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機械仕掛けの戦乙女2

 








 フォールセンターイマジノスファクトリーシティ。


 近未来的な様相の未来都市は数万の人口を許容できる規模と安全性と利便性を誇り、そこに住む人間たちを快適に住まわせるために緻密に設計されている。


 ゴミひとつ落ちていない車両が無い中央道路にチカチカと点灯を繰り返す信号機、緑溢れる針葉樹の並木街、華美に建ち並ぶショッピングモールに軽やかな音楽が流れ、集合住宅を想定したハイソなビル群、煌びやかな噴水がある長閑な公園。


 しかし人の気配は微塵もなく、時折落ちてるゴミらしきものを処理する箱型の清掃機械が通るだけだ。


 そう、この都市に人間はいない。


 この都市どころかこの世界には人間は存在していない。


 人間はすでに絶滅した過去の遺物なのだ。


 なのにこの都市は人間が暮らすためだけに造られ、今なお住む者がいないのに稼働して管理している。


 その誰もいない公園に銀髪の少女がベンチに腰掛けて空を見上げ、都市部を覆う防衛シールドに映る今は見え無い青い空と白い雲のビジョンを眺めている。


 流れる腰先まである煌めく銀髪、真っ白な白磁器のような滑らかな肌、髪色と同じ輝く光沢を持つ銀の瞳。


 身体を覆うピッチリとした曲線のラインの面積の少ない大胆な白いハイレグレオタードが少女の年端もいかない女性的な形を艶やかに浮き出す。


 少女は自分の手をかざし、ホログラムで作り出された太陽の擬似光に当てる。


 細い指だ。


 白くて小さい。


 白魚のよう、とはこういうのを言うのだろう。


 身体を見る。


 華奢な手足、僅かに丸く膨らんだ胸、くびれた腰、丸いお尻、生前あった男の象徴はすでに見受けられない。


 女の子の体。


 しかしてこの肉体は小さな部品の集合体で構成されている機械なのだ。


 まるでかつての人間だった時のように感触や痛みを感じることが出来る。


 基本的にもうこの身体では意味は為さないが食べ物や飲み物も摂取することも可能であり、排泄はしないが取り入りれたものは分解され活動エネルギーの一部とされる。


「……不思議な感じです」


 少女は小さく可愛らしい高いソプラノボイスでポソリと呟き、先程闘った戦場での出来事を思い出す。


 感覚的にはまるでテレビゲームのロボットを操作するパイロットなのだが、操る機体は自分自身のこのちっこい少女の身体なのだ。


「……死んだと思って目覚めたら機械の、それも女の子になってるとは、ボクも正直なところ驚きましたが」


 抑揚のない淡々とした綺麗な声で過去映像を脳内再生する元少年は、されど一切冷静な自らの心境に波立たない僅だが女を主張する胸の中心に手を当てる。


「……滑稽ですね。機械のようにただ生きてきたボクが今度は本当の機械になって生きているんですから」


 いや、機械だから生きてるとは言わないかな?


 この身体に一切血は流れておらず心臓にあたる部分には破壊されない限り肉体を何度でも自己修復するコアがあるだけだから。


 銀色の眠たそうな細目をさらに細めて、少女、元少年は戦場で高ぶった心、そう定義していいのか解らないが、あの高揚さが唯一生きてる証を実感させてくれていたことを考える。


 人の波に揉まれ進学校に通う電車、競い合う成績の序列に勤しみ励むクラスメイト、見栄と体裁にプライドだけが高い大人の都合のいい社会、それらに庇護というなの枷を嵌められ定められた標識に沿って真っ直ぐ歩いていく自分。


 たわいない話で盛り上がる友人、たまに遊ぶ新作のゲーム、誰これの恋愛談義、見て見ぬ振りするイジメの現状、誰も彼も波風立てず安寧に堕廃した生活を享受する日常。


 大量生産される製品が流れるコンベアから外れた規格外のモノは大体廃棄だ。


 まともに稼働しなくなった機械はコスト削減のため直されることなく処分だ。


 皆んなが歩く列からはみ出したら最後、もう元の順番には並ぶことは出来ず、戻れない。


 それがたまたま自分だった。


 15歳で人生から早期ドロップアウトした。


「受験戦争の次は機械たちとの戦争とは皮肉ですね」


 言うことを聞く生きた機械人形が命令をトレースする本物の機械人形にすげ変わっただけなのだ。


「……でもあの感じはとても……」


 目を瞑り戦いの感覚をトレースし、己の内に重ねる。


 いくら壊されても直るとはいえ、コアが負傷、ましてや破壊されれば流石に機能停止、死んでしてしまうだろう。


 でも敵とされる対象を黙々と圧倒的な能力で、自らの生み出した力で処理していくのは実に楽しかった。


「……自分にこんな暴力的な感情があったなんて知らなかったですね」


 少女は少しだけ口の端が歪むの感じて違和感に手をそえる。


「……ボクは、笑っているのですか?」


 少女は自らの行いに不思議そうに首を傾げた。


「おーいっ!ノウェムっ!こんなとこにいたのかっ!」


 快活な良く通る声が公園内に響く。


 銀髪の少女は自らの名を呼ぶいつもの聴き覚えある喧しい声に、ふうっと小さく息を吐いた。


「……またアナタですか。どうして毎回ボクの居場所がバレてしまうのでしょう。ボクの知らない高度な感知機能と追跡機能があるのでしょうか、トリアさん」


 銀髪の少女が腰掛けるベンチの場所に背の高い赤い髪をショートカットにザンバラに切り揃えた美少女がニカッと笑いながら近づいてきた。










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