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とある国の貴族学校の講堂。そこでは二人の少女が他の生徒達から遠巻きに囲まれながら言い争っていた。

「婚約者のいる相手に色目を使うなと言っているの。母国語が理解できるほどの知能もないのならさっさともといたごみ溜めに帰りなさい」

冷たく吐き捨てたのは眉をつり上げた赤髪の美少女、公爵令嬢のシンディだ。彼女の後ろに控えるは華やかなドレスに身を包んだ女子生徒数人。筆頭のシンディを含め、彼女達は上級貴族の令嬢だった。

「そんな言い方あんまりよ!私は皆とお友達になりたいだけなのに!」

シンディと対峙するのは彼女とは正反対の儚げな金髪の美少女、子爵令嬢のローレンス。

ローレンスの隣に並ぶは数人の貴族令息。シンディの後ろに控える貴族令嬢達の婚約者であった。

なぜこんなことになっているのか。

理由は簡単。ローレンスが貴族令息達に色目を使いたぶらかしたのだ。彼女いわく「みんな私の大事なお友達なの」だそうだが、そのお友達それぞれに「あなたは私の運命の人だわ!」などと言ってその気にさせ、時には親密な関係を持ち侍らせている事を傍観している生徒達は知っていた。

それを良く思わないシンディがローレンスに突っ掛かって行ったのだ。一見すれば非はローレンスにあるように思えるがそうではない。


「元はといえば最初に私を苛めてきたのはシンディさんでしょう!私の教科書をボロボロにしたりわざと転ばせたり!階段から突飛ばそうとしたり!」

「下級貴族が上級貴族にそんな口をきいていいと思っているの!?」

「下級とか上級とか関係無いわ!悪いことは悪いって親御さんに習わなかったの?人の嫌がることをしてはいけない、なんて世間一般の常識よ」

「なんですって!?だったらあなたのしてることはどうなのよ。婚約者のいる男性ばかりを侍らせて、まるで娼婦のようで汚らわしい!どの口で常識なんて言えるのよ、厚顔無恥とはこの事だわ!」

「そんな言い方……!あなたみたいなのが次期王妃様なんて、きっとこの国は滅びるわ!」

「口を慎みなさい、この娼婦が!」

「何よこの陰険女!」


「何事だ騒々しい」


縄張り争いでもしている動物のような罵り合いを遮ったのは威厳のある落ち着いた声だった。

対峙していた集団を囲んでいた生徒達がさっと道を譲ると黒髪の青年が姿を現す。彼こそはシンディの婚約者であり王位継承者第一位のリディア王子だ。

生徒の一人が彼女達の言い争いを止めてほしいとリディアを呼び出した。

「リディア殿下……!」

「リディ!」

シンディは慌てて頭を下げるがローレンスはぱあっと顔を綻ばせ、親しいものにしか許されない愛称を呼ぶ。シンディがキッと睨むが全く気にしていない。

「ここは学びの場所だ。言い争いがしたいのなら貴族裁判でも開いてそっちでしろ。他の生徒や教師に迷惑をかけるな」

静かだが鋭い声にリディアがどれだけ怒っているかが嫌でも分かる。

「……ですが殿下!このローレンスが婚約者のいる男性に言い寄っているのは事実ですわ!実際、殿下にも言い寄ってきたではありませんか、その現場を何人もの生徒が目撃していますわ」

リディアから放たれる威圧感の中、シンディが言葉を発する。リディアはため息をつくとローレンスに視線を向けた。

「……その事だが、私の叔父上……この学校の理事長より決定があった。ローレンス嬢の不純異性交遊はこの学校の風紀を乱す。身分の関係なく人と仲良くなれるのは良いことだ、だが体の関係があればそれはただの不純異性交遊に他ならない。よってローレンス嬢は本日を持って退学とするそうだ。後程、担任教師から正式に通達されるだろう」

