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メイドさんに案内された食堂は、中世の映画に出て来るような上品な部屋で、長テーブルが置いてあった。灯りは3本のローソクではなかったけど……。
上座に座っているカイザー様が、
「エミ、似合うじゃないか。変な男物の服を着ないで、女性用の服を着ると良い」
「あの、カイザー様、あの服は女性用ですよ」
「何、あれは女性用なのか……」
自分の国では、女性用の動きやすいズボンや可愛いパンツがあって、みんな自分の好きなのを着るんだと教えた。
「騎士や冒険者でもないのにズボンを着るのか……」
「ちなみに、あれはパジャマ、寝間きです」
「なんと……、(色気のない……)」
カイザー様、聞こえていますよ。
テーブルに案内されて座ると、食事が運ばれて来た。お皿に乗っている料理の量が、凄く多いんだけど……。
「エミ、お腹が空いているんじゃないか?好きなだけ食べれば良い」
出された物は、頑張って食べますよ。
「はい。カイザー様、いただきます」
「うむ。エミ、あちらに戻るまで好きなだけ屋敷にいると良い」
うぅ、優しい。さっきの失言は許してあげます。カイザー様が夢の中の人じゃなければ、アプローチするのに……。
「カイザー様、お言葉に甘えます。ありがとうございます」
食事が終わって客間に戻ると、カイザー様が来て優しく声を掛けてくれる。
「エミ、この部屋から異世界に戻ったら、次はここに戻って来るのか?もしそうなら、この部屋を開けておくぞ」
「ここに戻って来るのかは分かりません。でも、それではカイザー様に迷惑を掛けてしまいます。外の馬小屋にでも……」
「フフ。エミ、今更な気がするが?」
うぅ、それを言われると……。
「そうですね。カイザー様……」
カイザー様は、優しく微笑んで手招きする。
「エミ、おいで……、伝えたい事がある」
「何ですか?」
近寄ると、カイザー様は、私の長い髪に指を絡ませてキスをした。
「えっ、カイザー様?」
「エミ、良い匂いだ……」
「カ、カイザー様!それは、シャンプーの香りです……」
これは危ないと思って離れようとしたけど、いつの間にか、カイザー様の腕が腰に回っていて逃げられない。えぇぇ……ドキドキして来た……。
「シャンプーとは、髪に付いている匂いか?私が言っているのは、エミの匂いだぞ」
「私の?」
「ああ。エミ、君は、私の番の様だ……」
番?カイザー様の顔が近付いて来た。えっ、ちょっと待って!
「ええっ!カイザー様。ダメです!」
「エミ、可愛いな……」
ええー!今度はどう解釈したのですか?『ダメです』って、ここではどういう意味なのよ!教えてー!
「……んぐっ!」
カイサー様の優しいキスが止まらない……。心臓の音がうるさくって……壊れそう……。
※ ※ ※
「う~ん、はっ!」
目が覚めた。
うわぁ、キスされた……。ダメって言ったけど、嫌じゃなかった。ううぅ、カイザー様を好きになってどうするのよ、夢から覚めてしまうのに……。はぁ~、落ち込む。
時計を見たら朝の9時だった。ヨシ!せっかくの休みなので、起きて買い物にでも行こう。
布団から出ると、フリフリのワンピースを着ていた。夢の中でメイドさんに着せてもらったやつだ……周りを見ても、お気に入りのパジャマが無い……。
「ええ!?」
なぜ、あのワンピースを着ているの?夢だけど、夢じゃない?えっ、どうなっているの……?
考えても分からない……そういう時は、別の事をして気を紛らわす。私の場合はね。
トレーナーとスキニーパンツに着替えて、買い物用のリュック背負って出かけた。
気分転換には買い物が1番ね。パジャマ・シャンプー類と化粧品。夜はサンドイッチとシチューを作って、ワインを開ける!ふふ、食材も買わないとね。
ランチを食べた帰り道。神社の前を通ると、何となく呼ばれている気がして……、お参りする事にした。
お賽銭を投げてお祈りする。
(縁結びの神様、夢の中の人を好きになってしまいました。カイザー様は『待ち人』ですか?それとも……)
夢の中の事なんて、神様も分からないよね……、
はぁ、帰ろう……。
参道を引き返し、鳥居をくぐると、一瞬で景色が変わった。
「!?」
町の通りが消えて、目の前は森になっていた。
へっ?
立ち止まった。これはマズイ?
戻ろうと振り返ったら、岩山に洞窟の様な穴が口を開いている……。
ええっ!神社は?
戻れるかなと思って、洞窟に入っても何も変わらない……神社に戻れない……。
『グアアァァ――』
洞窟の奥からは、変な鳴き声が聞こえてきた……。何の声?怖くなって洞窟から飛び出した。
洞窟を出ると、森の中から真っ直ぐ伸びる道があって、草原に続いている。そして、道沿いに街が見えた。
これは神隠し?どうしよう……。
茫然としていたら、後ろから声を掛けられた。
「うん?こんにちは。こんな所に人間がいるなんて珍しい。その服は装備?」
洞窟から出て来たのか、10代半ばの男の子。ツンツン頭の茶色い髪でパッチリした黒い目。犬耳……、獣人の男の子だ。
人間が珍しい?
「こんにちは。いえ、普通の服よ。あの、ここは何処かな?」
「えっ?可笑しなことを聞くね。ここは<ベレンダンジョン>だよ」
<ベレン>聞き覚えが……、あっ、カイザー様に聞いたんだ。
「もしかして、ここは<獣王国>?」
「ああ、そうだよ」
ああ、カイザー様の世界に来てしまったのね……。




