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持たざる者の叛逆記  作者: 綾蓮
2章 持たざる者の新天地
9/107

2ー1 新天地

ここから第2章となります。


海に国土の大部分を覆われている海運国家レパント



その地形から陸路による行軍はルートが限られており、そのルートには非常に強力な防衛網が敷かれている。また海戦ではレパントの造船技術、操船技術に追随できる国家はない。そのような理由から、防衛戦ではまさに難攻不落の国家である。

元は小国でありながら、動乱の世にあって一番安全な国ともいわれている。


ただ、海運国家だけあって、国民は気風はいいが、荒れ者が多く、治安は決して良いとはいえない。またレパント貴族の大多数は海の男でもある。


そんな癖のある国をまとめる王こそ、オルドリアで知らぬものがいない英雄王ハイランドである。




シドがレパントに身を寄せて、すでに8年が経過していた。


そんなレパントの王城にて


「小僧、ルーバリ領の近くにオークの集団が現れて問題を起こしてる。さっさといって片付けてこい。」


粗暴に言い放つよう命令をくだしたのは、レパント王ハイランドその人だった。

小僧と呼ばれた青年は英雄王からの命令に対し、


「相変わらず人遣いが荒いですね、僕は昨日リザードマンを討伐して戻ったばかりですよ。」


と苦笑しながら軽口で答える青年。ただそうした会話の軽口には王との会話を喜んでいる節がある。


そのまだあどけなさの残る青年はシドであった。


無能者のレッテルを貼られ、心を閉ざし翳りを帯びていた、かつてリムージアにいた頃の心を閉ざしていた暗い影は完全に潜めている。

大変爽やかな好青年へと成長していたのである。


「ふん、口ばかり達者になりおって、俺は一番効率よくこなせるやつに命令してるだけだ。」

とハイランドもシドの軽口に対し不敵な笑みを浮かべて答えてみせる。


王の不敵な笑いに室内にいる貴族達も如何にも王らしいと釣られて笑いだす。

その中でも一際大きな笑い声の男が口をだす。


「王はお前がお気に入りだからな、精々こき使われる事だ。名誉な事だぞ!」

ガッハッハと大きな笑い声をするこの男は王の右腕でレパント貴族の雄ホルス=シーガルである。


「ついでに倅もオーク討伐につれていけ、彼奴も暇しておるだろうからな。」

ホルスは思いついたようにシドにいう。


「ミストナですか…?まーた僕が文句を言われるんだろうなぁ…。わかりました、さっさと片付けてきますね。

本当なら今日は裏街の女性を口説いて、デートでもしようとおもっていたのになぁ。」


王とホルスに対して、またも軽口でシドは答える。


一国の王に対しての口のききかたではないが、王は気にする素振りすら見せないし、周りも咎めようともしない。

他所の国からしたら異様な光景にみえるだろうが、この王国ではこれが普通の事なのだ。


しかし、シドのその軽口に本気で頭を悩ませている男がいた。ホルスであった。

豪快にみえるこの男はシドの事となると、とことん心配症を発揮し、思い詰めてしまうのである。


いま悩ませている事それは…先ほどシドが口にした裏街の事であった。


裏街の廓の女性達にとっては確かにシドの整いながらも幼さが残る可愛さとかっこよさを併せ持つ風貌は堪らない顔立ちである。


(裏街の女性が放っておくはずがない。)


