錠後師の話
俺はこの世界を背負っている、だから目の前の彼女を開けなければならない。
◇◇◇◇◇
「おおー! ついに聖鍵が保有者を決めたぞ!」
「ついにか! これで忌々しい奴らを滅ぼせる!」
欲にまみれた声が俺の周りから聞こえてくる。裕福な生活、怠惰的に動く生活、自己欲求に従って生きる、そんな奴ばかりだ。だが俺を囲んでいる奴らにそんなことを直接言おうが誰かにそのことを言ってそれがこいつらの耳に入れば俺以外の人間に迷惑が掛かる。そう俺以外に。
俺はこの国が待ちわびていた聖鍵に選ばれた。
この国……いや、この世界は鍵と錠に縛られている。ある日突然この世界に錠が多く現れるようになった、最初は誰も気にしたりなんてしなかった、錠なんて物は元々ある物だし当然だ、だがあるとき否が応でも反応せざるを得ない出来事が起きた。自分たちの家に知らない錠ができはじめたのだ。当然俺達の祖先は驚いた、だが所詮は錠、『壊せる物』だと思い直し錠を壊そうとしたが誰もその錠を壊すことなんてできなかった。まずは家に入ることができなくなった人が多く出た。
その次は運良く家に錠が掛からなかった人達の生活に錠の被害が出た。タンス、キャビネット、トイレのドア、と続々と、更にヤカンの蓋や本にも錠がつき始めてしまった。
人に影響を出すだけでなくこの世界の動物たちにも影響が出てきていた。ひとりでに動き出す錠が動物たちを固め自身で錠をするという奇妙な出来事があった、最初は変な形で固まるだけだと思われていたがゆっくりとゆっくりと時間をかけて本質を変えてしまっていたのだろう。固まっていたはずの動物はその内動き出し暴れ、身体から錠を生成し自分と同じような状態にするということもあった。そんな動物をカギブツと言い人々は心の奥底からその存在に怯えた。
だが騒動はその内解決に動けるようになるときが来る。
この騒動も解決に動き出す時があった。この世界に鍵を持ち人々の為に戦う者達が出てきた。カギブツを退治し更に家に掛かってしまった錠を開けるという当時では神の御技とも思える行動を見た人は彼らを尊敬を込め鍵者と呼び崇めた。
そして時が経てば彼らのように鍵を持つことは当然のようになった。今では錠も鍵も普通に受け入れられ錠という脅威が出現する前よりも人々の営みは栄華を極めることになった。鍵を多く持つことで人より優れることができると知れば多くの人が鍵を求めた。鍵は普通であれば二本現れる。一本目は五歳の誕生日に現れる、その鍵で開けることができるのは家につく錠のみ。成人になるともう一本、人と人の関係を締めようとしてくる錠を開けることができる。普通に生きていればその二本だ。
だが人は欲深い、鍵は所有することで自身の身体能力を上げることに気がついた、それを知れば人は他者から奪おうとし出す。結果、家に入ることができなくなる人がまた現れるようになり自然と貧富の差というものができてしまった。
悪は滅びるというが人には適用されないのだろうか?
安定しだした世界に悪を滅ぼすためなのか、鍵ではなく錠を持つ者が現れた。カギブツに似ているが大きく違う、人の見た目に理性をしっかりと持っている、人々はそんな存在を閂者と呼んだ。閂者は必ず人に襲いかかってくる。人々は錠という存在の恐ろしさを再認識しながら緩やかに衰退していくかと思われていた。だがまた世界を救う者が現れた。普通の鍵を所有するだけでは相打ちできれば善戦、悪ければ固められるさせられてしまう。だが彼は違った。彼は光輝く鍵を振るい閂者を倒していった。多くの命が彼に助けられ、多くの人から慕われた。彼は多くの閂者を倒した後自身の鍵を地面に突き刺しどこかに消えて行ってしまったらしい。そんな彼を勇者と呼び彼の持っていた鍵は聖鍵と呼ばれた。
それから何百年も経った今、また人々は恐れている。一人の閂者に対して。
