1ー3 判別の儀1
オルドリアでは、5歳になった子は判別の儀を行います。ただ、5歳の誕生日に行うのは貴族くらいであり、貴族はその主君の王城にて儀式を執り行います。
貴族以外の子は5歳になった日から数ヶ月以内に王国が設置している役場などで月1ほどで行われている判別の儀を行なっています。子供の定期検診みたいなものですね笑
ついにシドは5歳の誕生日を迎えるーーー
その日シドは初めてリムージア王国の王都をたずね、儀式の前からすこし緊張した面持ちでいた。
シドの判別の儀の為に、リムージア王族、また他の大国、小国家の貴族から王侯まで数多くの者がリムージアを訪れており、次代のヴァランを見極めようとしている。
そうしたことはすでに王都の喧騒や話題などからも幼年のシドですら感じ取る事ができたのである。
(うぅ、緊張するなぁ〜帰りたいよ。)
シドは周りの空気に敏感に反応していたのである、
こうして世間一般でも貴族の判別の儀がこのように話題になる理由として判別の儀の世界的影響がある。
戦時中ではあるにもかかわらず、このように他国の貴族や王侯が敵味方の垣根を越えて他国を訪れる背景…
また判別の儀が他国への戦争の抑止力となりうるという事。
そして判別の儀の式典での敵対行為は国家間の協定によって禁止されており、それを破れば、協定違反国は他の協定国家より多くの制裁を受けることとなる事など判別の儀を多くの国家が率先して行う理由があるのである。
それは…
もう半世紀以上も前に判別の儀の重要性を認知させた事例である。
その事例は、とある人物があまりに偉大なギフトと、5歳にして強大なユニークスキル【絶対強者】を所有している事が判明した時である。
大国がその事を知るやいなや、当時小国でもあったその国家との戦争を取りやめ同盟を結ぶことに躍起となったり、その英雄をいかなる手段を用いて暗殺しようとしたのだが、10数年で敵対した大国は滅び、かたや小国だったその国は大国の一つとして成り代わったのである。
そしてその英雄は今も健在であり、今やオルドリア中に生きる伝説としてその名を刻んでいる。
ギフトとスキルが与える影響は動乱の世では世界のバランスを大きく崩す事にもなるのである。
そうした予想外の事態を起こさない為に、各国家連携で世界の情勢を変えうる存在を見張るという意味合いがこの協定を結ばせた背景であり、判別の儀の重要性を物語っている。
シドはシドニスにより式典の場である王城へと連れてこられた。
綺麗な城である。ヴァランの城も立派ではあるものの、この王城と比べてしまうとやはり少し見劣りする事がわかる。
彫金物一つとっても厳かな雰囲気を醸し出しているのである。
「綺麗なところですね、お父様。」
シドはシドニスに素直な感想をつたえる。
シドニスは笑顔で頷き、さらにシドに城の色々なところを案内してくれる。
そんなリムージア王城では、各国の貴族、王侯が形式的に言葉を交わしている。
そんな中、一際目立つ偉丈夫な人物が現れ会場の目を攫う。
その人物こそ7大国のうちの1国の王であり、件の【絶対強者】を持つ英雄王ハイランドであった。
もとより小国国家レパントの王族でもあった彼は王位を継承し、圧倒的な個人の資質だけでレパントを大国まで伸し上げた救国の英雄である。
そのハイランドが声をかける。勇ましい大きな声だ。
「久しいな、ヴァランの倅よ!」
シドを案内しているシドニスは声をかけられ思わず足を止める。
声をかけた人物に対し、父が睨みつけ、答える。
「レパント王、今は私が当代となっております。かつての戦役の折では先代がお世話になりました。」
ハイランドはシドニスの厭味を全く意に介さず続ける
「そう睨むな。俺はヴァランには最大の敬意を持っている。先代は俺との闘いによる傷がもとで死んだのであろうが、あやつは確かに強かった。」
ハイランドは思い出すように
