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食欲旺盛

 





 ルドヴィクが生まれてから九ヶ月が経ち、最近は暖かな日が増えてきた。


 昼間は暖炉に火を灯さなくても快適に過ごせる気温で、ルドヴィクは筋力が上がっているのか、とにかくハイハイで動き回って色々な物に興味を示している。


 その中でも特に食べ物に対する関心が強くて、ルルが言う通り、食い意地が張っているのだろう。


 わたしとルルが食事をしたり、飲み物を口にしたりするとジッと熱心に見つめられる。


 朝の遊びが済み、一時間ほどの昼寝の後に離乳食を与える。


 一日二回だった離乳食も今は三回になった。


 最初の時からそうだけれど、ルドヴィクは離乳食をいつも完食する。


 同じテーブルでお茶を飲むわたしをジッと見ながら、ルルが与える離乳食をモグモグしていて可愛らしい。


 ……もしかして、わたしと同じものを口に入れてると思ってるのかな?


 粒のあるオートミールや柔らかな白パン、火を通して柔らかくなっている野菜、肉や魚、ある程度果肉を残して軽く潰した果物、それから幸いにも卵や乳製品のアレルギーもなく、ルドヴィクの食事内容は種類が増えた。


 遊ぶことも好きだが、それ以上に食事が好きらしい。


 いつも同じ銀盆に離乳食を載せて持ってくるため、銀盆を見ると絨毯の上をハイハイして、柵ギリギリまで近づいてくる。食事の時のハイハイは一番動きが速い。




「ほら〜、オマエの好きなトマトサンドが入るよぉ」




 ルルが小さく切られたサンドイッチを差し出すと、小さな手がルルの手を掴み、あぐ、とサンドイッチを口に入れる。


 小さな口なので中身が少し垂れてしまい、すかさずルルがナプキンでその口元を綺麗に拭う。


 離乳食が三回に増え、午前と午後はルルが、夕方はメルティさんが食べさせてくれる。


 生まれたばかりは二時間おきくらいだった授乳も、今は四時間おきくらいに落ち着き、離乳食の後は飲む量も少ない。大体、一歳から一歳半くらいで離乳が完了するらしい。


 その頃にはもうお乳はほとんど飲まなくなっているだろう。




「ルド、美味しい?」




 ルドヴィクが手をぱちぱちと叩く。


 好きなものを食べた時は拍手をするが、苦手なものを食べた時は動かない。


 相変わらず苦手なものの時は眉を寄せるのにも慣れて、今は微笑ましく感じる。


 ルドヴィクはトマトサンド──トマトと野菜、鶏肉を混ぜてすり潰したペースト入りのサンドイッチだ──が一番のお気に入りで、オートミールよりもパンのほうが好きらしい。


 苦手な食材も他の食材と混ぜてサンドイッチにすると嫌がらずに食べてくれることが判明した。


 マッシュポテトも好きで、平たく、薄くして焼いたものを出すと手掴みで食べる。


 元から手を伸ばすことは多かったが、最近は特に自分で掴み食べをしたがるのだ。


 サンドイッチはルルが食べさせているけれど、わし掴みにしても大丈夫なものは、好きなようにさせている。よくこぼすものの、意外にもすんなり自分で食べてくれて、残さない。