閂者は勇者によって数が少なくなったがゼロではない、数少ない生き残りがいた。細々と生き、人に見つかることを恐れながら暮らしていた彼に光が差した。閂者を率いる存在が現れた。勇者の出現のあと多くの人が憧れ、また近づく為に努力し人は強くなっていた。だがそんな人間などものともしないで戦う閂者が現れた。今や多くの国に別れた人々はまた拠り固まるように協力体制を整えその閂者を迎え撃とうとしたがめぼしい成果など上げられない中俺は勇者の残した聖鍵を手にしている。
「君は聖鍵に認められたのだ、新しき勇者として憎き閃閂女をともに討とうではないか!」
今偉そうに話しているのはこの国の王だ。王都では戦王と呼ばれている、戦場にまで来る王という意味で呼ばれているがもちろん褒めてなどいない。勝ちそうな戦場にだけ来る卑怯者と言う意味も込められているし、戦うことなどできないのに戦場に来る厄介者という意味から来ている呼び名だ。
「いやー羨ましいですな。王国にあの閃閂女に対抗できる存在が生まれるなんて」
隣国の商国の代表が心からではなく羨ましいと言っている。
「いやいや、我らだけではかの者を討つことなどできないでしょう、商国の御力沿いがなければね」
「ほっほっほ。いやー国王様は抜け目がないですな」
俺を挟んだ上で言ってくる、心底嫌気がさす。
まずまず俺はこんなとこに来ることができるような人間じゃない。普通の家に生まれた普通な国民だ。ただ普通と違うと言えば俺は閂者を一切恨んでなどいない。
俺の親は偶々見つかった閂者が逃げた先にいて閂者によって殺されてしまったがあの場で泣き叫びたかったが俺は見てしまったのだ少し離れたところに叫びたいのに叫んではいけないと自分自身で止め涙を流し続けていた一人の女の子を。それを見たときに気づいた、閂者も家族がいて静かに暮らしているのだと、俺達人間が勝手に攻め脅かしているのだと、まだそのときは七歳だったがよく周りから大人びているって言われているからか自然とその子の所に足が向かい手を引いて離れた。最初は俺が近づくと恐怖を顔に出していたが俺は関係なしに引っ張りそこから離れた所にある家に連れて行きその子を匿った。家に着くと戸惑いながらも「もう声出してもいいよ」と言うとその子は俺に抱きついて大きな声で泣いていた。その子の泣いている声を聞くと俺も泣いてしまったけど……
そのこと一週間暮らした。そこまでが限界だった。俺は子ども、父親の親、俺からすると祖父母に引き取られることになりこの生活を終わるしかなかった。俺はその子に恋をしていたのか今も分からないけど今でもその一週間も生活は忘れない。
「王よ、新たな勇者殿はまだこの場に慣れておりません、一度引かせ差し上げても良いかと」
「うむ、其方が言うであればそうだな」
「信頼の言、ありがたき言葉です」
「皆の者新たな勇者の心労も考え一度退出させようと思う、皆の者は変わらず過ごしてくれ」
そう戦王が言うと俺の退出を進言してくれた男の人が案内をしてくれた。
「あー疲れたー」
部屋を出て少し離れるとさっきまでキリっとしていた男の顔が緩んでいた。
「顔緩んでますよ」
「あー難い言葉使わんで良いぞ」
そう言いながらガシガシと頭を撫でてくる。
「あの場は無駄だと思わんか? 無駄に言葉を難しくして分かりにくくて敵わん!」
さっきまでキリッとした印象だったのに今じゃただの近所のおじさんみたいだ。
「静かな子だな、まぁ良いがな。笑って生きろ! そんな鍵に選ばれたからって色んな物背負わんで良いからな!」
がはははと笑っている。
「別に……しゃべるタイプじゃないから……」
「お? しゃべるタイプじゃないか! でも口があるんだ、笑え笑え!」
ああ、この人はあの場にいた権力にうるさい奴とは違うな……
◇◇◇◇◇
俺が聖鍵を手にしてから二ヶ月、ここまでに何度も戦場に駆り出された、多くの閂者を倒してきた。子どもの頃に一緒に暮らしたあの子のようなさみしさを覚えてしまう子が出ると分かりながらも国には逆らえない、更に言えば国だけでなく世界中から期待されているのだから……
