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王都への帰還






「それでぇ? いつまでオレ達はココにいればいいわけぇ?」




 最深部の草原、黄色い花の絨毯の中でルルが不満そうに言う。


 花畑の中に座ったゴーレムの、右足にルルが、左足にわたしが座っている。


 どうやらルルはゴーレムのことをそれなりに信用したようだ。


 お父様達は忙しなく最深部を調べている。この最深部は予想以上に広くて、いくつも石碑が点在しており、それらを調べるために歩き回っていた。


 わたしとルルは女神様の像のそばで待機するだけ。


 ゴーレムに訊いたところ、ここの花はいくらでも再生するというので、暇潰しに花冠を作った。最初にルルの分を作って、わたしの分を作って、今はゴーレムの分だ。


 戻ってきたお父様達に、ルルが頬杖をつく。




「あれから一月……もうココに来て三月も経ったんだけどぉ?」


「仕方ないだろう。遺跡全体もそうだが、この最深部も思いの外、広いんだ」


「遺跡調査なんて残りのヤツらに任せればいいじゃん」


「だが、遺物についてはリュシエンヌの許可がなければ持ち出せない」




 三種の神器を受け取って、わたしは正式にこの遺跡の主人となった。


 そのため、遺物を持ち出すにはわたしの許可が必要で、勝手に持ち出そうとするとゴーレムに止められ、警告される。それでも強行しようとするとゴーレムに摘み出されてしまう。


