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機械仕掛けの戦乙女

 





 



     人の世に罪あらばこそ



     神の慈悲たる思し召しなれ



     おお、天なる我らが主よ





          マタイ福音書17節5章














 多脚の蜘蛛型戦車の無人兵器が砂と荒野と退廃した横たわるビルディングの残骸の大地を埋め尽くし、長い砲塔から次々と爆撃を繰り返す。


 生物のような節足の光沢ある関節装甲を気色悪くシャカシャカと前後する。


 本物の蜘蛛さながらに素早い動作で前進し、背部に設置されたロングバレルキャノンから幾つも砲弾を撃ち放ち、ランチャーからもミサイル群の雨を降らす。


 数えきれない弾幕の嵐が地表にどんどん降り注ぎ、目も眩む閃光と爆炎を上げて大地を焼き焦がす。


 その黒煙が捲き上る中を平然と直立する人物がいる。


 長い銀色のキラキラとした腰先まである美麗な髪が爆撃の爆風になびいて流れる。


 肌は絹のごとく白くきめ細かく滑らかで真珠のように煌びやかに光沢を纏う。


 白亜の大胆な切り込みが入ったハイレグアーマーを装備し、ささやかながらも綺麗な形の丸みを帯びたバストを包み込む。


 括れた直ぐにも手折れてしまいそうな引き締まった細い腰周り、小さいながらも魅力的な蠱惑的なラインを描くヒップ。


 側頭部に二本のアンテナ状の突起を持つ小柄な体型の少女は爆音鳴り止まない周囲の状況にも全く意に介さない。


 その髪と同じ銀色の瞳を微動だにせず、桜色の可憐な唇から可憐な声色を凜然と紡ぎ出す。


「兵装『万刃車(ばんじんしゃ)』」


 白亜の少女の周囲の空間が歪み、巨大な円盤状の金属板の物体がいくつも姿を現わす。細かな刃が取り付けられた丸鋸チェーンソーのような機械的なそれらは唸りを上げ高速回転しながら物凄い勢いで飛翔し滑空していき、次々に蜘蛛型戦車を真っ二つに両断し破壊する。


 切り刻まれ破壊される蜘蛛型戦車の真上、曇天の空から雲の合間を縫って今度は蜂の形状をした飛行兵器が耳障りな羽音を立て無数に束となって襲撃してくる。


 腹部から機銃とミサイルの雨を降らしやってくる蜂型の飛行兵器団に白亜の少女は特に関心を示すこととなくチラリと上空に視線を移し言葉を紡ぐ。


「兵装『風火輪(ふうかりん)』」


 少女の両足側部の元に丸い形状のユニットが出現するとバーニアのように蒼炎を吹き上げ少女を中空へと高く押し上げ飛翔させる。


 襲いくる弾幕とミサイルの群れをことごとく鋭角に軽やかに躱し、両脚のバーニアが加速して一気に少女が蜂型飛行兵器群に肉薄する。


「兵装『乾坤圏(けんこんけん)』」


 少女が両腕を広げ、小さな拳を振り上げると華奢な細い腕に二対の巨大な無骨なシールドガントレットが出現し装着される。


 そのまま殴りつけると装甲が爆炎を吹き上げ射出し蜂型飛行兵器を一瞬で破砕して周囲に飛翔する他の蜂型兵器を巻き込みながら錐揉み回転して敵を追いかけ破壊し飛んでいく。


「兵装『火竜鏢(かりゅうひょう)』」


 少女の身の丈以上に巨大な鋭利な刃を持つブーメランが現れてスラスターを噴き上げ、炎の渦を描き高速回転し蜂型兵器群を次々と切り裂いていく。


「兵装『火尖鎗(かせんそう)』」


 続けざまに現れた長柄の長槍を構えると勢いよく敵陣のど真ん中に投げ放なてば、長槍は白熱化して輝き大爆発を起こし羽蟲型兵器を纏めて破壊する。と、瞬時に少女の手元に長槍が現れ、手元に戻った長槍を再び敵陣に叩き込み大爆発させる。


 回転する炎のブーメランが次々と敵を焼き切り裂き、少女の周りにホーミングするガントレットが少女を襲おうとする敵を破壊する。


 地上ではいくつもの巨大な丸ノコチェーンソーが戦車群を破壊して無力化している。


 しかし黒波となり空と大地を埋め尽くす蟲型の機械兵団は数が増すばかりで一向に減る様子はない。



「兵装『雷公鞭(らいこうべん)』」



 少女が抑揚のない可憐な美声で囁くと、少女の周囲にいくつもの球体状の大型のビットが出現し、ヒュンヒュンと緩やかに回り始める。


 次第に回る速度が増していき、やがてバチバチと蒼白い放電磁場を発生させる。それらは少女ごと包み込んで明滅する巨大な球体のバリアの煌めきとなった次の瞬間、少女の上空の暗雲、地上を隠す砂埃が衝撃波で吹き飛んで盛大に晴れ澄み渡る。


 バリアを伴った蒼球から放たれた無数の蒼雷が群れをなし徒党と隊列を組んで飛行する羽蟲型兵器群に幾重にも突き刺さり貫通した。


 蒼い球体を中心にして稲光りの轟音とフラッシュのように眩ゆい光が地上に舞い降り放たれ穿ち、高熱により蜘蛛型戦車が融解し、同時に居並ぶ同形機ごと木っ端微塵に連続して誘爆し吹き飛んで巨大なクレーターがいくつも出来上がる。


 黒く染まった天蓋に暴れる蒼い龍蛇の多頭のごとく明光する稲妻がその身を猛りくねらせ大地を蹂躙し薙ぎ払う。


 大輪の絶火を迸らせ、遅れて響く腹に溜まる鈍重な雷音を引き連れ、空を覆い縦横無尽にあまねく舐め尽くす。


 蟲型機械兵たちは瞬く間に噴煙を燻らせるだけの焼け溶けた金属片の塊りと瓦礫の山のスクラップと成り果て、砂と荒野とビル群を墓標とし地表に埋もれていった。


 淀む空は曇天から真っ青な雲ひとつない晴れ晴れと快晴へとなった。









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