閂者を倒すと閂者の多くが鍵を落とす。この鍵は普通の鍵より戦うためにできている。身体能力の上がる率が多い。閂者を多く狩ろうとしているのはこれが原因なんだと思っている。クソだろ、と思いながらそれを拾って利用している俺がいる、批難しても自分に返っていくる、俺は何をやっているのか……
そう思いながら、そう考えながらもまた目の前の閂者を聖鍵で開ける。彼女の仲間かもしれない存在を。
そんな暮らしを続けていれば自然と笑うことができなくなってきた。
「おいおい! 笑え笑え! 勇者様のお顔が台無しだぜ!」
そう言いながらバシバシと背中を叩いてくるあの時のおじさんは王都で会うとどんなときでも笑顔で声をかけてくれる。多分顔に出ていないけどこの人に声をかけてもらってバシバシと叩かれている時間は俺にとってかなり心が癒やされる、まぁおじさんに会って心が癒やされてるってなんか嫌だけど実際にそうなのだからしょうがないか。
「お久しぶりです」
「おうおう、俺に難い挨拶なんぞせんでいいわ! それよりもしっかり休めや。疲れている状態で戦場にでても危ないぞ」
「俺が行かないと戦力が危ないときがあるので」
「がははは、戦力不足は言えてるがな! まぁ子どものおまんさんを出さんと勝てん俺らの不甲斐なさがあるが俺としては子どもは笑って過ごして飯食って生きるそれが大事だと思ってるからな! だから休め休め」
がはは、と笑っているこの人だが俺はちゃんと知っている、戦場でこの人が何人もの人を助けながら動いてくれているのを見ている。この人は閂者を一度も倒したことがないらしく持っている鍵は二つ。だが鍵を何個も持っている人と同じくらいの動きで戦場を駆け回っている、戦果がなく英雄として扱われないが戦場に出ている人でこの人の事に感謝していない人はいない。俺が閂者と戦う時は自然と場を開けるために動いてくれている。
「今日はおじさんは休みですか?」
「お? そうだぞ、今日は娘の結婚式だ!」
「娘さんがいたんですか」
「いるぞ! これが可愛くて可愛くて!」
おっと、面倒なスイッチを押したか……自分の娘のかわいさをめっちゃ説明してくる
「五歳の時なんか――」
「おじさん結婚式間に合わなくなりますよ」
「む! おっと、すまんすまん、娘のかわいさはまた教えてやるからな。じゃあ行ってくるわ!」
長く拘束されるところだった……
休日があれば俺は家で読書か筋トレをしている。読書は俺の趣味だが筋トレはおじさんから教えてもらった、おじさんは鍵に頼るのではなく自身の身体を鍛えることで速く動けているらしい、それを聞いてからなるべく筋トレで自分を鍛えている。
俺が戦う理由はこの世界を守る、それは本音だが一番はあの子との約束だ。
分かれる前に一つ約束した、
「私は閂者を多く率いて一つの国を作って人と和平を結ぶ! だから君は私を手伝って! 悪い事する閂者を倒して、人の中で大きな人になって私と和平を結んで」
子ども言った事でしかないのは分かっているがそれでも俺にとっては大切な約束だ。多分閃閂女を倒せば俺はこの国、もっと言えば世界に発言力を持てるはずだ。
「聖鍵、俺に力を与えてくれているんだ、その器になれるように頑張らないと」
◇◇◇◇◇
俺が聖鍵を手にしてから何年も経った。
閃閂女は閂者の集団をまとめ人の集落や街を襲うことが増えていた。俺はその度に駆けつけるが閃閂女に会うことができていない。残っている閂者は必ず倒すことはできるが元凶に会えないのはもどかしい。
「いやー娘の腹にな、俺の孫ができたんだよ! いやーついに俺なんかがおじいちゃんなんて呼ばれる日が来るんだって思うとなもう酒と涙が止まらんよ」
俺が成人するとその日におじさんが俺の家に来て酒を勧められぶっ倒された。その日以来酒は俺から飲むことはないが休日は必ず家に呼ばれて飲まされる、おかげでちょっと酒は強くなれたけど愚痴に付き合わされるのはキツいですよ?
