表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風の中にあるのは  作者: 佐久田恵孝
5/8

始動した能力

俺が小学生の頃、超能力ブームがあった。

テレビでよく超能力の特集をやっていて、超能力者を名乗る人物がいろいろ出てきては、その力を披露していた。

その中でもムリ・デラーは凄かった。

彼のスプーン曲げは衝撃だった。

手品のようにハンカチで隠したりしないで指でスプーンをこするだけで曲げてしまう。

俺もそうだったが、当時の子供たちはこぞって真似をしていた。

だがある日、テレビを観ていたら更に衝撃的なことがあった。

ムリ・デラーがスタジオから視聴者に向けてパワーを送るという。

そしてパワーを受けた視聴者はスプーン曲げができるようになるという。

こんなチャンスは二度と無いと思い、俺はテレビの前で一生懸命パワーを受けた。

・・・・が。しかし、というかやはりというか俺は出来るようにはならなかった。

ただ、その代わりに俺には別の力が備わった。


翌日、学校の休み時間友達とふざけ合っていたら、声では無い声が聞こえた。

『ふざけんじゃねえよばかやろー』と。

その時なぜか俺は驚きもせず、反射的に思ってしまった。

『ふざけてるのはお前の顔だ!』と。

ふざけ合っていた友達は俺に向かって目を見開き、口をパクパクしながら後ずさりし始めた。

こっちも一瞬何が起きたのかと思ったが、本能的に自分の意識が奴に伝わったと思った。

そして今飛び込んでくる恐怖でグチャグチャになった意識も

目の前のこいつの意識だということに気付いた。

奴は驚きのあまり声も出せず俺を指さしながら座り込んでいた。

そんな奴を差し置いて俺は

”テレパシーが使えるようになった!”と

ガッツポーズしそうになった。

・・・それはなんとか我慢したが、その能力を試してみたいと思った。

ちょっと離れた席で本を読んでいるガリ勉君に意識を集中してみる。

教科書を読んでいると思っていたら・・・給食の事を考えていた。

更に別の奴・・・へえ~大人しそうに見えるけどプロレスが好きなんだ

じゃあ次こいつ・・・・・・

と、調子に乗って何人もの心を覗き見してたら・・・気分が悪くなった。

人間誰しもいいとこばかりでは無い。

優等生や、クラスのマドンナにも当然闇の部分もあるだろう。

それはそうだ、そうだけれども・・・いざ覗いてしまうと

・・・俺は人間不信になった。

そしてその能力を封印した。


それから数十年すっかりおっさん体型になった俺は、そんなことはいつの間にか忘れていた。

ある日の夜、飲みに行こうと近所の繁華街を歩いていると

道端にサラリーマン風の酔っ払いが座り込んでいるのが見えた。

だらしなく赤のストライプのネクタイを緩めて歩道に足を投げ出している。

まったく・・通行の邪魔なんだよ・・と思いながら見ていると、目が合ってしまった。

「何見てんだよ!」

やばい!絡んできた。逃げなきゃ。

俺は足を速めてその場から立ち去ろうとした。

奴は更にわめき続ける。

「おい!逃げんなよ!まぎら建造っ!」

カッチーン!

俺は足を止めた。そして振り返る。

あの野郎地雷踏んじまったな。

まぎら建造は伝説のフォークシンガーだ。いくつもの名曲を生み出したカリスマではある。

しかし、小太りでうさん臭い無精髭の丸顔は決して似てると言われて嬉しいビジュアルでは無い。

最近ちょくちょく似てると言われる様になりその度イラッとしていた。

今回は許せん!

俺は2~3発ぶん殴るつもりで奴に向かって歩いた。

そして気付いた。

歩行者がそこそこいる。

奴はわめいているからそこそこ目立っている。

そこに俺が近付いて殴りだしたらどうなるか。

このご時世みんなスマホで動画を撮り出すに違いない。

それはちょっとまずいな~

奴の目前に迫りながら考える・・・殴らずに制裁する方法を。

その時、奴の意識が飛び込んできた。

現在独身で・・営業マンか・・

今日は・・・大きな商談に失敗してやけ酒を食らっていた・・・と

なるほどね。

他には?・・・去年お母さんを亡くした・・・

これは使えそうだな。

こいつ名前なんていうんだ?・・・カズオか・・。

よし!

俺は渾身の念を奴に送り込んだ。

『コラッ!カズオッッ!』

奴は一瞬腰を浮かせ再度尻餅をつくと足をバタつかせながら左右を見回す。

良いリアクションだ。

『また飲み過ぎやがって!』

今度はハイハイをしながら逃げ出そうとするが、腕に力が入らず顔面をモロに地面に打ち付ける。

実に良いリアクションだ。

そしてそこから仰向けになり白目をむいて気を失ってしまった。

そこまでしなくていいのに・・・

いつの間にかギャラリーが集まり始め動画を撮りだしている。

さすがにちょっと気の毒になった俺は奴を戻そうと試みる。

『カズオ起きなさい』

無反応だ・・・・

『カズオ愛してるよ』

これもダメだ・・・・

『カズオ隠し財産の場所を教えるよ』

黒目が戻った。

『カズオお母さんの部屋の床下に隠してあるよ』

立ち上がった。

『カズオ隠してるのは千円だよ』

また倒れた。

『カズオ本当は一千万円だよ』

立ち上がった。

『カズオ早く取り出さないとネズミに食われるよ』

走った!


結局能力を使うと人の(ごう)に触れざるを得ないようだ。


奴の後ろ姿を見ながら思った。

さっきの動画撮っておきたかったな。

まあ大勢撮っていたから誰かがアップするだろう。

ちょっとニヤけながら俺はいつもの赤提灯に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