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王族達の末路(1)

これより四話ほどざまぁ編となります。

かなり痛い描写があります。

苦手な方は読み飛ばしてください。

こちらは読まずとも本編に支障はございません。

* * * * *






 王城の地下にある牢獄。


 本来であれば重罪を犯した貴族や王族を狙った者など、よほどの罪を犯さねば入れられることのない場所であった。


 しかし今現在、そこにはこの王城の元主人である者達が入れられていた。


 国王と王妃、側妃、そして王妃と側妃の子供達。


 それぞれが別々の牢に入れられている。


 両手に鎖がはめられ、ゴテゴテとしていた衣類は全て剥がされ、今は囚人の着る古びた服を着させられている。




「ちょっと、誰かいないの?! 誰か!!」


「ここから出しなさいよ!」


「食事は?! お腹減った!!」




 子供達の甲高い声が響くが、誰も様子を見に訪れない。


 誰も来なければ、何かを言いつけることも出来ず、王妃の子供達は癇癪を起こしていた。


 王と王妃は青い顔で座り込んでいる。


 側妃と第二王子は諦めたように牢の隅に座り込み、膝を抱えて俯いたままだ。


 王妃の子供達だけは自分の状況をよく理解していないらしい。




「こんな状況でもよくそれだけ騒げるねぇ」




 不意に響いた声にその場にいた全員がびくりと体を震わせた。


 そうして鉄柵の向こう側にいる人影、ルフェーヴルは牢に似つかわしくない明るい声で続ける。




「さっすがぁ、牢に入れられてるのに全っ然堪えてないねぇ。でもそれくらいの方が楽しめるかなぁ」




 あは、と笑うルフェーヴルの目は欠片も笑っておらず、冷たい眼差しで柵の向こうを見つめている。




「お前は、昼間の……」




 王族達が牢に入れられてから既に半日が経過した。


 地下牢に窓はないが、置かれた蝋燭の減り具合で時間の経過は何とか分かるだろう。


 今は月が天頂を少し過ぎた辺りである。


 ルフェーヴルは頷いた。




「そうだよぉ」




 昼間よりも簡素な格好で現れたルフェーヴルに、王が鉄柵に寄った。




「出してくれ! 余は何もしていない! 宰相が横領や脱税をしていたことも、そこの女、王妃がリュシエンヌを虐げていたことも、贅沢を尽くしていたことも知らなかったのだ!」


「なっ……?!」




 王の言葉に王妃が口を戦慄かせ、キッと眦を釣り上げて柵に寄る。




「それを仰るならあなただって贅沢に暮らしていたではありませんか! あんなふしだらな娼婦達を集めて装飾品を買い与えたり、金を渡したりしていたでしょう!?」


「うるさい! 余は王だぞ?! 王が贅沢をして何が悪い?!」


「わたくしだって王妃ですわ!!」




 ぎゃあぎゃあと言い争いを始めた両親に、先ほどまで騒いでいた子供達はぽかんと目を丸くしている。


 その様が滑稽でルフェーヴルは吹き出した。




「ぶふっ……! あはははは!」




 まるで面白い見世物でも見たかのように笑うので、王も王妃も、子供達もルフェーヴルを見た。


 ただ側妃と第二王子は何かを感じたのか更に身を縮こませて怯えるように端に寄った。


 これでもかというほど笑った後にルフェーヴルは言う。




「まだ分かってないんだねぇ」




 ルフェーヴルは柵に近付き、王を覗き込む。




「王様はぁ、何もしなかったからダメだったんだよぉ。そりゃあそうだよねぇ。王様なのに政には関わらない、毎日女を取っ替え引っ替え、豪華な食事に装飾品を女に買い与えて。それでいて正そうとする臣下を次々地方に追いやったり辞めさせたり。王様らしいことなぁんにもしてないんだもん」