「はぁ、おじいちゃんおじいちゃん!」
「お、おまえ……」
そうふざけてみるとうわぁぁぁと泣きでしてしまった。この人は最近分かったことだが泣き上戸だ、そして泣いた後必ず寝る。今日は速かったな。
「あらあら、今日は貴方が先なのね、珍しいわね」
「おばさん」
「付き合ってくれないのかしら?」
「え? 飲むんですか?」
「私この人の嫁よ、それはそれは飲まされていたわ」
「おじさん……どんだけ一人で飲みたくないんですか……」
「うふふ、一人じゃ酒が不味いって言っていたわ」
俺に酒を注いでくれる。
「この人は昔からこんな感じなんですか?」
「いや、そうじゃないわ。昔は「自分が閂者を止めてやる、根絶やしだ!」と村で叫んでいたわ。でも村に閂者が攻めてきたの、そのときに私達の親も友達も何もかも無くなったわ、そのときは私も閂者を恨んだ、でもこの人は違ったの、閂者に怯えながら閂者を見ていた。そして気づいたのね、閂者が逃げていて平常じゃないんだって。そんなこと気づいても失ったことに苛立てば良いのにこの人ったら閂者に感情移入してね……」
「はは、そんなことが……」
「ええ、まぁその閂者は元々追っていた人が討伐して村の生き残りの人は感謝していたけどこの人だけが閂者の持っていた物を埋めて手を合わせてた。そんなとこ見ちゃったらなんか惚れてしまってね、今じゃこんなんよ」
ケラケラ笑いながらおじさんのほっぺたをつついていた。
「閂者を救う道に行かなかったんですね」
「ああ、それじゃ無意味だ! って言っていたわ」
「え?」
「この人曰く恨みの連鎖が原因だって考えみたい」
「はは、大きな人ですね」
「あはは、直接言ってあげれば?」
「ハズいです」
「うふふ、そんなとこをこの人は気に入ったのかしらね」
「え?」
「何でもないわ」
この後俺がぶっ倒れるまで飲まされた、夫婦揃って酒が強すぎる……
◇◇◇◇◇
この日は戦場に出る前から嫌な感じがしていた。
今日は王都でも指折りの天才と言われている戦術指揮官が閃閂女の一団が現れる場所を予測した場所に向かうことになっている。
この世界は移動には基本徒歩だ、俺は聖鍵だけでなく多くの鍵を持っているため数人しか俺の移動について来れない。
「来るのかね、閃閂女は」
「どうですかね、俺はまだ一度も会えたことがないので」
「閃とついているだけあるぞ、とにかく早い、勇者様も気を抜けばやられるぞ」
「分かってますしまずまずおじさん、俺は戦場で気を抜くなんて事はあり得ません」
「頼もしいね――! いる!」
おじさんが反応したように分かる、戦術指揮官が言っていたポイントだ!
「先行きます」
俺についてこれる隊の隊長に言うと聞こえたかを聞くこともせずに目の前の一団に向けて走った。
一番近い閂者を、村の人を襲っていた閂者をぶっ飛ばした。
「来い! 閂者! 村の人に手出しはさせない」
そう言うと一斉に閂者達がこっちを見てきた。すぐに分かった、仮面をかぶった閂者がいる、長い髪が動く度に舞うように動く、奴が閃閂女だろう。
「イキッテイルンジャネーー!」
ぶっ飛ばした閂者とは違う奴が襲ってきた。
閂者の倒し方は一つ、閂者の身体にある錠を開ける事で閂者は消滅する。
閂者によって錠の場所は違う、だが閂者は力を使うときに必ず錠の場所が光る、その場所は見つけれれば絶対に忘れない、見逃さない。
開ける。
「こんなものか! 俺がお前らを全員開けてやる!」
「「「「「ヤレルモノナラヤッテミロ!」」」」」
一斉に襲ってくるが今の俺ならば戦える!
大方倒せた、だがまだまだいる。
「速いな相変わらず!」
「おじさん」
隊が追いついたみたいだ。
「ソうか、あなタがシチュウね」
今まで遠くて俺の反応外にいた閃閂女がおじさんの前にいた。
「な!」
「あなた、ジャマま」
光が見えない? いやそこじゃない。
「おじさん!」
おじさんを引いて離れた。危ない……
「がふ……が……」
「お、おじさん!?」
な! 当たってないはず
「わ、ワタシノコウゲキみきッタオモタ?」
「どういう……」
「そのヒトマモルイイケドワタシノ仲間から目ハナスヨクナイトよ?」
閃閂女の言うとおりだ俺が引いたことで閂者達が村を襲いだしている。俺についてこれる隊だけじゃ人手が足りない。
「お……は良い……いけ……」
「おじさん!」