 たまに食べ物をちぎって遊ぶこともあるが、赤ちゃんなら普通だろう。


 遊びながらもしっかり食べているので今は叱らず、見守っている。


 小さなサンドイッチの欠片をモグモグと味わって食べるルドヴィクは可愛い。


 全部がペーストだった最初の離乳食と比べると、サンドイッチやマッシュポテトなどの固形物を口にできるようになったのはすごい進歩である。


 もちろん、まだ固いものは食べられないし、味付けも薄い。


 だが、日に日に食事量や種類が増え、体も大きくなっていくルドヴィクを見ていると『子供の成長って本当に早いんだなあ』と実感した。




「あぁ! まんま〜!」


「はいはぁい、次ね〜。でもその前に水分補給だよぉ」




 口の中のものがなくなるとルドヴィクが次をねだる。


 少し前は『あー』『うー』『だあ』みたいな感じの音くらいだったが、同じ音を繰り返したり、多少は出しにくい音も出せるようになってきた。


 ルルがコップを口元につけ、ルドヴィクに少量の水を飲ませる。




「じゃあ次はコレねぇ」




 今度は魚と野菜をミルクで煮たスープをスプーンで掬って差し出す。


 これも、やや食い気味にかじりつく。


 美味しいようで手をぱちぱちしている。




「分かりやすいなぁ」


「一つの食材より、いくつかの食材が混ざってるほうが好きみたい」


「そのほうが美味しいんだろうねぇ」




 終始そんな様子で、四十分ほどかけて離乳食を食べ終わる。


 その後はランドローさんに席を外してもらい、授乳をする。


 あんなに食べたけど、お乳もしっかり飲む。


 お乳を与えている間はルルがルドヴィクの様子を眺めるのも、いつものことだ。


 ……赤ちゃんって言うけど、結構もう大きいよね。


 少なくとも生まれた時から体重は三倍から四倍近くあり、ずっと抱き抱えたままでいるのが大変だ。


 ちなみにルドヴィクはおしゃぶりが嫌いなようで、与えても放り投げてしまうので諦めた。


 おしゃぶりより自分の指を咥えているほうが落ち着くらしい。




「あと三月もすれば一歳だっけ? ……早いねぇ」




 ルルが言い、それに『もう一歳なのか』と感慨深くなる。


 感覚的にはついこの間、生まれたばかりのような気分なのに。




「ルドヴィクのお世話でバタバタしちゃって、あっという間に時間が過ぎちゃうよね」




 胸元からルドヴィクが口を離したので、ルルに渡し、胸周りを綺麗に拭く。


 ルルが重さを確かめるようにルドヴィクを抱え直した。




「オマエも大きくなったねぇ。一歳になるまでにこんなに成長するなら、本当にあと十五年ちょっとでオレくらいに育つかもしれないなぁ」


「ルルそっくりに成長してくれたらいいなあ」


「オレそっくりなのが増えてもなぁ……」




 ルルは微妙な顔をしつつもルドヴィクをあやしていた。


 でも、成長してルドヴィクはどんどんルルに顔立ちが似てきている。


 このまま本当にルルそっくりに育つかもしれない。




「自分の子なんだし、似るのは当然だよ」




 ルルはやっぱり、何とも言えない顔でルドヴィクを抱えていた。






* * * * *






 横にいるリュシエンヌがルドヴィクを見守っている。


 生まれた時よりかなり大きくなった子供は四つん這いで絨毯の上を動き回り、食欲もあり、日増しに育っていく。そろそろリュシエンヌは立ったまま抱き続けるのが難しくなってくるだろう。