「俺とあそこまでやりあえた奴はそうはいない、レパントではファース=ヴァランの名は轟き、ヴァランは戦場で敵対すれば畏怖の対象でもある。
そんなヴァランの次代の獅子ともあれば、この俺自身で確かめずにはいられぬわ。」
豪放磊落に言い放つハイランド。
この王の最大級の賛辞であることは間違いない。
それに余計な世辞など言うような人物ではない事は明らかだ。
英雄ハイランドはオルドリアでは知らぬ者がいないほどの生ける伝説である。5歳になったばかりの僕でも知っている。その英雄が僕の一族を讃えてくれることにシドは紅潮し高揚した。素直に嬉しかった。
(僕は英雄王が一目置くようなヴァラン家の長男なんだ。しっかりしないとな)
シドは儀式についてまた一つ大きな責務を負うような気持ちになった。
しかし、その賛辞を実際耳にしても父の顔は以前厳しいままである。
「そのような過分なお言葉を感謝いたします。もう少しお話をしたいのですが息子の準備がございますので、これにて。 レパント王いずれまた…」
いずれまたという言葉にいつか必ずという言葉が見え隠れしているようにシドは感じた。
ハイランドもその言葉に何も言わないがすこし眉尻をあげる。
挑戦ならいつでも受けてやると言った不遜なハイランドの態度であり、器の大きさを感じさせる態度であった。
父は祖父のことをあまり話してはくれなかった。
僕が産まれる前に死んだ事は聞いていたけど、英雄王ハイランドと戦い、その傷がもとで死んでいた事は知らなかった。
シドはもっと祖父の事を知りたくはあったのだが、父は忙しそうにしているので聞く事はできずにいた。
そうして、2人は、その後、シドは父と儀式の最終確認に、儀典の間を訪れる。
ここにはリムージアの人間しかいない。
そんな場所で、入念に確認し、侍従に指示をする父の前に現れたのは、老女を先頭とした4人の貴族だった。
全員他の人物達とは別格に感じられるほどの威容に包まれている。
父はしゃがみこみ騎士の礼をとる。
「陛下、此度の儀、リムージアの繁栄をお約束いたします。大魔道士イジュースを母に持ち、大賢者ライブラに師事を頼んだ息子です。この上ない環境にて育て上げました。」
4人の貴族からおおっという歓声があがる。
滅多なことでは驚きもしないであろう4人の大貴族が賞賛し感嘆している。
シドは母上が魔道士である事も初めて聞いた。
そして普段何気なく接してくれている先生が名前だけで貴族を驚かさせるほどの威名を有している事などシドには今まで知る由もなかったのではある。
シドは改めてライブラの事を尊敬し、早く帰り、色々と教えてもらう事を楽しみにしていた。
そして、陛下とよばれた老女が口を開く。
「それは素晴らしい事ですわ。リムージアはファース=ヴァランの早すぎる死を迎え、喪い。貴方という優秀なヴァランが引き継いでくれていたものの、ファースとシドニス2人が揃って武威を示していただいた時よりは精強とはいえません。
ですが、私たちはこの動乱の世を統一し、リムージアのもと世界に安寧をもたらせねばなりません。」
老女は強い意志を持って、父や4人の大貴族に宣言するようにいった。
「その為にリムージア5貴族から次代の英雄がうまれる必要がありますからね。」
そうして老女はシドを見る。シドは期待を込めて向けられた老女の目を正面から応えた。
その視線を前にシドはすこし気圧されてしまう。
それはその老女の眼光からは見た目の老年からは想像できないほどの生命力に満ちたオーラを感じた為である。
この只者ではないオーラを放つ人物こそ、大国リムージアの女王 カタリーナ=リムージアその人である。
(この人が僕の、そしてお父上が仕える主君なんだ。本当にすごい人というのが僕にもわかる。)
シドは子供ながらカタリーナに対し、尋常ならざる空気を感じ取ったのである。
そしてこれがシドと女王陛下との初の邂逅であった。