「バカ……ここの……と守れ……良い……か…俺は……ご見るま…死なん」
「ぐ……」
「俺の鍵もっていけ」
「な……何でですか? 鍵はおじさんが持っていても別に変わらないでしょ」
「いいから……いいから」
ぐ……分かっている、鍵を誰かに渡すということは自分がもう助からないからだろう、鍵は所有者が死ねばともに消える、だから自分の持つ鍵を誰かに渡し所有権を移せば鍵は残る。だから俺が多くの鍵を持つために渡そうとしているのだろう。
「……分かりました。ありがとう……ございます」
差し出してくれている鍵を受け取った。
「閃閂女……」
「へェえ、キミがユウシャか」
また目の前まで来る、だがさっきとはもう違う、おじさんの鍵を持っただけだ、だけど俺に大きな力が出る。見える。
お互いの拳がぶつかった。お互いに吹き飛ばされそうになるがこらえる。
「およ? さっきヨりツヨイ?」
「君を倒す」
お互いに後ろに跳んだ。
俺は聖鍵を手に持つ、閃閂女はここでやっと光った、胸のところが光っている。光が治ると手に南京錠がつながりにつながってできた剣を持っていた。
お互いの呼吸音が聞こえる、それ以外の音が遠ざかっていく
お互いに同時に動いた、お互いに速く周りの景色は色が線になっている、だが閃閂女の姿はくっきりと見える、お互いの武器の長さで言えばほぼ同じ、間合いは同じ、接近が主体で動く。
五十合くらい打ち合ったところで一度離れた。
「ワタシにつイテくるとハ……ナカナカツヨイ……」
「ついていくだけじゃない、ちゃんと斬っているぞ」
「コマカイキズはオオクツクしょうがない」
そう言いながら閃閂女は腕にできたキズを舐めていた。
動いていた時間は長く感じていたがそこまで経っていないのが横目で分かる。
「次はふざけた仮面を斬る」
「やれるものならやッテミロ」
次はお互いに息が合うことなく斬りに動いた
閃閂女は右に目線のフェイクをしながら何も持っていない左手を振り上げる、だが分かっている。胸がさっきから光っている、回転しながら閃閂女の後ろをとる、閃閂女が振り上げた手にはさっきまでなかった錠でできた剣が現れていた。よく見ると最初に出現した剣が少し縮んでいた。
後ろをとった俺は右腕を付け根からぶった切ろうと斬りかかるが閃閂女は呼んでいたのか俺から見て左側に頭を下にし回転している、振り切ると閃閂女の剣が目の前に迫り始めていた、振り切った流れを身体ごとに前に転がった、お互いに体勢が整うタイミングが同じだった、それは理解より速く後ろに跳んだ。俺が体勢を整えた所に錠の模様ができていた、この模様に触ると鍵で開けなければ動けない。このギリギリの戦いでは大きなロスになる。
閃閂女は上から両手の剣を合わせて振り下ろしてくる、振り下ろしてくる剣をギリギリになるように躱し閃閂女の剣に沿わせながら振り上げた。腕はそのままに顔を思いっきり反らして躱された。もうすこし!
閃閂女は後ろに反らした頭の重さを使って後ろに跳ぶ、後ろに跳びながら俺の腹を狙ってくる、俺は左手で蹴りを一か八かで殴る形で突き出すと運良く当たったが勢いは閃閂女の方があり少し横にずらされた。
その場で鍵を振り上げると閃閂女の振り下ろす剣とぶつかった。
「ツヨイ」
「おじさんの敵はとる」
「たすけて」
? 今なんて?
聞き直そうとすると仮面越しからも分かる程焦った感じで剣をがむしゃらに振り回してくる。
「くっ!」
速い! キレがなくなり速くなるだけとかであればこっちが優勢になれるのにキレも速さも上がっている上に攻撃の暇が短い、このままだと俺がやられる。
「オジョオ! イチドヒキマショウ」
「! ワカッタ!」
仲間の声で正気に戻ったのかこのままなら押し切れたはずなのに攻撃の速度が落ち始めている。
「手を抜くんじゃねぇ!」
速い攻撃から徐々に遅くなるならば反応できなかっただろうが途端に元の速さに戻れば目は速い攻撃に慣れたままだ、ギリギリの隙を突き閃閂女の仮面に当てた。
「――!」
「く!?」
今までで一番速く後ろに跳び逃げられたが俺は追うどころじゃなかった。
俺が仮面に当てた場所に罅が入り割れた、そこから閃閂女の顔が一部だけだが見えた、そこが問題だった。忘れない、忘れられるわけがない。俺がまだ小さかった頃にあった彼女だ、見間違えるはずがない。
「な、なんで!」
「キサマニハワカルマイ」