そう思ったらホルスはシドが悪い女に捕まらないか、心配でいてもいられなくなってしまったのである。



裏街とは遊郭や賭場などが建ち並ぶ、街の影の部分である。


そんな街にいつまでも子供で可愛いシドが出入りしていることもホルスにとっては衝撃的であった。


成人したとはいえ、まだシドが立ち入るのはいかがなものなのか…ホルスはまるで父親のように次から次へと心配している。


敢えて言おう、ここは謁見の間である。貴族たちがお互いの領内の問題事や政務について話し合う場である。

それなのに謁見の間で、このような考えに耽る事が許されるように、この王国の貴族には形式などあってないようなものである。

レパントの貴族たちは王城でも自由が許されている。

自由に発言して、自分勝手な思案にふけるのも自由なのである。

そうした自由さは王を軽視しているわけではない。


むしろ王の器の大きさがなせる業であった。

レパント王は世界的英雄であり、レパント中で愛され、尊敬される主君である。

この国では王への謀反など考えるものはいない。

この荒くれ者たちをまとめられる者などハイランド以外には考えられないからである。


シドは8年前に実の父から命を狙われた際、ライブラに連れられ、名目上は人質兼客分として、海運国家レパントへ亡命し、ハイランド王の直接の庇護を受けた。


レパント国にもシドの無能者としての情報は伝わっており、心無い仕打ちが全くなかったわけではなかった。

しかし、リムージアのように裏でネチネチとじっくり蝕むようにではなく、レパント王国の気質はシドに直接向かい合って非難を浴びせたのである。


最初シドは例の如く暗かった。それがまたレパントの民からしたら気に入らなかったのである。

そうした事も真っ直ぐぶつかってくるレパント国はシドにとってはイジメでさえもリムージアよりは心地よくさえあったのだ。


さらにハイランドを中心に、その配下たちはシドを全く普通に扱ったのである。本当に言葉通り普通(・・)にだ。


スキルを使えないからといって、特別扱いもしなかった。普通の教育機関で学ばせ、普通にスキルの訓練に参加させたり、教育などでもまったく皆と一緒。


また友達も普通にできた。


先程話にでてきたミストナも学校でできた友人の1人であった。

もともとホルスにより引き合わされていたのであった為、ミストナとは仲良くなるのはさほど時間はかからなかったのだが。


そうした普通に扱われる事が、シドにとっては何より救いでもあった。

レパントでの生活が、シドの凍りついた心を次第に溶かしていったのである。


自分らしさをだんだんと取り戻していったシドはもともと明朗で、機微にも聡く、何より才能に溢れていたのである。

持ち前のそういった才能を存分に活かし、この国へと溶け込んでいった。


そうして過ごした8年はシドを非常に魅力的な人間へと成長させた。

さらに最高の男が親代わりを務めている。


ハイランドである。ハイランドには子供がいない。

かつて結婚していた事はあったと聞いたが、その愛した唯一の女性は何十年も前に死んだと聞いている。


以後、彼は後妻を迎えることはしなかった…。


そんなハイランドだが、シドの事はまさに自分の実子ともいうべく可愛がってきたのである。

もちろん漢気に溢れるこの男がそうした事を直接表にあらわすことはない。


だが、周りにしてもハイランドがシドの事をこの上なく愛らしく思っていることは一目瞭然であった。


ハイランドは目をすぼめてシドをみる


「小僧いくつになった?」


「15です。もう成人しましたよ。」

シドはぎくりとして答える。裏街の立ち入りを咎められると思い、先程の発言はしくったなと思った。


しかし、ハイランドの話はそれとは全く関係がなかった。


「そうか、もうそれほど経つか…」


そういいシドをずっと見据えるハイランドであった。

その眼はいつになく真剣であった。


「お前がこの国に来た時、俺が言ったことを覚えているか?」


シドはこの国に訪れ、ハイランドに初めて会った時の事を思い出す。

そして、真面目な顔で答える。


「勿論…覚えております。」


シドはその時の事をまるで昨日の事のように思い出す事ができる。自分の運命を変えた日…だったのだから。


[回想]

ーーーー8年前謁見の間にてーーーー


『お前を保護する事の意味がお前にわかるか?』


シドが亡命の赦しを請うために王との謁見で会った際に英雄王ハイランドに問われた言葉である。


答えのないシドを冷たく見据えるハイランド。


『お前を保護する事で、リムージアとの戦争は避けられんだろう。もしかしたらそれ以上の戦禍に世界中が見舞われるかもしれん。

そうなれば大勢が死ぬ…無能者であるお前1人の為にだ。俺には利がない。国と民をを思えばお前を守る道理はないのだ。』


ハイランドはバッサリとシドを守る必要はないと切り捨てた。


シドはうつむくしかなかった…


だがなとハイランドは続ける…

『本来なら会うまでもなく断るのが普通だ。だが、俺はお前とこうして会っている。その事はお前にとって僥倖といえるだろう。だから申せ…お前には助ける価値があるのか?それにより俺は何を得られるのか?』