 最近は座った状態で抱えることが多く、抱いて移動させる時はルフェーヴルや他の者が行う。




「ルドヴィク様、お友達が歩きますよ〜」




 釣竿のようなものを使い、リボンを垂らし、その先にヌイグルミがつけてある。


 それが絨毯の上を移動すると子供が追いかけていく。


 だが、それでも不意にリュシエンヌのほうを振り返る。


 どういうわけかリュシエンヌが近くにいないと泣くのだ。


 侍女や医者いわく『後追い』と呼ばれるものだそうで、母親の姿が見えないと泣いて、離れようとすると追いかけてくるらしい。


 ルフェーヴルにはそのような反応を見せないことから、母親だけに対するものなのだろう。


 リュシエンヌもそれを気にして子供と同じ部屋で過ごすことが多い。


 元より心配性で同じ部屋にいるため、それほど困ってはいないが。


 子供がこちらに来て、絨毯の端の柵を掴む。


 柵同士の隙間からジッとリュシエンヌを見つめる。


 リュシエンヌが手を振れば、その場に座った子供も真似をして手を振った。




「ルド、遊んできてもいいんだよ〜?」




 と、リュシエンヌが声をかけても柵を握ってこちらを見つめている。


 しかし、ここで抱き上げると大抵不機嫌になるので、こうして見守るだけに留めている。


 子供が柵を握り、顔をギリギリまで寄せた。


 そうして、すっくと立ち上がった。




「えっ、た、立った……っ!?」




 驚いたリュシエンヌまで立ち上がる。


 ルフェーヴルは思わず「おお〜」と声が漏れた。


 リュシエンヌが子供のそばまで行くが、立ったままだ。


 柵に掴まって意外にもしっかりと立つ子供は、目を瞬かせてリュシエンヌを見上げている。




「ルド、偉いね! すごいよ!」


「おめでとうございます、ルドヴィク様」


「さすがルドヴィク様ですね!」




 子供の世話役二人が小さく拍手をする。


 子供が柵から手を離すと絨毯の上に座り込んだ。


 まだ自力で立ち続けることはできないらしい。


 世話役の真似をして両手を叩く。


 リュシエンヌが手を伸ばして「よっこいしょ……」と子供を抱き上げた。


 重いようで、すぐにソファーに戻ってきた。




「ルドは本当に良い子だね。私達がいる時に見せてくれるから、嬉しい」




 よしよしとリュシエンヌが子供の頭を撫でると、子供が声を上げて笑う。


 手足をばたつかせるが、結構力強い。




「ん、そろそろ昼の離乳食の時間だよぉ」




 と、ルフェーヴルが声をかければ子供がこちらに顔を向け、手を伸ばしてくる。


 リュシエンヌの手から子供を受け取り、テーブルに移動する。


 世話役の男のほうが「お食事を取ってまいります」と下がっていった。


 離乳食という言葉を覚えたのか、毎日同じ動きで暮らしていることで順番を覚えたのか、子供は食事の時間が最も元気になる。


 ……暗殺者としては、執着するものはないほうがいいんだけどねぇ。


 それにしても、食への執着が強い。


 小さなテーブル付きの椅子に座らせると、それだけでもう興奮し始めていた。




「今、食事は取りに行ってるからねぇ」


「まんま!」


「はいはぁい、楽しみだねぇ」




 子供が椅子のテーブルに手をつき、もぞもぞと動く。


 そして、椅子の上で器用に立ち上がった。




「ほらぁ、危ないからお座りしなよぉ」




 抱え、椅子に座らせ直すと今度は立ち上がらなかった。


 リュシエンヌもテーブルに移動して、果実水を飲む。


 食事の時間はズレているが、一緒に何かを食べたり飲んだりするということを覚えさせるために、離乳食の時に決まってリュシエンヌも軽食を摂ったり飲み物を飲んだりしている。


 部屋の扉が叩かれ、世話役の男が戻ってくる。




「お待たせしました」




 銀盆が子供の前に置かれると、子供が手を叩いて喜んだ。


 ルフェーヴルは食事の柔らかさを確認して、皿の一つを子供の前に置く。


 それから子供の手を温かく濡らした布で拭ってやる。


 皿の中身は子供が好きな、芋を潰して薄く焼いたガレットだ。


 さっそく子供が手を伸ばし、その一枚をわし掴んだ。


 口にそのまま入れたが、大きすぎて噛み切れないようだ。


 口から出して、もう一度口に入れて、やはり入らないと分かったのかガレットを両手で握る。


 若干握り潰しながらもガレットが左右に引きちぎられ、子供がまた半分になったガレットを口に入れた。今度は丁度良い大きさだったのか、ガレットを口から垂らしながら食べている。


 最近はこの『食べ掴み』を習得して、離乳食もそれに合わせて掴んで食べられるものが増えた。


 もう数ヶ月もすれば離乳が完了し、ある程度は大人に近い食事になるのだとか。


 ガレットを食べながら子供が両手を叩いている。


 食事が気に入った時に見せる動きだ。




「ガレットもいいけどぉ、スープも飲みなよぉ」




 スプーンで掬ってスープを差し出す。


 細かく切って煮た野菜と肉が入ったスープ。これも子供の好きなものだ。


 両手にまだガレットがあるからか、子供が口を開ける。


 そっとスプーンを口の中に入れてやれば、これも味わって食べる。




「ルドは食べることが好きみたいだね」


「そうだねぇ。まあ、食事をする・・・・・のって生きる・・・ってことだしぃ、食に執着があるうちは長生きするでしょぉ」


「確かに」




 子供はまた握ったガレットを食べている。


 ……フォークやスプーンはもう少し先かなぁ。


 掴むということはできているので、そのうちカトラリーを持たせてみよう。


 元より玩具を握ったり投げたりもするから、スプーンなどを持てないということはないだろう。


 そろそろ物を持って自分で動かすということに慣れさせたい。


 歩けるようになったら体を動かして筋力をつけさせ、握力も鍛えたいし、自分の望むように手元の物を扱えるように指先の訓練も必要だ。


 ……子供を育てるってやることが多いねぇ。


 更に手を伸ばして離乳食を食べる子供を眺めつつ、思う。


 自分が幼い頃はどうだったか。あまり覚えていない。




「まんま、まんまんっ」




 子供が嬉しそうに声を出している。


 恐らく意味のない言葉なのだろうが、食事が楽しいという雰囲気は伝わってくる。




「そんなに急がなくても食事は逃げないよぉ」




 良い勢いで食べる子供に声をかけつつ、こぼした食べかすを空いた皿に移す。


 リュシエンヌが微笑ましいという表情で子供を見つめていた。




「そのうち食べ掴みも卒業かなあ」


「明日からスプーンとか持たせてみる〜?」


「うん、やってみたほうがいいかも。ルドは握る力も強いし、持てると思う」




 子供は相変わらず、離乳食を頬張っている。


 その頬をつつくと口いっぱいに入っている感触がした。






* * * * *

別作品ですが「元戦闘用奴隷ですが、助けてくれた竜人は番だそうです。」紙コミックス1巻が昨日11/20に発売されました。

こちらも是非よろしくお願いいたします(´∪︎`*)

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― 新着の感想 ―
エピソード400!!おめでとうございます(*´ω`*) そして今回もルド君の成長をひしひしと感じ、とても幸せな気持ちになりました。 食い意地がはってるルド君、とっても可愛いです(^^) リュシエンヌが…
ルドちゃんの初たっち、を祝いつつ。 本日の見守り、 「離乳食たっぷり食べて、大きくなってね」 と、祈りながら、終了です! ( ̄^ ̄)ゞ トマトサンドとスープ。 明日のランチに、食べたくなりました。…
400節おめでとうございます! 今節も幸せいっぱいで、ルドヴィクの様子がリュシエンヌとルフェーブルのそれぞれの視点で語られていて、楽しかったです。微妙に同じ場面で微妙に違うところが素敵です。読んでいる…
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