか。何度も申し上げてますが、重いでしょう? 私も落ち着きません」


 「私の妖精は羽のように軽いから大丈夫だよ。……そうだなぁ、その他人行儀な話し方をやめてくれたら考えようかな。私のことはネイトって呼んで?」


 そう言って繋いだままの右手を持ち上げて――指先に口づけを落とそうとしたその瞬間、強引に引っこ抜いた。

 まったく油断も隙もない。


 「殿()()、私は平民です。王族の方と気軽に話せる身分ではございません。ご容赦を」


 「殿下、ね。……ふふっ、でもいいよ。許してあげる。君のことを一つ教えてくれたご褒美だよ」


 なぜ普通に座りたいというごく当たり前の要求を、そんな恩着せがましく許可されなければいけないのか。ようやく解放されたというのに、なんか釈然としない。


 「それで? マリィカ嬢、君がご機嫌斜めになっている本当の理由は何かな?」


 「おろして欲しかったのも本当ですが?」


 これは本当。後ろに花を背負っていそうなイケメンの膝の上で抱えられ続けるなんてどんな拷問だ。


 「でもそれが全てではないでしょう?」


 変態――ナサニエルの表情は全く変わらず微笑みのまま。

 食えない男だ。これなら国王の方がやりやすかった。

 王はわかりやすくナサニエルの顔色を伺っていた。宰相も気にはしていたようだが、優先順位は間違いなく目の前の王子だった。だからこそ茉莉花は強気に出ることもできたわけで。出来ればあのまま、住居と当面の生活資金を確保しておきたかったというのに。


 「そんなに警戒しないで。私は君の味方だよ」


 そう言って笑うナサニエルの顔は、百歩譲ったとしても胡散臭さしか感じない。


 「その言葉を信じろと? 結局何も教えてはくれないのにですか?」


 信じろというなら、信じられる根拠を提示しろ。

 せめてなぜ自分の身にこんなことが起こっているかくらいは教えてほしい。


 「そうか、その話をしなくちゃいけなかったね。でもその前にちょっと待ってね」


 …………?



 突然どうしたというのだろう。いきなり立ち上がったナサニエルが向かった先は、部屋に飾られていた花瓶だった。

 赤い薔薇を中心に色とりどりの花で美しく活けられた花瓶。

 今そんなところに一体なんの用が?そんな茉莉花の疑問を嘲笑うように、ナサニエルが取ったのは一本の赤薔薇で。

 その瞬間頭の中で警鐘が鳴り、これまでのナサニエルの全てが蘇る。

 甘い声、とことんまで甘やかそうとする態度、過剰なまでのスキンシップ――。


 「マリィカ・ヤナギ嬢、私の妖精、私の唯一。生涯を賭け愛し抜き、幸せにすると誓います。どうか私の愛を受け入れ、私の妃になってください」


 茉莉花の前で跪き、花を差し出すその姿はまさに求婚(プロポーズ)

 ありえない、なんで、どうして、頭の中は疑問符ばかりだ。


 『異世界召喚された娘が麗しの王子様とハッピーエンド』


 定期的に少女漫画で見かける設定は、最終巻でのプロポーズがお決まりじゃないのか。なんの障害も乗り越えてない今じゃないだろう。そうなる前に逃げ出すはずだったのに、こんなに早くにぶっ込んでくるなんて聞いてない。


 「お断りします」


 思ったよりすんなり言葉が出たことに安心する。頭の中は大混乱でも、表向き平静を装うくらいの余裕はまだあったらしい。


 「ふふっ、そう言うと思った。でも私の話を聞いたら気が変わると思うよ? ――だって君は、私の花嫁になるためにここへ来たんだから」



 追い討ちをかけるように投下された爆弾に、気絶したいと心から思った。

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