 あくまで今はわたしに従っているだけで、ゴーレムは本来、遺跡の管理や警備を担っているため、遺物の持ち出しや調査の仕方に常に目を光らせている。


 許可のないものは小石一つすら持ち出せない。


 無理やり持ち出そうとした者が何人かいたが、全員がゴーレムに叩き出された。


 その後、遺跡への立ち入りを拒否されて調査に参加できなくなったのだ。


 ……まあ、当然だよね。


 ゴーレムが警告しているのに無視したのだから。


 それでも、叩き出されるだけで済んだなら優しいほうだと思う。


 ……多分、わたしが連れてきた調査隊だから、手加減してくれたんだろうなあ。


 最初はゴーレムはロボットのようなものかと思っていたけれど、彼らはただ命令に従うだけのロボットではなく、人工知能的なものが宿っているように感じる。


 そして、僅かだけど感情があるのかもしれない。


 こうして花冠を編んでいる間、椅子の代わりになっているゴーレムはジッとわたしの手元を見つめている。まるで出来上がりを待つ子供みたいだ。




「そんなの、義父上か側近に一時的に『遺物の管理権限を一旦与える』とかすればいいんじゃないのぉ? 一つ一つ、リュシーが許可を出す必要なくなぁい?」


 ──『遺物ノ管理権限ノ一部委任』ハ可能デス。


「ほらねぇ。……っていうかぁ、オマエも黙ってないで言ってよぉ」


 ──意見具申ノ許可ハ下リテイマセン。


「頭固いなぁ」




 ルルが言いながら、コンコンとゴーレムの側頭部をノックするように拳を当てる。


 それにゴーレムが言葉ではない、キュルル……という音を立てた。


 ……初めて聞く音かも。




 ──ゴーレムノ頭部ハ特ニ頑丈ニ作ラレテオリマス。


「そういう意味で言ったわけじゃないよぉ」




 またゴーレムが、キュル、と小さく音を立てた。




「まあまあ、せっかく綺麗な場所にいるんだし、今はのんびりしようよ」




 できあがった花冠を「ジャーン」とゴーレムに見せる。


 ゴーレムから、ポンポォーン、と弾むような音がした。


 頭を下げてくれたのでゴーレムの頭部にそっと載せれば、またポォーンとやや高めの音が響く。ゴーレムの手が恐る恐る花冠に触れ、ゆっくりと指先で辿る。


 その様子はなんだか嬉しそうだった。




「こうしているとファイエット邸にいた頃を思い出すね」




 あの頃は邸内を走り回って、遊んで、毎日がすごく楽しかった。


 庭園の芝生に寝転がったり、ルルと花を摘んだり、どれも細やかなことばかりだったが、わたしにとっては何もかもが嬉しかった。




「小さい頃からよく、ルルは膝の上に座らせてくれたよね」


「リュシーだけだよぉ?」


「うん、すごく嬉しかった」




 ルルと手を繋ぐ。


 興味ないだろうに、ルルは嫌がらずに花冠をつけてくれている。


 柔らかな茶髪に黄色い花と緑がよく映えて、綺麗だ。




「今はもう少しだけ、ここでルルとこうしていたいな」




 ルルが柔らかく微笑み、わたしに頭を寄せてくる。




「リュシーがそう言うなら、仕方ないねぇ」




 ちゅ、と額にキスされる。


 唇じゃないことにムッとすれば、ルルの指がわたしの唇に触れた。




「人前はダメなんでしょぉ?」


「それはそうだけど……」




 スッとゴーレムの手が動いて、わたしとルルの顔を周りから隠す。




 ──リュシエンヌ様ノ希望を感知、視線ヲ遮断シマス。




 それにルルと顔を見合わせ、噴き出した。


 あはははは、と二人分の笑い声が響く。




「……ありがとう!」




 それから、ゴーレムの手の裏でルルとこっそりキスをする。


 ゴーレムはなぜか顔を背けていて、やっぱり感情があるのでは、と思う。


 わたし達が体を離せば、ゴーレムも手を下げる。


 お父様は呆れ顔で石碑調査に戻っていった。


 その後、胡座あぐらをかいたゴーレムの足の上に座ったルルに、更に抱えられて昼寝をするわたしという構図を見たお父様はまた呆れていたらしい。


 ……ルルの腕の中って安心するんだよね。






* * * * *






 結局、わたし達は遺跡に四ヶ月ほど滞在した。


 まだ調査は続くが、ある程度は調べ、わたしが必要なことはなくなった。


 遺物の管理権限についてはスウェン様に一部を委任した。


 スウェン様はここに残って、もっと遺跡を調査するそうだ。


 ノワイエ宮廷魔法士も同じで、先発隊と後発隊の半分がそれぞれ残り、半分が王都に帰還となるらしい。お父様、わたしとルルも帰還組だ。


 遺跡はまだまだ未解明なことが多く、スウェン様やノワイエ宮廷魔法士を含めた調査員達はみんな、遺跡の歴史や魔法に夢中なようだ。


 遺物の中でも比較的、外に出して問題ないものはいくつか競売にかけるという。


 調査隊の資金にしたいというので、ゴーレムに確認を取って問題なければ小さなものをいくつか出すこととなった。


 ちなみに、最深部で作った花冠は一ヶ月経った今も綺麗なまま咲いている。


 持ち帰るのはどうかと思い、女神様の像にわたしとルルの花冠はあげた。


 あの時のゴーレムもいまだに頭に花冠を載せていて、おかげで個体を識別できる。




「明日、わたしは帰ろうと思うの。……調査隊の皆さんのこと、よろしくね」




 最深部から戻りながらゴーレムに声をかければ、ポポン、とやや低めの音がした。




 ──カシコマリマシタ。マタイツカ、オ越シイタダケルト嬉シイデス。


「うん……ルルが転移魔法を使えるから、次に来る時はすぐだよ」




 こっそりゴーレムに話せば、ポォーン、とやや高い音が返される。


 ……機嫌がいい時や嬉しい時は高い音で、落ち込む時は低い音なのかな?


 このゴーレムとも二ヶ月、毎日のように一緒にいたので少し名残惜しい。




「リュシーの遺跡、任せたよぉ」


 ──ハイ、カシコマリマシタ。




 コンコンとルルがゴーレムの腕をノックするように叩く。


 ルルはよく、ゴーレムにこの仕草をする。


 あまり他人に触れたがらないルルだけど、ゴーレムは別なのかもしれない。


 遺跡から出て、天幕に移動する。


 明日は王都に帰る予定なので、天幕の中も必要最低限の物を残して片付けてあり、朝に天幕を片付けて、わたし達は帰路に就く。


 物が少なくなった天幕の中でルルと二人、絨毯の上に座る。




「リュシー、寒くなぁい?」




 ギュッと抱き締められ、ルルにくっつく。




「大丈夫」




 季節的にも、もうすぐ雪が降るだろう。


 来る時は夏だったのに、もう今は冬で、外に出ると冷える。


 わたしの誕生日は来る途中に過ぎた。


 ……でも、お父様とルルと三人でお酒を飲む機会も得られた。


 遺跡も初めて入ったし、結構楽しかったし──……ずっと感じていた疑問も解決されて、スッキリした。


 ゲームでは悪役令嬢として描かれていたリュシエンヌだが、本当は女神様に愛されて、その幸せを願われた子だった。ただの都合の良い悪役なんかじゃなかった。


 ……良かったね、リュシエンヌ……。


 そう思えば、胸の中に喜びがあふれてきた。




「帰ったらオレは仕事三昧だろうなぁ」


「ふふ、稼ぎ頭だもんね。仕事が多すぎるなら、減らしてもらったら?」


「いんやぁ、稼げるうちに稼ぎたいからやるよぉ」




 ルルは金銭欲はそれほど強くなさそうだけど、お金を稼ぐことは大事だと思っていて、あればあるだけ良いという考えのようだ。


 使用人達の給金や屋敷の維持管理費、全員の食費や消耗品費、わたし達の衣類──……特にルドヴィクはぐんぐん育っていくので季節毎に買い替えないとあっという間に服が小さくなってしまう。