シドは父に倣い、騎士の礼をする。すこしぎこちないものではあったが、そこそこ様になっている。
「可愛い騎士だこと。期待してますよシド」
カタリーナは笑顔で優しくシドに微笑む
「はいっ」
と大きな声でシドは応えたのである。
女王の存在感を前にして、すぐには気づく事が出来ずにいたのだが、女王陛下の側に女の子がぴったりと付き添っていた。
シドがその女の子に気付いた事で、シドニスがその女の子は女王の孫であり、僕より一つ年上のお姉さんである事を軽く紹介してくれた。
女の子がカタリーナに促され、シドの前にでる。
シドの前に出た少女は
「バーバラ=リムージアよ!今日は貴方のことよく見ていてあげるわ。しっかりおやりなさい。」
プライドが高そうに女王陛下の孫が自己紹介をする。
正直、女王より偉そうだとシドは思った。
シドにとって正直苦手なタイプである。
「シドと申します。よろしくお願いします、バーバラ様」
シドは丁寧に子供ながら最大限の礼儀をつくして、挨拶をする。
バーバラはおかしい子といった感じで首を傾むけて
「バーバラでいいわ、普通にお話をしなさいな。私たちはまだ子供なのよ、無理に大人ぶる必要はないわよ。」
バーバラはプライドが高いのではなく自分自身の我を通すタイプの人間だとシドは理解した。
それでもやはりシドには苦手なタイプだった…
「ねぇ、シド、私の部屋にきて、遊びましょうよ」
バーバラはシドの手を引っ張り連れて行こうとする。
しかし、それを制止したのはカタリーナであった。
「バーバラ、シドくんはこれから儀式です。貴方にも覚えがあるでしょう。今は遊んではいられませんの、また今度にしなさい。」
バーバラはカタリーナには逆らえないのか素直に、ただ拗ねた顔で負け惜しみのように一言シドに告げる。
「絶対今度遊ぶからね!シド!もうわたし達はお友達なのよ!」
勝手に友達宣言をし、つまらなそうにカタリーナの横にちょこんと戻っていった。
すこし哀れに思ったのか
「また遊びましょう、バーバラ」
シドはバーバラを気遣い優しく笑顔をむけた。
その笑顔をみたバーバラの顔はすこし妖しく微笑んだようにみえた。
「それではあまり邪魔したら悪いわね、頑張りなさいなシド。シドニス、また儀式の後に…。」
カタリーナはそういって儀式の間より4人の貴族とバーバラを連れ退室していった。
その去り際に、カタリーナに対しバーバラが言った言葉がぼくに産まれてより最大の恐怖をもたらした。
「ねぇ、おばあさま、シドは可愛いわ。将来私のお婿さんにしてあげるわ。」
カタリーナはただ子供の戯言といって本気にはせずただ笑っていた。バーバラの目は本気だったのだが。
そんな恐怖の発言に対し、思わずシドは
(ぼくはお母様と結婚するんだ)
と心の中で強気に言い放つのであった。
そしていよいよ、式典が執り行われようとしている。
ついに判別の儀の式典へ…
新しい登場人物にリムージア女王カタリーナ=リムージア、バーバラ=リムージア、レパント王ハイランド=レパントが出てきました。
レパントはオルドリア7大国の1つです。
そしてハイランドのスキル【絶対強者】とはギフトとスキルの制約により、敵対するものより必ず強くなるというチートスキルです。相手が強ければ強いほど強くなります。つまり彼と一対一で勝てる生物はいません。それは5歳児の時の彼であってもです。
そんな人物のいる国なら独裁してしまうと思われるかもしれませんが他にも偉大な英雄や世界のバランサーでもある勇者がいるのでそう簡単にはいかないのです。
また魔道士関連の呼称ですが、
魔道士と魔導師と魔導士は意味合いが若干異なります。魔道〈 魔導 くらいのニュアンスでご理解いただけると助かります♪
また士〈 師 も同様です。
賢者は世間から尊敬を受けた知恵者が呼ばれる呼称で、自身で賢者と名乗ることはございません。
それでは遅くなりましたが、ここまでお読みいただけて本当にありがとうございます!