「王権奪われても仕方ないよね〜」とルフェーヴルが笑い混じりの声で言う。


 それから次に王妃を見た。




「王妃様はさぁ、本当なら王様を諌めなくちゃいけないのに後宮にこもって贅沢な暮らしばっかりしてたよねぇ? ドレスに宝石、金銀細工の装飾品、高額な輸入品やワイン、食材で毎日晩餐会みたいな豪勢な食事。国庫は王様と王妃様の贅沢で消えていく〜」




 王妃が震えながらも口を開く。




「そ、そんなの知らなかったわ! だって誰も止めなかったもの! 国庫がそんなに苦しいと知っていたらやめていたわ!!」




 ルフェーヴルの灰色の瞳が細められる。




「だって止められないわ〜! 止めたら酷く折檻されるもの〜! それに王妃様ってば気に入らない使用人はすぐやめさせるんですもの〜!」




 ルフェーヴルが王妃の声真似をして言い、けらけらとおかしそうに笑った。


 からかわれた王妃の顔が羞恥で染まる。


 後宮での人事は王妃に一任されている。


 だから後宮で働く者は王妃の機嫌を損ねないようにいつも気を張っているし、いつも機嫌を窺っている。


 しかもリュシエンヌの虐めも目の当たりにしているのだ。


 王妃に進言など出来ようはずもない。


 己を可愛いと思えば尚更無理である。




「それから、そっちのガキ三人」




 ふっと笑いを止めたルフェーヴルが王子や王女達を指差した。




「お前達がリュシエンヌにしたことは知ってるからね? あの子がされたことを、今度はお前達にしてやるよ」




 優しく聞こえる静かな声でルフェーヴルが宣言する。


 そうして今まで抑えていた殺気を解放する。


 たとえ殺気を理解出来なくても、本能的な恐怖はあるらしく、王も王妃も、子供達も呼吸に失敗したような音を立てて地面に転がった。


 それを見たルフェーヴルが殺気を抑える。




「ええ〜、これぐらいの殺気で失神するのぉ?」




「つまんなーぃ」とぼやいたルフェーヴルがパッと振り返った。


 その方向から足音がして、ランプを持ったベルナールが姿を表した。




「お前、あまり殺気を放つな。看守や兵士達が怯えていたぞ」


「なぁんだ、アンタかぁ」




 ふっとルフェーヴルの空気が緩む。


 肌を刺すような殺気に満ちていた空気が緩和され、ベルナールも内心でホッと息を吐いた。




「彼らをどうする気だ」




 先ほどのルフェーヴルの殺気を浴びたせいか、王族達は全員気を失っているようだった。




「そうだねぇ、まずは王妃にあっつ〜い紅茶でも淹れてあげるつもりぃ。で、王女達は髪を切って、痣が出来るくらい蹴って〜、第一王子は水遊びでもしようかなぁ」


「……なるほど」




 それらはルフェーヴルの報告にあったものだ。




「そうしたらそのまま檻に入れてさぁ、城下の広場に置くの。立て札作って『お好きにどうぞ』って書いておくんだよぉ」


「しかし、それで民衆がすぐに手を出すか?」




 ルフェーヴルがうっそりと目を細めた。




「そこはオレが扇動するからぁ。あ、王と側妃と第二王子は要らないから好きにしていいよぉ?」


「いや、それならば一緒に広場へ持って行ってくれ。王もそうだが、側妃も第二王子も贅沢をし過ぎたし、金と自由欲しさに他国に我が国の情報を漏らしている」


「うっわ〜、そりゃあ見逃しようがないねぇ」




 ルフェーヴルは楽しくて仕方がなかった。


 側妃や第二王子はどうでもいい。


 王も、まあ、わりと興味はない。


 ただ王妃とその子供達は別だ。