「……っそんな!」

リディアの発言にローレンスに侍っていた男子生徒達は一斉に疑いの眼差しを彼女に向ける。

「ローレンス、嘘だろ……?あんなに俺だけを愛してるといってくれたじゃないか」

「俺には『あなただけが運命の人だ』と言ってくれたのに……裏切ってたのか!?」

「僕だけが本命だよなローレンス。他のやつらは遊びだったんだろ、なぁ、なんとか言ってくれ」

「俺達全員を弄んでいたのか……?」

「違うの!皆、誤解よ!……酷いわ、リディまで私のことそんな風に言うなんてっ」

この期に及んで泣き出し濡れ衣を主張するローレンスにリディアは淡々と告げる。

「身内でもないのに愛称を呼ぶな。泣いてごまかそうとしても無駄だ、理事長はローレンス嬢の素行を全て調べあげて証拠も確保している」

その言葉にローレンスは目を見開いて小さく震え出した。心当りしかないのだろう。

「そこの貴族令息達の浮気に関しても、だ。婚約者のご令嬢達の実家から正式に婚約破棄、または解消の申し入れがあるだろう。婚約破棄または解消された事により没落する家もあるだろうが……まぁ、自業自得だな」

先程までローレンスに詰め寄っていた男子生徒達は顔面蒼白になり立ち尽くしている。中には助けを求めるようにシンディ側にいる自らの婚約者に視線を送る者もいたがもちろん助け船が出される事はない。

ローレンスへの処分に気を良くしたシンディは満足げな顔でリディアに近付いた。

「流石はリディア殿下ですわ」


側に寄りその腕に触れようとした瞬間、パシンッとシンディの手は叩かれた。


「シンディ、お前との婚約は一週間も前に解消されている。気安く触れるな」

「解消……?そんな冗談面白くありませんわよ?」

困ったように微笑むシンディとリディアは距離を取ると制服のポケットから王家の紋章が入った用紙を取り出してそれをシンディの目の前に突き付けた。

「シンディ。お前が使用人や下級貴族に行っていた躾という名の残虐行為についても調べがついている。それだけではない、お前がこの学校内で行っていた窃盗について被害者貴族から訴えが届いている。こちらは国王陛下が直々に調べて証拠を揃えている、これから裁判だ。覚悟しておけ」

「リディア殿下……何かの間違いですわ!この私がそのようなことする訳が…っ…」

シンディが言葉を続けるまもなく兵士達が現れて彼女を取り囲む。

ローレンスが訴えていたシンディからの嫌がらせは全て事実だった。それだけならまだしもシンディは学校内で他の生徒の持ち物を盗み出しまるで自分の物のように使っていたのだ。

被害届けとして提出されたのは音楽愛好会所属の女子生徒の楽器、下級貴族の女子生徒が大事にしていたブローチ、教員の愛用していた万年筆。それだけでなく定期試験の問題集まで盗んでいた事実が国王の調べで明らかになっていた。

他にも躾と称して使用人や気にくわない下級貴族を階段から突き飛ばしたり、馬用の鞭で叩いたり、重い本で頭を殴りつけたり、ペン先で手を刺して怪我をさせたりしていたようだ。

犯人が身分が上の貴族と言うこともあり被害届けを出せない者も多くいた。

それを踏まえて国王はリディアとシンディの婚約解消を決定した。本人にはそれが通達されていなかったようだが。

シンディは茫然自失のまま兵士達に連れていかれた。残されたローレンスは退学処分を伝えにきた教師に連れられて行く。すぐにでも子爵家に送り返されるようだ。

シンディとローレンスの言い合いを眺めていた生徒達は二人の処分を聞いて散っていった。この場に居ない者達に伝えに行ったのだ。夕方には今日の出来事を全校生徒が知ることになるだろう。それだけ貴族間の情報は伝わるのが早い。


「……待たせたな」


ふとリディアがこちらに向かって歩いてきた。

私はいいえ、と首を横に振る。

「この場を納められるのは殿下しか居ないと思いお呼びしたのですが……今さらになって先生方をお呼びすべきだったと反省しております」

「気にするな。私も彼女達の問題を自分の手で片付けるつもりだった、理事長の甥としてもな。ところで……私を頼ったと言うことは期待していいのだろうか」

言葉の意味が分からないというように少しだけ首を傾けて見せるとリディアは気まずそうに視線をそらした。

「……婚約の件、だ。母上が絶対君でなければと……どんな時も冷静で情に厚い君ならば妻としても母としても……王妃としても申し分無いと………それに、だな。私としても君に王妃になってほしい」

「国民のために、ですか?」

まっすぐにリディアを見つめると彼は迷わず頷きぽつりと小さく呟いた。

「それもあるが……私の為にも。私は君と生涯を共にしたい」

先程の凛々しい姿は何処へやら、蚊の鳴くような小さな声だったけれと私にはしっかり届いた。

「私でよければ喜んで」

微笑みながらリディアの手を取れば彼は幸せそうに笑ってくれる。






やっとだ。

やっと彼を手にいれた。




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