最初と違い他の閂者と同じように声に抑揚がなくなった。その声が俺には冷たい水をかけられたような思いになった。
◇◇◇◇◇
今回の閂者達の攻撃による一般の人の被害は幸いにもゼロ、ただ俺達の隊からは何人かの重傷者とおじさんの死という大きな損失を受けた。
今日はおじさんのお通夜、手だけでも合わせようと向かった。
「な、よく来れますね! 貴方がお伽噺の中の聖鍵を持つ勇者ならお父さんだって救えるはずじゃない! なんでお父さんは死んでるの! しかも閃閂女と出会っても倒せなかったって噂じゃない、よくそんなんで勇者って名乗れるわね! 聖鍵に奇跡の力があるならお父さんを帰してよ! なんでお父さんが死なないといけないのよ!」
お通夜が行なわれているところに行くとおじさんの娘さんがいた、俺の顔は有名だし知っていてもおかしくないがおじさんと一緒にいたことも知っているんだろう、会ってすぐに彼女が持っていたハンカチを投げてこられてから言われた。
「ちょ、落ち着いて、ここだとお義父さんも見ているよ」
「貴方は黙ってて!」
「駄目だよ、お義父さんも笑って見送って欲しいだろうし」
「分かってる、分かっているけど……この怒りは誰に向ければ良いの、返してよ! 返してよ私のお父さんを!」
そう言うと地面にうずくまって泣き出してしまった。
「すみません……俺は……返ります……」
「あ……ああ、ごめんね」
「大丈夫です……娘さんの事見ててあげてください」
おじさんのお通夜でも泣くつもりはなかった、おじさんに誓いを立てておこうと思っていたがこの場所に魔力みたいな物があるのかここに来た時点で少し泣きそうだったがおじさんの娘さんに会って俺が心で思っていたことを言われて、「返して」って言葉を聞くと分かっているつもりだったのにおじさんが死んだんだって事を改めて理解すると自然と涙が出ていた。
「君、それ……」
「娘さんが落ち着いたら「来てごめんなさい」と言っていたとお伝えください。
そう言った後は振り返らずに滲む視界の中まっすぐ前を見て歩いてこの場をあとにした。
◇◇◇◇◇
おじさんが死んでから一人で考えた。
もちろん彼女、閃閂女の通り名になっている彼女の事だ。
明らかに変だった、普通閂者は声に抑揚がなくしゃべるのに閃閂女は声が変だった。抑揚の付き方が変にあるときがあるのと何かに焦るように動いていたときは他の閂者達と同じなのに「助けて」の声はやけに耳に残る、昔の彼女も普通の閂者達と違い声に抑揚を持ってしゃべっていたがそれで判断などできないし……
まずまず顔を一部だが見ることができた、成長していたが俺になら分かる、確実に彼女だと言える。
あの時の約束は忘れてしまったのだろうか、
それともあの時の約束のために閂者達の信用を得るために人を襲うのか?
分からない、分からないけど……いや……本当は理解できている、おじさんを傷つけたところを見た時点で彼女の事を敵として見た。もう元のように会うことも話すこともできないし彼女の仲間の閂者を開けているそもそも俺は聖鍵を持っている、この世界を背負っているんだ……
二日間かかったが覚悟が決まった。あとはもうやりきる……
◇◇◇◇◇
覚悟が決まると聖鍵から力が流れてくるのが分かった、今までより身体が何十倍も軽いし感覚が鋭い、頭も冴えている。
「む……勇者殿、まだ特定できていませんよ」
「分かっていますよ軍鬼」
軍鬼――鬼という名がつくのは役職のトップを指す、軍鬼は作戦を考えるトップに付けられる役職だ。
閂者が攻めてくるだろうという推測を立てた王都でも指折りの天才戦術指揮官は彼の事だ。
「裏鬼のオヤジの事は聞きました、彼を失うのはなかなかな痛手ですね」
裏鬼はおじさんのことだ。本来裏鬼という役職は無いがおじさんが裏でのみ活躍しており色んな人を助けてきたことで自然と呼ばれるようになったおじさんの二つ名だ。
「ああ」
「おや? 冷たいですね、あの人のこと心から慕っているように思っていましたが?」
「親とさえ思っているよ、そのために仇討ちしたいからね、その後に泣くって決めた」
「はは、覚悟の重みって奴ですか、羨ましいですよ」
「貴方の仇討ちにもなりますね」
「私のことも気にしてくれるのは嬉しいですよ」
彼には右脚がない、街を襲う閃閂女の一団によって足を固められた所に閂者の動きで倒壊した建物の下敷きになり足を斬る事になったと聞いている。