 本当ならばリュシエンヌが味わったように五年かけてじっくりと嬲ってやりたいのだが、政治的な問題も絡むとなるとそうもいかない。


 だから手っ取り早くやらなければいけない。


 それでもリュシエンヌの仕返しが出来る。


 リュシエンヌはそんなこと望まないかもしれないが、そんなことはルフェーヴルには関係ない。


 自分が不愉快に感じたから。


 リュシエンヌと同じ目に遭わせたいと思った。


 それだけであって、これはリュシエンヌのためなんかじゃない。


 完全な自己満足である。


 そして、同時に牽制でもあった。


 リュシエンヌに手を出せばどうなるか。


 目に見える形で結果が分かれば、今後は手を出す愚か者も減るだろう。


 そうして誰もリュシエンヌに近付かなければ良い。


 ……リュシーはオレだけの可愛い可愛いリュシーだからねぇ。




「それとぉ、ここで拷問やっていーぃ? いつもは専用の場所でするんだけどぉ、ここから出すわけにはいかないでしょ?」




 ベルナールがそれに頷いた。




「ああ、許可しよう。だがあまり壊すなよ」


「だぁいじょ〜ぶ。オレ暗殺者だよぉ? ちゃ〜んと処刑まで正気を保ったままにしておいてあげるよぉ」




 それはそれで地獄だろうなとベルナールは思ったが、言及しないことにした。


 そうしてベルナールはルフェーヴルに袋を手渡した。チャリ、と高い音が微かにした。


 ルフェーヴルがベルナールに雇われた期間は『クーデターが成功するまで』である。


 前金を貰い、別途料金を受け取り、そうして最後に残りの金額を貰う契約で、それを今渡されたのだ。


 中身を見なくても感触と重さできちんと金が支払われたことが分かる。


 ベルナールが依頼料を支払わなかったり、出し渋ったりしたことは今まで一度もない。


 その辺りは、ルフェーヴルも信用している。


 そしてこれからの時間は仕事外だ。


 つまりルフェーヴルの私的な時間で、趣味だ。


 渡す物を渡し終え、ベルナールは早々に地下牢を出て行った。


 ルフェーヴルは詠唱を呟き、空間魔法を展開させるとその中に袋を放り込む。


 これで盗まれる心配もない。




「さぁて、それじゃあ楽しい楽しい拷問でもしようかねぇ」




 リュシエンヌが眠っている夜の間しか時間がない。


 あの子が起きる前には身綺麗にして戻らないとねぇ。







* * * * *







 バシャリと冷たい水をかけられて王妃は目を覚ました。


 そうして、顔を上げ、目の前に立つ少年とも青年とも言える人物を見つけてしまい「ひっ……?!」と声にならない悲鳴を漏らした。


 両手は枷をはめられているが足は自由なので、何とか這いずりながら逃げようとしたが、古びた囚人服の後ろ襟を掴まれてしまい叶わなかった。




「ちょっとちょっとぉ、人の顔見て逃げ出すなんて失礼じゃない?」




 その人物はそのまま王妃を元の位置へ引きずり、手を離した。


 両手をつけたので顔はぶつけなかったが、とっさについたせいか手首がズキリと痛んだ。


 周りを見回せば、そこは自分が入れられた牢であった。


 同じ場所ということにホッとしつつも王妃は牢の中にいるその人物に奇妙な恐ろしさを感じていた。


 見た目は細身で威圧感などはない体格だ。


 なのに、側にいるだけでゾッと背筋を冷たいものが駆け抜けていく。


 その人物は空間魔法を使い、そこから何かを取り出した。


 ……あれはティーポット……?


