機械仕掛けの戦乙女5
「その発言の意図はどういうことでしょうか。詳しくお聞かせください。ノウェムさん」
メガネのフレームをくいっと上げ疑問を発言の主の少女に問うウヌス。
「はい。インセクタによる散漫的な単調思考ドクトリンパターン。それはこれまでの通りなんら変わりありません。しかし複数の兵器生産施設を拠点とし誘発する彼らの今回の動きは同じように見えて異なります。注目するのはこの区間域に集中していることです」
ノウェムが細い指先で敵の赤く点滅する予測行動範囲を示すと、三角形になる。そのどれもがシティから随分と遠く離れている。
「ん?なら最初の目論見通り、ヤツらは間違いなくアタシらを遠ざけて本命のシティを狙ってくるんだろう。だったら問題ない。シティの防衛は完璧だ。アイオーンシリーズ最強のあたしが護っているからな」
セクスが余裕綽々自信満々に答える。
「へ〜、最強〜?あんたがね〜、聞き間違いかしら。オツムが脳筋最強なだけなんじゃないの?超ウケる。ぷークスクス」
「あっ?……なんだあ、テメェ。さっきからやけに突っかかりやがるな。クァットル。インセクタの前にテメェからスクラップにしてやってもいいんだぜ?」
「ふんっ!……上・等っ!!あんたがアタシに勝てる要素が1ナノミクロン単位もあるかしらねっ!!」
セクスとクァットルが互いに間近に睨み合いバチバチとリアル火花を散らす。
「はいはいはい〜。ふたりとも仲良いのはわかりましたから〜。ノウェムちゃんのお話の続き聴きましょうね〜」
オクトパがニコニコ微笑みながら、ふたりの間に入り仲裁する。
「………えと、この間の任務ではトリアと合流して南西地区のインセクタを殲滅したのですが………」
「おう。確かにあの時オレはノウェムと一緒だったな」
ノウェムの話にトリアが顎に手を当て思い出しながら頷く。
「南西地区の廃棄工場群跡地は今はガラクタだらけです。ただ一箇所を除いて」
「ふむ?何かありましたか?」
「あぁ〜、あれか?ちょっちオレが張り切り過ぎてデッカいクレーター作っちまってなぁ」
「まあ、問題はそのトリアが空けたクレーター内から見つかったんです。いや、見つけてしまったという方が正しいでしょう」
「………それは一体、何を見つけたと?」
「旧時代の負の遺産『核』です」
「「「「 !!? 」」」」
その場の全員が驚愕する。
核。
それは1000年前以上に旧世界で数多く使用された恐るべき破壊兵器。
すべてを焼き尽くし、すべてを滅ぼし尽くす悪魔の武器。
一度使用されれば、あらゆる生物は生命活動の連鎖を閉ざされてしまう。
人類が永きに渡り新たに生まれず、死に絶えて久しいことがそれを如実に証明している。
「………見つけたという、それが本物の核ならば、大変な重要案件となりますが………何故すぐに報告しなかったのですか?ノウェムさん。返答次第では規律違反として重罪ですよ?」
「それは………」
「おっと、オレを庇うのはもう充分だぜノウェム。見つけちまったのはしょうがねえ。それにアレには誰も近づくことは出来ないからな。今んところは」
トリアが真面目な表情で訝しげにするウヌスの前に立つ。
「………どういうことだ?核はすべて過去に各国の条約で完全に廃棄処分されたとデータベースには記載されているが………」
「1000年以上も地下に密かに管理されていたのがあったんでしょう。嘘と騙し合いは人類の常套手段よ。小賢しいわね、人間ってホント」
「大変。とても大変かも。核を使われたら私たちでも耐えられない。全部壊れちゃう」
「そうだ。そんな危険な物がインセクタの手に渡ったら………」
「困ったわね〜。核か〜。反応兵器って単純だけど強力だから厄介なのよね〜」
ザワザワと少女たちが騒ぎ出す。
「ねぇ、ねえ、トリアちゃん。さっき誰も近づけないって言ってたよねー?」
「ねえ、ねえ、ノウェムちゃん。インセクタが核の存在を知っていたと思うのー?」
それまで黙っていた双子の少女たち、デュオとテュオが小首を傾げ訪ねてくる。
ざわついていた少女たちが一斉にトリアとノウェムに注目する。
「………ボクなら勝てる見込みのあるもの、使えるものは、効率よくなんでも利用して使いますね。単純にインセクタもそれは同じじゃないかと」
己れを進化させて強くなるインセクタのスタンスなら忌避された異物さえも使うのか?あり得なくもない話だが。
「まあ、さすがにそのまま放置にはしてないぜ。とりあえずもう一度しっかりと埋め直したからな。それと」
「ボクたちが接近出来ないように兵装兵器をありったけ設置してありますから。でも時間の問題かもしれません。多分インセクタたちが決起集結してる可能性が」
ダァアアンッ!