「どこまで追えていますか?」
「二十位だね、これも外れてない確証が無いんで難しいかな、閃閂女のアジトを突き止めるなんて」
「二十か……一番可能性として見えているのはどこですか?」
「……一人で攻めるつもり?」
「……」
「無謀だよ、というかそれならば教える事はできないよ。仇討ちで頭が一杯ではできることもできないよ」
「分かってますよ。分かっていてやるんです」
「……はぁ、止めれないね。でも私としては貴方を止めます」
「一番可能性があるのはウェハール、シリト、カム、キュラル、ツェラル。この五つでしょ?」
「っ! なぜ……」
「ありがとうここまで絞ってくれて」
「待って、聞いたよ君は閃閂女の仮面を割り顔を見たと、そのときに君は一瞬固まったと聞いている。憶測でしか無いと思っているが君は閃閂女の事を知っているんだろ、そんな君じゃ無理だ、彼女は速い、迷いがあれば確実にやられる、君の損失は人類に大きな打撃だ、裏鬼のオヤジ以上の痛手だ!」
「すみません、もうやめるつもりはないです、それに知って顔の奴があれだけ暴れていたんですよ? 俺が最後を見届けないといけないんですよ」
「待て!」
最後まで制止しようと声をかけてくれていたがそれを無視して軍室から出た。
◇◇◇◇◇
二週間でやっと四つの村を巡った。
行く先々に村は廃墟の如く人の気配がしない村になっていた。人の代わりに多くの閂者達がいた。俺は片っ端から閂者を開けていった。村にいる閂者を全員倒して進むのに一人はさすがにキツいことをしすぎたか中々速く済ませることができないが村から出る閂者を出さないで戦うことで他の場所に情報を届かせないようにしていたため目星の村は全て緩んだ警戒の閂者のアジトになっていた。
最後の村はカム、俺が昔住んでいた村、あの時の子と過ごしたのもこの村だ。
案の定閃閂女はいた。彼女の近くには錠を連ねてできた剣が二本突き刺さっている。他の閂者が見当たらない。
「他の閂者達は?」
「ワタシガキヅイタジテンデニガシタ」
「君はあの時の子だよね?」
「ナンノコトヤラ」
奴がしゃべり終わった瞬間で地面から跳ね上がるように聖鍵を振り上げ斬り掛かった。閃閂女も一瞬反応が遅れたことで腕に少し掠らせれた。
「モンドウムヨウカ」
「ち、その気持ち悪い仮面を取りたかったんだけどな」
「サセナイサ」
その言葉の後は周囲が光の糸に見える速さで何合も剣をかわした。閃閂女の攻撃は二刀流らしく手数が多く更に一撃も重い、一本と二本では手数の違いの分二刀流が有利になるがそもそも両手を違う動きで素早く連動させながら動かすのは至難の技、普通では使えないが閃閂女はほぼ完璧に使いこなしている。
前ならば二刀流の連擊を防ぎきることは無理だったかもしれない、だがここに来るまでに何人もの閂者を開けたその分鍵は増えている上にあるときは何十人の閂者の連携を捌いた、俺自身の経験値が上がっている。ギリギリになっているが閃閂女の攻撃を捌けている。
「ムム、ワタシノドウホウデケイケンヲツンダカ」
「ここで終わらせる」
俺は鍵の速さを上げた。
だが閃閂女も俺の速さについてくる。
閃閂女の左手が動いたと思えば右も動き出す、初めは左右に振った攻撃が多かったのに今では左に右を時間差で同軌道で斬りかかってくるかと思えば、左をわざと遅くし右手だけで連擊をし左手の軌道に誘導され気づかないうちに斬られそうなる。
俺は自分の経験からくる勘を信じて鍵を振るう、一度優勢になれたのにすぐに巻き返されたがまだ均衡を保てている。
この均衡は何十合と続いたが突然終わった。
「ヌグ!? ワたしを斬って!」
「――!?」
急に閃閂女が止まり俺に言いかけてきたことに驚き飛び退いてしまった。
「ダマレ! 私をはやく! ナニヲイウ、チカラヲモトメタノハオマエダワレニシタガッテイロ!」
急に閃閂女は一人で会話を始めた。どういう……
「あの時のやくそく守ろうとして力を求めたのそしたらこうなってしまった。もう戻れない、私が止めている間に私を! アノトキノヤクソクヲマモルタメニココマデヤッテルノアナタナラワカッテクレルデショ?」
俺に問いかけてくる、閃閂女は自分で仮面を外していた。外した顔を見ると改めて分かる、あの時俺が助けた閂者の少女だ。外した顔を見たときに再理解した、俺はあの一週間しか会うことのなかった彼女に恋をしていたんだと、そう分かってしまえば新しいことに気づいた。俺は今初恋の相手を開けないといけないということに。
