機械仕掛けの戦乙女6
風化した瓦礫の山が埋もれる広大な砂丘。
荒廃し既に何者も住まうことないかつての都市文明の成れの果てが横たわる。
砂舞う地表を三人の美少女が、すれすれに高速飛行する。
ノウェム、トリア、セプテの三人の少女型アンドロイドたち。
「この数キロ先に『核』を発見した場所がありますが………どうやら敵も目的は同じ。素直に通してくれないみたいですね」
砂の中から次々と現れる昆虫を模したロボット兵器の軍団。
蟻、百足、蟷螂、蜘蛛、蜂、蜻蛉、様々な蟲型機械の大群がノウェムたちの行手を阻むように編隊を組み、立ちはだかる。
「出たな、ウジャウジャと雑魚ども。よ〜し、ノウェム、セプテ。ここは、オレに任せなっ!兵装『レーヴァテイン』ッ!!」
トリアが右手を高く翳すと、その手に紅い騎士剣が出現する。
「何処までも激しく、熱く、燃え滾れっ!!」
紅い騎士剣が輝き、揺らめく炎が刀身を覆い尽くす。
すると炎剣は見る見るうちに真っ直ぐに天空にぐんぐんぐんぐん伸び上がり、瞬く間に切っ先が見えなくなるほど長大化した。
「どっりゃああああああああッッッ!!!」
そしてそのまま燃え盛る超超長特大の炎剣を振り下ろすトリア。
凄まじい熱波の暴圧が地表に着弾し、無数の昆虫兵団が一瞬にして蒸発し掻き消える。
「まだまだまだああああああッッッ!!!」
特大炎剣を大きく横に薙ぎ払い、遠く地平線上のインセクターの大群をことごとく焼き尽くす。
「………相変わらず馬鹿みたいなデタラメな威力ですね。貴女の兵装は。攻撃の余波がこっちまで来てますよ。仕方ないですね。兵装『瑠璃瓶』」
ノウェムが顰め面しながら、ピットを召喚しバリアを張り、自身とセプテを覆い護る。
「ん。トリアは脳筋頭。何度言ってもすぐ忘れる鳥頭」
セプテがノウェムの背後に隠れて顔をちょこんと出して文句を言う。
「うりゃうりゃうりゃうりゃああああっ!!幾らでもかかって来やがれってんだ、何度でもヴァルハラに送ってやるぜ、虫野郎どもッッッ!!!」
縦横無尽に炎剣を振るい、インセクターを屠り続け無双するトリア。
一振り斬り払う度に数多の敵が灰塵と化し消滅する。
しかし敵は破壊される側から次から次へと無尽蔵に出現し、一向にその数が減る様子が見えない。
流石にこのままではラチが開かない。
「はんっ、数だけは一丁前に用意してるんだな。だけど、オレには通用しないぜ。兵装『グングニル』」
無限に湧き出る昆虫機械たちにノウェムはニヤリと口端を吊り上げ、右手に持つ炎剣とは対になるよう左手を高く翳す。
その手に禍々しい輝きの渦が収束し、螺旋状に捩じり曲がりくねった巨大な黒槍が出現する。
「あっ。アレを使うつもりですか。ヤバイですね。セプテ、ボクから離れないでくださいね。巻き込まれて死にますから」
「ん。分かってる」
ノウェムの召喚したピットのバリアの濃度が厚く上塗りされて強化される。
「………すべては、黄昏に還る泡沫の残滓。無尽の彼方に消え失せやがれ、ゴミ虫ども」
左手に掲げた大槍をゆるりと投げ放つノウェム。
投擲された螺旋の黒々しい槍が明滅しながら、敵陣の中へと吸い込まれる。
そして────
中心部から輝く黒い光が発生。
それが徐々にドーム状の形に急速化、巨大な恐るべき大きく渦を撒いて並居る敵を片っ端から呑み込んでいく。
それは地表に顕現したブラックホールそのもの。
音も、光も、大気も、周りのあらゆるモノを無尽蔵に黒色の渦巻きが塗り潰して、すべて喰らってゆく。
砂塵も敵も区別無く貪る暗黒色の大嵐。
ノウェムの召喚したピットのバリアがバチバチとエネルギーを弾き発して干渉を防ぎ耐え凌ぐ。
やがて黒い渦は緩やかに収縮し、静かにその役目を終え、小さな球体と変わり、溶けるように宙に消え去った。
吹き荒れていた暴風流は止み、後には見慣れた荒廃した砂塵の情景と、
数キロ範囲に渡る巨大なクレーターの穴底が広がっていた。
「あ〜、ちょっとやり過ぎたかな?」
頬をポリポリと掻き苦笑いするトリア。
「まったく………手加減を知らない人は、これだから………」
兵装のバリアを解除し、ノウェムがやれやれと頭を振り溜め息を吐く。
「なるほど。地下に埋まっていた核兵器をこうやって掘り出した。ん。トリアが悪い」
セプテが無表情のジト目でトリアを見る。
「はっはっはっ!まあ、敵は殲滅したし、結果オーライオーライっ!先を急ごうぜっ!!」
全然反省していない様子のトリア。
親指をグッと立て、爽やかスマイルでパチリンコと軽くウィンクし、笑った。
ノウェムとセプテの二人は、顔を見合わせて深く溜め息を一緒に吐いた。