重い空気が場にはりつめる。ハイランドを取り巻く空気が変わり始める。


空間がパリリッと乾いた音をたてる。

空間まで変容させる英雄王の威圧…それは謁見室全てを包み込む。


『心して答えろよ。返答次第でお前の首をリムージアに送ることになる。』


更に凄みを増してハイランドは言った。


普通の子供であれば恐慌し気を失ってもおかしくない…いや、この英雄王の覇気を前にしたら大人でも耐えがたいであろう…

そんな常人に耐え難き空間でもシドには思った事があった。


無能者となったシドの言葉を聞こうとした人間はこの2年でライブラだけである。

それなのに世界にその名を轟かせる英雄王が今僕の前にいて、耳を傾けてくれている。


シドは英雄王に伝えてみたいと心からおもった。


(ただ何を伝えればいい?)


しかし、母親や兄弟とは引き離され、2年もの間、ライブラ以外とは話すこともなかった。

そしてライブラとイジュースから、実の父親であるシドニスから命を狙われている事を聞かされた。


7歳にして、実の父に命を狙われている事を知らされた子の心境とはいかなるものなのだろうか…。


そうした経緯などにより、精神が壊れかけているシドは、英雄王にどのように言葉を伝えていいのか全く浮かばない。

(何を…)


それにこんなギフトを持たない7歳の子供が、ハイランドに利などもたらす事があろうはずもない。


シドはこの2年の辛い人生、そしてこれから希望のない未来を前に生きる事をもはや放棄してもおかしくはない。いや、放棄していたはずだった。


『【普通になりたい】』


思わぬ一言がシドから小さい声でぼそりと発っせられた…

無論それは嘘偽りない本心である。


そして、その一言を口に切った瞬間、閉じた感情の氷が溶け、感情が噴き出した。


『普通になりたい。ただ、普通に生きたい。

無能者の僕が他の人の命を犠牲にする価値なんてないのはわかってる。そんな価値があるわけがない。あっていいわけがない。』

(僕は生きていちゃ、いけないのかもしれない。)


大粒の涙が、シドの大きいつぶらな瞳から零れ落ちる。


(でも!!!)


『本当は僕は死ぬべきなんだ。でも希望を言っていいなら、生きたい!!僕はただ普通に産まれたかった!!!』

(生きていたいんだ!!)


シドは涙をぬぐいハイランドに向けて全身全霊で言い放った。

その意思の気迫はハイランドが醸し出すオーラの威圧をも超え、ハイランドに突き刺さる。


その気迫でハイランドは胸を鋭い刃物でも突き刺されたかのように錯覚し、胸を押さえる。


『小僧…』(この若さでここまでの覇気を…)