モニター台を拳でぶっ叩くセクス。
「つまりなにか?これはインセクタどもが核を手に入れるための大規模作戦だと?シティ襲撃はおとりか?あの蟲どもが?そんな知能がヤツらにあるのか?確証はあるのか?ノウェム」
「おそらくこれは進化した上位体による高度な戦略だと思われます。彼らは日々常に自己進化を繰り返しています。一般のインセクタより優れた個体が出現したかと。手遅れになる前に先に核を我々が手に入れるべきだと進言いたします」
ノウェムが凛としてウヌスに発言する。
「ならば話は早い。奴らより前に手中に収めればいいだけのこと。隊長、出撃の許可を。私が出よう」
腕組みしていたウィンデがウヌスへと出撃を求める。
「待ちなさい。わたくしが出向きますわ。核はとてもデリケートな兵器。扱いには十二分な対策が必要ですわ。ならば繊細なわたくしの出番ですことよ」
クィーンレが名乗り出る、が
「ここはすでに現状把握しているトリアさんとノウェムさんにお願いします。彼女たちは現場を指揮して対応してもらいます。ウィンデさんクィーンレさんは東西地区を。セクスさんクァットルさんは北東地区を。ディケムさんとオクトパさんには西南地区をお願いします。残った方はシティ防衛をお任せします」
ウヌスがメガネをくいっと持ち上げそれぞれに持ち場を告げる。
「んゲェっ!?あたしがこいつと?性格最悪の根性ブスとっ!?」
「はあああっ!?最悪のなのはこっちなんですけどぉっ!?なんでアタシがこんなヤツとっ!!」
セクスとクァットルが互いに文句を言い合う。
「はい〜。では、私たちは担当する場所へと向かいましょうね〜」
ディケムとオクトパがいがみ合うセクスとクァットルを押していく。
「いたし方あるまい。現場へと赴くか」
「まぁ隊長命令なら仕方ありませんわね」
ウィンデとクィーンレが頷き合う。
ブリーフィングルームからみんなが退出していく中でウヌスがトリアとノウェムに声を掛けた。
「トリアさん、ノウェムさん、少しお話しがあります。よろしいですか?」
「ん?なんだよ、隊長さん」
「………任務のことですね?」
ノウェムが何かしらに勘付いたようだ。
「ええ。今回の貴女たちの任務ついて彼女も同行してもらっていいですか?セプテ、頼みますよ」
「ん。頼まれた」
いつの間にかウヌスの背後からヌイグルミを抱いた幼女が顔を出す。
「彼女の能力は必ず役に立ちます。三人とも気をつけて」
見送るウヌスがじっとノウェムの後ろ姿を見つめる。
「………ノウェムさんの戦略的思考、高度な知能、他のアイオーンにはない知識………何故、彼女のブラックボックスだけ解析出来ないのでしょうか………興味深いですね………」
ひとりブリーフィングルームに残るウヌスが小さく呟きを放った。