1ー4 判別の儀2
儀式はつつがなく執り行われている。
他にも同日に産まれた貴族の子達もおり、判別の儀の作法にのっとってギフトの判別が行われている。
だが、ここに集まった多くの貴族達の本日の最大の目的はヴァランの子シドである。
その主役シドはまさに今、判別の儀を行う最中にいた。
(確かこの聖水に触れて神にお祈りを、そしてマナを込め、ヴァラン家の血言を唱える)
シドはこのような大儀典の中にありながら、冷静に手順を繰り返し頭の中で唱え、儀式をつつがなく進めていく。
その様子に貴族たちからも賞賛の声が湧き上がる。
「さすがヴァラン」
「立ち振る舞いにすでに気風がでているわ」
「いよいよだな」
色々な声がシドには耳にはいってはくるものの、動じずに儀式を見事な振る舞いで行なっていた。
そして、ギフト判別を執り行う刻印師の目の前に立つ
刻印師はシドに精神的抵抗を行わないように忠告をし、【刻印術】に抵抗をしないよう告げる。
シドはいわれるがまま無抵抗の自然体になるよう意識をする、そしてすべてを刻印師に委ねようとする。
この自然体となる行為が5歳の子供には非常に難しい。
しかし、シドは完全に自然体を体現してみせた。
その様子にも貴族たちから称賛の声があがる。
そして刻印師がシドのギフトを探り、覗こうとした時…刻印師の顔に怪訝な表情が浮かぶ。
シドは刻印師に何か不穏な空気が流れている事を感じ取る。
(どうしたんだろう…何か僕にあるのかな)
刻印師は慌てて、カタリーナとシドニスのもとに駆け寄り、いま起きている事態を深刻そうに伝え始める。
刻印師は青ざめた顔で
「陛下、シドニス卿…。ギ…ギフト…が見つからないのです。まるでないとしか思えません。」
2人は刻印師に何を言われているのかわからないといった顔である。
この世界ではギフトを持たないといった事は、考えにも及ばないことなのだ。
「何をいっている?息子は完全に精神的抵抗をしていないではないか。5歳にして、あれほど完璧な無行の型はそうそうみられるものではない。よその子よりも簡単にギフトの見分けがつきそうなものだ。」
シドニスは話にならないといった感じで刻印師を責める。
しかし、手配した刻印師の力をよく知っているカタリーナ自身は状況を辛うじて理解する事ができたのである。
それでも、ただ信じられないといった顔でシドをみるカタリーナ。
それに気づき反応するシド…
(やっぱり何かがおかしい…)
シドは何が起きているのか分からずただその場で立っている事しかできずにいた。
いくら賢くてもまだ5歳児である、異常事態なのは理解していても、何もできないのが当たり前であった。
そして、
刻印師はシドの元にもどり、さらにギフト判別を試みるが…
………
やはりギフトが見つからない…ギフトがないのである。
……
貴族の判別の儀では例えギフトが小さかろうがスキルが不遇であろうが公表しなければならない。
これには嘘偽りは絶対に許されない。
その為、刻印師は顔を引きつらせながら
「シド=ヴァランのギフトは…ギフトは存在しません!!当然スキルも…」
そこまで言い、刻印師は言葉につまってしまった。
(ギフトがない…えっ、どうゆう事?母様、父様、先生、僕を助けてよ!)
シドはその言葉をきき、カタカタと震えだす。
それまですこし騒ついていた儀式の間に
一瞬訪れる静寂 ーーーー
その後、周囲が爆発的に騒々しくなる。
ギフトを持たないという事が過去の事例にあっただほうか?
またそのような事が本当にある事なのか、リムージアが謀っているのではないかなど。
その場に居合わせた者ですら半信半疑にならざるえない事態であった為、どうしても仕方ない事だった。
儀典長が事態を収拾しようとしているが、その声など届くこともなく場は収拾がつかないほどの喧騒でつつまれていた。
勿論その全てがシドの耳には届いている。
(イヤだ、聞きたくない聞きたくないよ!早く僕を連れ出してよ。)
だが、途切れることのない雑音、喧騒
「騒々しいわっ!!!!」
凄まじい声で一喝が行われ、事態収拾が不可能と思われていた場が一転、鎮まりかえる。
レパントの英雄王ハイランドの一喝であった。
「その子の事を考えてやれ。この場で悪戯に大人が騒ぐ事などあるまいよ。」
豪放磊落なこの英雄王はただ豪放磊落なだけではなく誰よりもシドへの思いやりに溢れた一言を発した。
シドはハイランドを虚ろな目で見ていた。
(僕はどうしたらいいの?)
カタリーナはハイランドに一礼をし、この機に儀の終了を宣言する。
またわずかに騒々しくなる場だが、先ほどまでのような収集不可能な状況ではなく、無事に儀式を終わらせる事ができたのである。
判別の儀は終わった…
ただ儀式終了後もしばらくシドはその場に立ち尽くしていた…
シドに駆け寄るものは実の父シドニスを含め誰もいなかったのである。
(父様、父様、なんで来てくれないの、僕はどうしたら、母様助けて、助けて。)
シドは1人孤独を感じていた。儀式の前は自分の未来の明るさに1人期待を膨らませていた…
父や母、ジュリアスに自分の活躍を自慢したかった。
そうした希望は粉々に砕けた散っていたのである。
(僕にはギフトがない…どうしたら、どうしたらいいんだろう…僕は…何もない…僕は…)
シドは孤独に心を蝕まれていくのを感じていた。
動けないシドを差し置いて、その代わりといっては何だがこのニュースは瞬間的に世界中に広まる。
英雄王ハイランドと並び、シド=ヴァランの名は世界に知れ渡るほど有名となる。
それは…【無能者:持たざる者】として…
ついに判別の儀が終わりました。
シドにはギフトがありませんでした…
持たざる者として産まれたシド、さらに物語はシドに厳しい現実をつきつけていくことになります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♪ここからは物語をようやくシド目線で描いていけるようになります。
シドを愛する作者としてシドに悲しい思いをさせるのは辛いですが、頑張って書いていこうと思います。