アンタ誰!?
予約投稿の仕方がわかりません。
睡眠を取りすぎた時の倦怠感。茉莉花が目を覚まして最初に感じたのはそれだった。なぜ自分はベッドに寝かされているんだろう。大学受験の合格発表を見に行って、結果を報告に行く途中だったはずだ。まさか倒れた?
とりあえず目覚めた報告をして、事情を聞かなければと体を起こして固まった。病院の特別室なんて比ではない。寝ているベッドは大人が三人は余裕で寝られるほど広く、サイドテーブルに置かれた水差しは薄暗い中でもわかるほどに上質なもので。
「なにこれ……」
祖父の家ではない。あの現代人からしたら不便極まりない日本家屋に、こんな部屋はない。
インテリアの趣味でいうなら母の住むマンションだろうが、あの人は茉莉花に興味などない。
一瞬よぎった父の顔は、それこそ一番あり得ないと即座に頭から消した。
ならば一体誰が?
現代日本ではたとえ救助のためであっても、他人を自宅に連れ帰るような人はいない。まともな人間ならば、救急車を呼び病院へ運ぶ。十中八九家主はまともな人ではないのだろう。
足音を立てないようにゆっくりとベッドから降りる。素足に触れる絨毯は毛足が長くふかふかで、いちいち全てが高そうなことにゾッとする。
コンコンッ
扉の前まで歩き壁に張り付いたまま扉を叩く。手には水差しを持ってきた。武器になるかはわからないが、万が一の場合はないよりマシだと思いたい。
時間を置いても開けられる気配のない扉を、恐る恐る自分から開けて驚愕した。寝かされていた寝室は、体を休め精神が落ち着けるように、それを目的に落ち着いた装飾にしたのだろうことがわかる。それほどまでに豪華な部屋だった。
全体的にロココ調を思わせる内装は煌びやかで優雅。窓から降り注ぐ陽を受けてキラキラと輝いている。そしてその窓から見える景色に茉莉花の視線は釘付けになった。
「嘘でしょ……」
見える範囲に家はなく、色とりどりの花や木々が目に優しい。遠くの方に何かの建物が見えるが、コンクリート造のビルではなく、海外の寺院や宮殿に近い見た目に眩暈がする。
だから、気付くのが遅れた。
警戒しなければいけないのはわかっていたのに。
「気がついたんだね。おはよう。お名前をお伺いしても?」
声と同時に右手を取られ反射的に後ずさる。ついでに左手に持っていた水差しを相手の側頭部目掛けて振りかぶってやった。
「Who are you!?」
咄嗟に英語になってしまったのは外の景色が明らかに日本ではなかったから。今のところ丁寧に扱われているであろうことを考えれば失礼な物言いだが、誘拐犯相手なのだから正しい使い方だと思い直し、視線を上げた先に見えたものに、本日何度目かわからない硬直をした。
「ふふっ、元気いっぱいで安心したよ。でも言葉が通じないのは困ったなぁ」
全く困ったように見えない男は、茉莉花が持つ水差しを難なく受け止めて楽しそうに笑っている。
「こんなもの振り回したら危ないでしょう?貴女が怪我をしたら大変だ」
挙句、茉莉花の腕を優しく下ろしてくれたりなんかしてしまって。
というか、今この男は何を喋っている。
「ねぇ、なんで日本語……」
呆然と呟いた茉莉花の目の前にいるのは金髪にスカイブルーの瞳の美青年。すらっとした体躯に青地に金糸で刺繍を施したフロックコートを着こなし、機嫌良さげに立っている。顔立ちは彫りが深く、鼻が高い。明らかに北欧系の強い見た目で、全く違和感なく日本語を話すなんて、それではまるで――。
「ニホンゴ?私が話しているのはこの国の言語、リビル語だよ。さすがにシルヴェストが意思疎通も出来ない状態で放置するはずがないと思っていたけれど、正解だったね」