 それが嬉しい半面、寂しくもあった。


 わたしを抱くルルの腕に少しだけ力がこもる。




「遺跡調査も物珍しくはあったけどぉ、やっぱり家が一番だよねぇ」


「そうだね」




 ……わたし達の帰る場所はあの屋敷だから。


 翌日、早朝に起きて天幕の片付けを手伝った。


 騎士達が解体して、ルルとわたしも荷物を箱に詰めたり運んだりして、朝食後に残る人々と別れの挨拶をした。




「スウェン、ここは任せた」


「はい、ベルナール様も道中お気をつけて」




 お父様とスウェン様もそんな挨拶を交わした。


 ノワイエ宮廷魔法士は少し離れた場所にいて、目が合うと一礼された。


 ……最初から最後まで、ルルを怖がってたなあ。


 ノワイエ宮廷魔法士が近づくとルルがジッと見るため、あちらも居心地が悪かっただろう。必要最低限の時以外に話すことはなかった。


 そうして、わたし達は来た時と同様に馬車で王都に戻った。


 森の中をゆっくりと進み、街道に出たところで車窓の外を眺めていたルルが「あ」と呟く。見れば、窓の外に小さくて白いものがチラついていた。




「雪、降ってきちゃったねぇ」




 わたしも窓の外を眺める。


 年が変わる前に屋敷に帰れると良いのだけれど。


 お父様が視線を窓に向ける。




「最近急に冷え込んだと思ったが……ゆっくり帰ることになりそうだ」


「オレ達だけ先に帰ろうかなぁ」


「お前の転移魔法の話はできないと分かっているだろう?」


「そうだけどさぁ、この時期の旅なんてリュシーの体に悪いよぉ。最近やっと体調が戻って落ち着いてきたのにさぁ」




 ルルが言いながら毛布を出し、それで自分とわたしを包んだ。


 今はまだ寒く感じないが、もしかしたらもっと冷えるかもしれない。


 ありがたくルルに寄り添って温もりをもらう。


 お父様が思い出したように言った。




「三種の神器の一つに『聖杯』があったが、あれを使っておけば良かったのでないか? 傷病を癒す聖水というのが本物ならば、それを飲めばリュシエンヌの体調を万全な状態で維持できるかもしれない」




 お父様の言葉にわたしとルルはキョトンとした。


 ……なるほど!


 怪我や病気の時に使うものと思っていたが、普段から体調を整えるために使うというのは考えもしなかった。


 ルルが「確かにねぇ」と顎に手を当てて考えている。


 そして、ルルがわたしを見下ろした。




「あとで試してみる〜?」




 それにわたしも頷き返す。




「うん、わたしが一番体調を崩しやすいと思うし」


「じゃあ、休憩中にやってみよっかぁ」




 というわけで、休憩の際にルルが別の馬車から『聖杯』を引っ張り出した。


 金色で、見た目は派手だが、女神様が彫ってある。


 ……そういえば、使い方は聞いてなかったっけ。


 ルルが持ってきた『聖杯』を持ち、うーん、と悩む。


 ……聖水よ、出てこーい……?


 心の中でそう思うと『聖杯』のグラス部分の底からコポポ……と液体が湧き出てくる。


 見た目は無色透明、ただの水に見えた。


 わたしの手からルルが『聖杯』を取り、液体の匂いを嗅ぎ、一口含む。


 ごくりと飲み干し、数秒考えるように小首を傾げた。




「どんな味?」




 試しに訊くとルルが首を戻した。




「……すっごく美味しい水〜?」




 大丈夫と判断したのか『聖杯』がわたしの手に返される。


 わたしも口をつけ、そっと飲んでみる。


 まろやかな口当たりでほんのり冷たく、それでいて森の中の空気を吸い込んだような爽やかさと少しの青み、水なのに少し甘く感じた。


 ……確かに、すっごく美味しい水かも?


 特に嫌な感じはなかったので中身を全て飲み干した。


 体の内側から、ゆら、と一瞬だけ『波』を感じ、僅かに体が温かくなる。


 座りっぱなしで固まっていたお尻周りの凝りが消えて、足も軽い。




「効いてる気がする。……体が軽くなったよ」


「そうなんだぁ」


「ルルももう少し飲んでみたら?」




 願えば、また『聖杯』が聖水で満たされる。


 ルルが受け取り、それを飲み干した。


 目を瞬かせて自分のお腹部分にルルが触れる。




「……なんかあったかいねぇ」


「多分効いてるんだと思う。……どう?」




 ルルが『聖杯』をわたしに渡し、いきなり空中を蹴った。


 けれども顔の高さくらいでピタッと止め、足を下ろす。




「ふぅん、確かに体が軽いねぇ。軽すぎてちょ〜っと違和感あるけどぉ」




 ルルは首を傾げ、肩を回し、落ち着かない様子だった。




「まあ、体調が悪くなりそうだったら飲むって感じにしておこうかぁ」


「毎日飲んでもいいものか分からないしね」




 どれだけ体に良いものでも、摂りすぎると体に悪くなる。


 その後はルルが『聖杯』を元の馬車に戻した。


 聖水のおかげなのか、それ以降の旅で体調を崩すことはなかった。







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― 新着の感想 ―
ゴーレムと花冠、癒されます~♪ 天空の城ラピュタの優しいロボくんを思い出しちゃいます。淋しくてちょっぴり切ない。彼にも感情があるのだったら、何百年も何を思ってきたんでしょうね。伝承が失われる前の王族は…
花冠のゴーレムと聖杯のお話が、とても印象に残りました。どちらもとても不思議で異世界のエピソードとして秀逸だと思います。 そして、もう雪が降りだすんですね。物語の中ではありますが、進む季節を感じました。…
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