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風の中にあるのは  作者: 佐久田恵孝
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植リンガル

私は発明家だ。

しかし成功した発明はまだ無い。

おそらく私の肩書きの前には”自称”のレッテルが貼られているのだろうが

そのレッテルは今にも剥がれそうだ。

なぜなら今回の発明は人類史上最大の発明といっても過言では無いからだ。


きっかけは30年前のバラエティー番組だ。

その日何気なくテレビを見ていた私は、出演していた女性タレントの話に興味をそそられた。

そのタレントが家で育てていた植物が弱ってきたという。

原因が分からず、どうして?と語りかけたら

「暑い!」と声が聞こえたそうだ。

涼しい場所に鉢を移動したところその植物は元気になったらしい。

植物が話す・・・・荒唐無稽の様にも思えるが、無いとも言い切れないのではないか。

過去、植物に優しい言葉を掛けて育てたグルーブと、罵声を浴びせて育てたグルーブでは

優しい言葉を掛けて育てたグループの方が生育が良かったという研究結果がある。

植物に人の言葉が理解できるのであれば、それに対して何某(なにがし)かの意思表示をしたとしても不思議ではない。

もしそれを察知することができたら・・・

栽培の難しい農作物や絶滅危惧種などの栽培法が分かるかもしれない。

いや、それどころか植物しか知らない進化の過程や種の起源まで遡れるとしたら・・・

とてつもない名誉と大金が転がり込んでくるに違いない!

私はいても立ってもいられなくなった。

まずは植物が発するエネルギーを関知するセンサーを作らなくては、それから・・・


・・・と。30年の時を経てようやく試作品が出来上がった。

手作り感満載の装置ではあるが大まかに説明すると

まず植物が発するエネルギーをパラボラアンテナ型のセンサーで拾う。

そしてセンサーから入ってきた信号は微細な為、増幅器を通す。

増幅器はまだ修正するかもしれないので、上部の蓋は閉じないで基板が剥き出しの状態だ。

その増幅器はパソコンに繋がっている。

パソコンには独自開発したプログラムが入っていて、

入力された信号は人間に理解出来る信号に翻訳される。

翻訳された信号はヘッドギアを経由して脳に送られるといった流れだ。

これが成功したら、イグノーベル賞を受賞したなんとかリンガルどころの話では無い。

こっちはイグのつかない奴が射程に入っている。


期待と興奮を抑えながら私はヘッドギアを装着し、スイッチを入れることにした。

震える手で、スイッチのつまみを上にはじく。

カチッと音がして装置のLEDが緑に光る。

とりあえず爆発はしなかった。

次に作業部屋にあるポトスの鉢植えにパラボラを向ける。

うまくいけば声が聞こえる筈だ。

パラボラの角度を変えながらセンサーの感度を調整する・・・・

暫くすると頭の中で声が響いた。

『みず・・・』

え?・・・みずって言った?

『みず・・・』

また聞こえた。

本当にポトスの声か?他の電波か何かを拾っているのか?

まだ確信が持てないが心拍数は一気に跳ね上がった。

そういえば最近作業に追われて水やってなかったな。

急いで水差しを取りに行き水をやってみる。

声は聞こえなくなった。

なにか話しかけてみよう。

「他に欲しい物はある?」

『・・・にっこう』

確かに鉢は日の当たらない場所にある。

そこで日の当たる場所に移動してみる。

「これでいいかい?」

『いい・・』

うおーーーーー!!

私は叫んだ。

「植物との会話に成功した!」

ついにやった!

これでノーベル賞だ!

有名になれる!

大金が入る!

有頂天になった頭の中に声が響く

『分け前くれ・・・』

「え?・・・いまなんていった?」

『金だよ金!』

「かねがわかるのか?・・」

『分かる』

腰を抜かしてしまった。

ポトスが金を要求してきた。

「なんでかねなんてしっているんだ?」

『ネット』

「パソコン使えないくせになんでネットに繋がるんだよ!」

『ワイファイ』

・・・なんということだ。

聞いてみると植物は電波が傍受できるらしい。

Wi-Fiだけでなくテレビやラジオもだ。

だから植物は人類の行いや世界情勢を既に把握しているという。

そんなこと想像すらできなかった・・・

だが、そうなると植物は人類をどう思うのだろう。

例えば、世界各地で行われている環境破壊に腹を立てたりしないのだろうか・・・


その時、ふと以前観た映画が頭をよぎった。

それは植物が未知の力で人間の脳をコントロールして、世界中の人々を自殺に追い込むという話だ。

派手ではないがじわじわくる恐ろしい話だった。

もし植物が人類に制裁を加えようとした時、この装置が植物の力を増幅してしまったら・・・

映画のシーンが妙に現実感を帯びてきた。

この発明は世に出すべきではないのか・・・

しかし・・・

あれはあくまで映画の話であって現実にはあり得ないだろ?

そんな事を恐れて今までの苦労を無駄にするなんて・・・

・・・でも植物に殺されたら嫌だ・・・

・・・いかん。考えがまとまらない。

とりあえず装置のスイッチを切って一休みしよう。


体を起こしてスイッチに手を伸ばした時、頭の中に声が響いた。

『切るな!』

びっくりして手を引っ込める。

『スイッチを切ってはいけない・・・』

威圧感を前面に出してきたその声に身体が縮こまり身動きがとれなくなった。

そして自分以外の何かが意識の中に入り込むのを感じた時

恐怖と後悔に支配された私の意識は徐々に薄れていった。


**************



丸一日意識が無かったのか?それともそれ以上か?

分からないが幸運にも私は目を覚ました。

生きているし、身体を乗っ取られてもいない。

ふと装置に目をやるとLEDが消えている。

?なぜ・・・

あの時スイッチは切ろうとしたが切れなかった。

装置に近付き上から中をのぞき込むと・・・・・コンデンサーが破裂している。

そうか装置が壊れたから乗っ取られずに済んだのか!

失敗を悔やむどころか喜んだのは初めての経験だ。

でも。

本当にポトスが私を乗っ取ろうとしたのか?

もしかしたら夢を見ていたのでは?という気もする。

確かめるには修理してもう一度起動させてみればいい。

それはそうだが・・・

さすがに恐ろしくてそんな気にはなれなかった。

()くして30年を費やした私の夢は終わった。


私の中で植物のイメージは鑑賞用とか農作物ぐらいだった。

植物は人間が手をかけなければ生きていけない存在で、

人間が植物を支配していると錯覚していた。

本当は植物が存在しなければ人間は生きていけない。

植物は人間なんかいなくても生きていける。

いや、いない方が良いのかもしれない。

自分達よりも何億年も後から発生した人間が地球の支配者面している状況を

植物がどう思うのだろうか。

そこまで考えが及ぶようになったことが、この発明の唯一の成果だったのかもしれない。


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