 どこか優雅な、けれどどこかわざとらしい動きで丁寧にポットの中身がティーカップへ注がれる。


 ふわりと香るのは紅茶の匂いだ。


 この牢に入れられてから、食事はないし、水もあまりもらえないので少し喉が渇いていた。


 ごくりと思わず生唾を呑んでしまい、自身のはしたなさに気付いて顔が赤くなるのが分かった。




「はい、どうぞぉ」




 口の広いティーカップが床に置かれた。


 随分と濃い色合いで、湯気が立っている。


 濃く淹れすぎてあまり美味しくはないだろう。


 手を伸ばさずにいると、その人物に髪を鷲掴みにされ、無理やり体を折られる。


 顔がティーカップに近付いて湯気が当たる。




「何してるのぉ? ほら、飲んでよぉ」




 手を伸ばそうとしたら、その手を踏まれた。




「ああっ、痛い! やめてっ、足を退けなさい!」




 そう言っても手に乗った足は動かない。


 細身のくせに、もう片手で掴んでも、叩いても、その足はビクともしなかった。


 それどころか掴んだ髪を引っ張り上げられる。




「誰が手を使っていいって言った?」




 間近にある灰色の瞳にジッと見つめられる。


 間延びした声ではなかった。


 低く、唸るような声だった。




「ひっ、あ、ああ……っ!」


「これくらいで泣かないでよぉ。まだ『何も』してないのにさぁ」




 その言葉に耳を疑った。


 まだ『何も』してないですって?


 こんなに乱暴なことをしておいて、これが、この人物には大したことではないと言うのか。


 思考で一瞬体の力が緩むと、グイと顔をティーカップの上へ戻される。


 鼻先にあるカップからは湯気が出ており、どう見ても熱湯で注いだばかりのものだった。




「リュシエンヌにも紅茶をあげたでしょ?」




 その言葉にハッとして見上げれば、灰色の瞳が冷徹な光を宿してこちらを見下ろしていた。




「あ、あなた、あの子から何か聞いたのね?」




 相手は何も答えない。


 またあの子。……またあの女。




「あの子はありもしないことを言う悪い癖があるのよ。わたくしがこんな酷いことをするはずがないでしょう?」




 胸の中でじわりと滲んだ感情を押し殺し、憐れに見えるように涙を零す。


 しかしその人物の目は変わらなかった。


 いや、尚更冷たい色を宿して王妃を見た。




「残念、オレにそういうのは通じないよ。それにこれはリュシエンヌから聞いたんじゃない。オレ、あの時天井裏で見てたんだよね、全部」




 そう言われて涙が止まった。


 見ていた? 天井裏で?


 あれを甚振っているのを見られていた?




「だからさぁ、早く飲んでよ?」




 また顔がカップに近付き、鼻先が微かに中身に触れた。




「あああっ、熱い!」




 逃げようともがいても頭が全く動かせない。


 それでも何とか暴れていると鼻が液体から離れる。


 空気に触れてヒリヒリと鼻先が痛んだ。


 思わず踏まれていない方の手で顔を押さえたが、それで痛みがなくなるわけではない。


 目の前の人物が言う。




「何騒いでんの? アンタ、同じことをリュシエンヌにさせたよね? 五歳のリュシエンヌが出来たことを、大人のアンタが出来ないなんて言わせない」




 グッと後頭部に力が入れられる。


 また目の前にティーカップが近付いた。


 時間が経てば冷めると思ったが、どうしてか、このティーカップの中身は冷める気配がない。


 必死に首に力を入れて抵抗すると、頭が引っ張り上げられる。




「そっか、飲みたくないか」




 その言葉に何度も頷く。


 今度は掴んだ髪を下に引っ張られ、顔が上向きになり、口が開いた。


 そこに何かが割り込んでくる。




「じゃあ仕方ないからオレが飲ませてあげる」




 掴もうとした腕は動かせない。


 腕につけられた枷が酷く重い。


 その人物が身をかがめてティーカップを拾い、その中身を口に入れられた筒のようなものの上部へ向かって傾けた。



 

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― 新着の感想 ―
[一言] ざまあきたー!! るるがすごい起こってて、愛されてんなーと思います。 面白かったです。毎日更新ありがとうございます。いつも楽しく読ませていただいてます。
[一言] 毎日更新お疲れ様です! ざまぁ編、主人公の前では見せないルキフェルの顔が見られそうです
[良い点] ざまぁ回でスカッとしています! 熱々の紅茶を飲むがいいよー! この後の二人の幸せな日々も楽しみにしてます。 ヤンデレよきです。
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