機械仕掛けの戦乙女3
「ノウェム。お前、また一人でボーッとしてたのか?相変わらずボッチだな。そんな寂しいお一人様にオレから素敵なプレゼントをあげよう」
トリアと呼ばれた燃えるような色合いの赤い髪をワイルドに逆立てたショートカットのボーイッシュな長身の美少女。ノウェムと呼んだ銀髪少女と同じ白を基調にしたハイレグレオタードな際どいコスチュームを身に付けている。
ただ出るところはかなり出て引っ込むところは引っ込んでるメリハリの効いたナイスボディである。トリアが何処からか派手なロゴが入った金属製の円筒形の物体を取り出す。
「缶ジュース?」
そう、それは自動販売機などで売っているアルミ製の容器に入った飲み物だった。
でもそれは人間が摂取するためのものであり、ボクたちが飲んでも僅かなエネルギーにしかならない無意味なモノ。
「いや〜、いつも買ってる自販機に当たりが出てさ。二つはさすがにいらないから一本やるよ」
そう言ってホイっと投げて寄こす。
「あ」
ボクはそれを両手でキャッチする。
ヒンヤリとした感触が手から伝わる。
「………冷たい」
プシュッとプルタブを開く音が隣りで聴こえる。見るとトリアが腰に手を添えて仁王立ちし、ゴクゴク一気に飲んでいた。
「ぷっっっはああああ――――ッッッ!!!美んん味いぃぃッッッ!!!」
ボクもプルタブを開ける。プシュリと空気が抜けて冷気と甘い香りが漂う。
唇につけて缶を傾け中の液体を口内部に含むと、舌部味蕾模倣器官にシュワシュワした弾ける刺激と感触と甘さが喉を通り過ぎていく。
そして擬似咽頭器を抜けて体内部に到達した液体は徐々にエネルギー物質に活動燃料として変換され燃焼され続ける。
やっぱり意味は無い。
どんな食べ物も飲み物も『ボクたち』には意味を為さない。
例えこの身体が破壊されて今のボクが死んでもフィードバックされたブラックボックスのデータからまた新しいボクが造り出される。
何度も。
何度でも。
こんな感情には何の意味も無い。
でも。
「美味しい………」
そして懐かしい味だ。
「やっぱ美味いだろ?ニンゲンはずっと昔こんな良いもん食ったり飲んだりしてたんだろう?まあ、今はもうひとりもいないけどな」
トリアが皮肉げに笑い残りを飲み干して空き缶をスポーンと後ろ手に投げる。
遠くの方で放物線を描く空き缶をゴミ掃除ドローンが素早くキャッチして収納廃棄する。
ボクも残りを飲み空き缶をベンチの横にあるゴミ箱に捨てる。
ピピッ
「お、通信か」
ボクとトリアの目の前の空中にモニターが出現する。
『全機アイオーンシリーズに告ぐ。直ちにブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す。全機アイオーンシリーズに告ぐ。直ちに………』
「ありゃりゃ、また任務かよ。休む暇ないな。ハァ〜行くしかないか」
「仕方ありませんよ。それがボクたちの仕事ですから」
トリアはやれやれと溜め息を付く。
ボクはベンチから立ち上がり街中央にそびえる管制塔を見上げる。
また機械の兵隊たちとボクらは戦うのだろう。
もう護るべき主人がいない街を護るために。