胸を押さえる手がぎゅうっと力が込められる。

拳を握りしめるハイランド。


シドの言葉はハイランドの質問の答えにはまったくなっていない。

ただ止めようのない感情をぶつけてきただけである。



だが、ハイランドには何かが届いた。英雄だけが持つ特別な何かに届いたのかはわからない。だが、この子供が放った言葉は確実にハイランドの心に突き刺さったのである。


『そうか』

とても優しい笑顔と一言だった。

いつも粗暴に振る舞うハイランドとは思えない、本当に穏やかな一言。


ハイランドは判別の儀の時でも己の行動で示したが、豪放磊落なだけの人間ではなく繊細な機微にも長けており優しかった。

器の大きい人間は優しく強いのである。


そして握りしめた拳を大きく前に突き出し、豪快に言い放った。

『小僧っっ!俺がお前を守ってやる。お前はもう俺の家族だ!このレパントがお前の新しい国であり、家となる。』


そして激しい物言いから、語気が優しく変わる。


『だがな小僧、お前は普通になりたいといったが、普通などつまらんぞ。お前はお前にしかできない事をなせ。お前が生きた証を刻んで見せよ。

無能者というレッテルを貼り、落伍者であるかのように定められた運命に、世界を見返してみせよ!』


そしてハイランドの笑顔


シドは絶対に忘れない。自分に生きる意味を与えてくれた。第2の命を与えてくれたに等しい笑顔を。




ーーーシドは回想からふと我にもどるーーー


回想での熱い想いにかられ

「この命、王に救われたものです。私は王のために私の命を使いたい。」


シドの心からの一言であった。


ハイランドはそれを聴き、笑いながらぶっきらぼうに言い放つ。

「馬鹿者が、若者が老人の為に命を使うなど簡単に言うではないわ。」


だが、その言葉とは裏腹にハイランドは嬉しそうであった。


そして笑い終わると真剣な面持ちでまた話しだす。


「リムージアとの戦線は拡大し、ずっと戦況は我が方に有利だ。だが、それにも関わらずリムージアを陥せずにいる。なぜかお前にわかるか?」


ハイランドはシドに問う。


「いいえ、不思議に思っておりました。勝利の報告が多い中、ここ数年戦況が膠着している状況に。」

シドは素直に答えた。


「その理由はリムージア五大貴族どもの戦い方にある。それとゴーン国の横槍だ。やつらの軍と俺の軍が直接やり合えば、間違いなく俺が勝つ。

だが、やつらは俺とは直接は絶対にやりあわない。我が軍には俺とホルス、シャール以外は陸戦が上手くない。つまり陸戦の将が不足しており、突破口を開けずにいるというわけだ。」


ハイランドは戦況を冷静に分析していた。


そしてさらに付け加える。

「地理の問題もある、リムージアはどこからでも攻められるものの、逆をいえばどこからでも巻き返しがきく。あれはあれで落としにくい…」


ハイランドはすこし忌々しそうにいう。


8年前、シドの亡命を皮切りに、シドの引渡しを求めてレパントにリムージアから交渉があった。


レパントは当然シドを引き渡せというリムージアの要求を断り、交渉は決裂する。

そしてリムージアは武力解決をとった。


レパントとリムージアは亡命時の時のハイランドの予想通りに開戦する事となった。


戦争を起こす背景としては貴族の血統や秘技を守るために戦争を起こすリムージアに正義がある。


オルドリア事情の中では、レパントにはシドを護るという理由は身勝手であり大義がないのである。


その為、レパントは国家として完全に孤立状況で戦争をしなければならなかった。

リムージアは同じ大国のゴーン国と同盟を組み、対レパント戦線を作って戦争にのぞんでいるというのが現在の状況である。


しかし、大国二カ国を相手取り、戦況を優位に進めてしまうあたり、さすが英雄王が率いるレパント国であるというしかないだろう。



「そこでだ、小僧。お前が陸戦特化の軍を作り上げて、その将となれ。」


ハイランドから思いもしない言葉が発せられた。



今日中にアップできないのではないかと焦りましたっ汗

ここまでお読みいただけて本当に感謝感謝です♪


シドの転機となる第2章が始まりました。

いきなり8年後!そして15才のシドくんすこしオマセさんになってしまいましたが、ひねくれた性格の子にならずによかった。

あ、この世界での成人は15才です!


設定を、もう少し詳細に説明したかったのですが、どうしても説明っぽくなりキャラクター間でのセリフが違和感を覚えてしまうので、説明だいぶ省略しました泣

レパント王国でのシドの生活は、本当に普通に扱われています。普通に学校にいっていましたし、友達も後ででてきますが、いますよ♪

無能者のシドくんが普通ではないのに普通として扱われている理由、それは英雄王ハイランドです。

ハイランドはレパント中で愛されており、彼の家族宣言はいわば、国民全員の家族なのです。もちろん無能者として冷たい仕打ちを全く受けないわけではありませんが…それでも彼は普通に扱ってくれる方が大多数です。

なぜそのようにレパントでは受け入れられたかというと、本来のオルドリア貴族社会では考えられない事ですが、海運国家としてレパントは多種多様な文化の融合が行われ違いを容認しやすい社会を独自に築けているという所が大きかったりします。そんな気風に育まれてシドくんはまっすぐ育ちました♪

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