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ファンタジー確定

 ――()()()()()()


 理解したくない現実が目の前に突きつけられた気がした。そんなはずはない、そんなファンタジーがあってたまるか。

 茉莉花はちゃっかりと握られっぱなしになっている腕を水差しごと振り払うと、目についた本棚に駆け寄った。

 なんでもいい。読めるものがあれば男の言葉は否定できる。最悪読めなくても、アルファベットでさえあれば――。


 手からすり抜けた本が床に落ちる。アルファベットのようでアルファベットではない文字。決して読めはしないのに、内容はざっくりとだが理解出来てしまった不思議。紙の材質も現代の地球で使われているものと全く違った。


 「理解してくれたかな?それじゃあまずは自己紹介を」


 「殿()()! 何をなさっておいでなのです!?」


 呆然とする茉莉花に再度男が近づいてきた時、響き渡った声に二人して驚く。


 「夜着姿の御令嬢を前に、なぜお部屋に居座っていらっしゃるのですか! そのような不埒な殿方に育てた覚えはございませんよ!」


 「いや、私はただ名前と彼女の……」


 この女性は誰だろう。男の方も結構な剣幕で叱られているというのに険悪さを感じないやりとりは、二人が相当に親しいことを伺わせる。

 歳はアラフォーといったところだろうか。艶やかさを保ったハニーブラウンの髪は美しく、割って入った女性が余裕のある暮らしぶりをしているのがわかる。すっきりと纏められた編み込みヘアーは、品のある顔立ちの彼女によく似合っていた。


 違う。大事なところはそこではない。

 今この女性はなんと言った?

 男のことを殿下と、そう呼ばなかっただろうか。


 殿下――王族に対する敬称。読めない文字に日本ではありえない景色や、いつの間にか保護されていたらしい自分自身。それが意味するのはつまり、どう足掻いても理解不能なファンタジーな出来事が起きたことが確定したわけで。


 「お嬢様!?」


 どうやら茉莉花が混乱しているうちに、金髪の王子様は部屋から追い出されたらしい。あまりのことにへたり込んでしまった茉莉花を優しい手つきでソファに誘導する彼女に、先ほどまでの棘はない。


 「お初にお目にかかります。わたくしの名はソフィアと申します。今後しばらくは、わたくしがお嬢様のお世話をさせていただくこととなりました。出来る限りご不便がないよう取り計いますので、なんなりと仰ってくださいね」


 目線を合わせ優しく微笑むソフィアに、茉莉花もなんとか落ち着きを取り戻すことができた。そして落ち着いたら気にかかるのは先程の自分の行いと、ソフィアのことだ。


 「ソフィアさん、あの、先程殿下相手にあのような態度をとってしまって、よろしかったんでしょうか。私のために罰せられることがあっては……」


 自分の身も可愛いが、水差しぶん殴り未遂はたぶん咎められないだろう。咎めるつもりなら相手の立場的にもあの場で切って捨てられていてもおかしくない。

 しかしソフィアは違う。王子様個人か国か知らないが、命じられてここにいるはず。どちらにしても女官のはずだ。雇い主にあのような態度で、減給や降格になったりしないのだろうか。


 「ふふっ、お優しいのですね。どうかご安心くださいませ。わたくしは殿下より、お嬢様の侍女としてお仕えするよう言われ参りました。わたくしの今の主人(あるじ)はお嬢様です。殿下も理解してくださっっておりますから、あの程度で咎められることはございませんよ。」


 ある程度予想はついていたが、本人から改めて聞いて安心した。聞けば元は王妃殿下の侍女を勤め、あの王子様を任せられていた乳母だという。この国の乳母がどの程度の立ち位置なのかはわからないが、先程の王子様の様子を見るに第二の母のようなものなのだろう。


 「さぁ、落ち着いたら湯浴みをしてお着替えを致しましょう。お嬢様がお目覚めになられたことは、殿下より陛下にも伝わっているはずです。お呼び出しの前にとびきり美しく装わなければ。何よりこんなにお袖を濡らした服をいつまでもお召しでは、お風邪をひいてしまいますわ」


 言われてからようやく気づいた。それどころではなかったから忘れていたが、水の入った水差しを振り回したのだから当然袖は濡れている。たしかに少し前から肌寒い気がしていた。

 被害は王子様の方が激しかった気がするが、彼はもう着替えただろうか。

 笑顔のまま何かの準備をしているソフィアを盗み見る。袖が濡れていた理由を聞かれていないけれど、王子様相手にしでかしたことがバレていないならその方がいい。幸い水差しは王子様が回収してくれたのか部屋にはないし――。


 「お嬢様、どうか陛下の御前でのお転婆はお控えなさいませ。側近の方々の中には血気盛んな御仁もいらっしゃいますから」




 バレてないわけがなかった。

夜着……寝衣と迷いましたが、なろうでは割と夜着が一般的なのでこちらを採用

下着と表記してもよかったんですが、それだとさすがに王子様が変態くさくなってしまうので没

茉莉花ちゃん、シュミューズとドロワーズのみで動いてます

日本人感覚なので羞恥心なんてカケラもありませんが、ソフィアからしたら未婚の男女が部屋にいる格好としてはありえないことです

息子の部屋に行ったらブラとパンツ姿の女の子と二人きりでした的衝撃

そりゃ小言も出てきてしまいます

実の娘なら茉莉花もお説教対象ですが、日本から来た茉莉花の服を着替えさせたのもソフィアなので、常識が違うことを理解して飲み込みました

その時の茉莉花の服は典型的JKの制服

ミニスカ生足でしたから

娼婦でもしないような格好をした茉莉花を見て卒倒しそうになったとかならないとか


頑張れソフィアさん

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