「ソウデショ? アナタハワタシニコイヲシテイル。アナタニワタシハキレナイ。違う! だからこそ貴方に開けて欲しいの! 私の好きになった人に! 私が忘れることもできないあの人に!」
そういう彼女の目は左は焦点が合わないような目、右はあの時と変わらない綺麗な青い目でこっちを見ている。
「ワタシニタヨッテキタオマエガワレヲトメレルモノカ!」
そういうと顔がゆがんでいる、左は変わらない顔なのに右の顔がドンドンゆがんでゆく。
「は……はやく……」
その言葉を聞いたときに自然と足が向かった。
「……」
聖鍵を彼女の胸の前に持って行き手が止まってしまう、今なら閃閂女がどんな動きをしようとも先に聖鍵を突き刺せる、それだけの近さまで聖鍵を持って行っている。
「マテ、ワタシヲワスレタノ? アノトキタスケテクレタノニワタシヲキルノ?」
「ぐ……」
「いい! 貴方にならやられても後悔はない!」
「……」
彼女の顔はゆがんでいる、身体の支配権を争っているのだろう。そしてもう時間が残されていないのだろう。
「ワカッテイルダロ? ココデセイケンヲツキタテレバワタシハキエル。モウアエナイノヨ。私は貴方の中に生きる、肉体がすべてじゃない。キレイゴトヲ」
「閃閂女、彼女の言う通りだ」
「ナニヲイッテイルノダ、ココロニイテモアエナイノダゾ」
「分かっているさ……でも彼女の意見は理解できる」
「バカナ! アエナイノハツラクナイノカ!」
「俺は世界を背負ってしまった、それにもう戻れない……俺は君を敵として見てしまったのだから……」
そう言った後に突き立てようとしたが後少しなのに手が震えてできない……
「大丈夫……私は貴方を恨まない」
そう言って右手でそっと触ってきた。俺の手の震えが止まった。
「ごめん」
そう言った後ひと思いに聖鍵を突き立てた。
「ありがとう……」
そう言った後に彼女はボロボロと崩れていく。
「クソ……クソクソ! ココデオワッテナルモノカ! ダレカニノリカエテ――! そうよ……ここにはもう閂者はいない。こうなると信じて閂者がここにいることのない状況を作った。クソがぁぁあああああ」
一人で会話をしながらドンドン崩れていく。
最後の塵になるときまで叫んでいた。
「………………」
彼女にいた所には鍵が刺さっていた。その鍵は美しい形だったが周りに悪意の靄のようなものが回っていた。俺はゆっくりとその鍵に近づいた。
「勇者殿!」
「やっと追いついた!」
見慣れた集団がこっちに向かって来ていた。王国の軍の人達だ。
「勇者殿、その仮面と鍵は……」
おいおい、とか、まさか……と言う声が聞こえてくる。
「閃閂女は俺が討った! この世界の脅威は消えた!」
そう言った後に彼女の鍵の上に聖鍵を突き立てた。
歓声が上がっている中俺はその場からゆっくりと離れた。
「勇者……」
「どうしたんですか、軍鬼さん」
「よく来れたとか言わないのか?」
「はは、最初からここに向かっていたんでしょ?」
「……あの時はまだ本当に目星はついていなかったよ」
「わかってますよ」
「どこに行くんだ?」
「この世界の秘密を探しに」
「それはどういう……」
「また……会いましょ」
そう言った後に走って去ったが聖鍵を持っていなくとも同じ速度が出た。
聖鍵は力を与えてくれるすごい物だと思っていた、だが閃閂女と対峙したときに分かった、聖鍵は身体能力を上げてくれる物ではなかった。本当の力を知った、だがそれにも謎があった。俺はなぜ聖鍵にそんな機能があるのか知るために……俺は走って世界にでた。
どうも。ロキューノスといいます。
この話は自分が歩いているときに鍵を幾つも持っていてじゃらじゃらとした音聞いていて思ったのを思い出して話を作ってみようと作ったんですが……いや長い! 書いていてめっちゃ長くなってしまった……
登場人物に名前を付けないように作ったんですが中々難しかったです。
ぱっと思いついた物なのであまりというかほとんど深くない作品となってしまいました……ただ不安なのはぱっと思いついた物なため何か他の作品と丸かぶりになっていないか不安です……
深さゼロ……中々いい響き……また作ろうかな……と思っています。
ではでは。




