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デイウォーカーの役割。

 どうも。

 そろそろこの辺の美味しい狩場も食い尽くして、稼げるところ(というよりかはむしろ暇を潰せるところ)が無くなって暇になっているところに、ギルマスから冒険者育成学校の臨時講師の指名依頼を頼まれた望月朔夜です。


 うん。

 前回のあらすじの説明はこんなもので十分でしょ。


 ……え?

 メタ発言やめろって?


 別にいいじゃん、減るものでも無し。


 さて。

 さらっと前回のおさらいを済ませたところで、早速準備に取り掛かるとしようか。


 私はギルマスから詳細情報を聞き取ると、食事を終えてギルドを後にすることにした。

 続いて、エリオットも私の後ろについて歩く。


「まあ、準備というほどの準備は無いんだけどねぇ」


 常に必要なものは、すべて自分の影の中に収納している。

 これは、吸血鬼の固有スキルの一つである《隠遁》スキルによるもので、これは影の中にモノを隠したり、自分が影の中に入って隠れたりできる便利スキルだ。


 たまにこれを使ってエリオットの中に隠れて休んでたりする。


 ホント、便利な体に転生させてもらったものだとつくづく思うよ。


 呟いて、くるりとエリオットの方を見る。


「そっちはなにか準備とかあるの?

 今暇だから、あるなら手伝うけど」


 ぶっちゃけ、ダンジョン攻略で得た財産が大量に余ってるからお金に困ったりしない。

 この体は食事も睡眠も不要だし、食事をするのもほとんど趣味か医療目的でしかない。

 必要なものといえば衣類くらいで、手ぶらで旅行してもまったく問題はない。


(まあ、その衣類だって《霧化》のスキルの応用でいくらでも作り出せるんだけど)


 というわけで私はエリオットにそう聞いてみた。


「そう……だな。

 俺も特に用意するものはないかな」


 強いて言えば、彼の場合はお金も必要だが、それは別に彼のポケットマネーでも十分に足りる。

 そして私は彼の影の中に引きこもっていれば、その宿代や鉄道の運賃すら必要ない上、空を飛べば影の中に引きこもらなくても首都まで移動できたりする。


 ……え?

 チートすぎるって?


 いやいや、これは私の努力の結果だから。

 まあ、種族補正が多分に影響していないでもないけど、それはこの際関係ない。


「そっか。

 じゃあ明後日の出発日まで暇になるね」


「だな」


 エリオットは苦笑いを浮かべて首肯した。

 と、そのときだった。

 私の鼻が、大量の血の匂いを感知した。


「ん?」


 ……この感じは、戦闘で出血したときの匂いだ。


 戦闘で怪我を負った際に出た血には、体がストレスを感じているせいで雑味が交じる。

 その雑味(ストレスの味)は匂いでも十分に感じ取れるのだ。 


 しかも、この口に残る苦い感じは、かなりの大怪我だ。

 さらにこの匂いは吸血鬼と人間のもの。


 しかも割合的には吸血鬼の方がダメージが大きい。

 つまり人間の正体はヴァンパイアハンターか。


「どうした?」


 急に足を止めた私に、エリオットが怪訝そうに尋ねる。


「ヴァンパイアハンターと吸血鬼が戦ってる。

 でも、吸血鬼の方がおされてるみたい」


「で、どうするんだ?」


 その回答に、エリオットは至極つまらなさそうに相槌を打つ。

 別に助けに行かないといけない相手でもないし、私にとってもこの程度のヴァンパイアハンターなら手を触れずにあしらえるレベルでしかない。


 それに、助けたところで面倒が増えるだけだし、こんな時間に外に出る吸血鬼が悪い。


 ……え?

 私が冷血だって?


 いやいや、別におかしくないでしょ。

 この世界において、基本的には吸血鬼って害獣とか魔物と同じ扱いなんだよ。


 私はまあ、例外中の例外っていうか。


「別にどうもしないよ。

 特段強い人でもないし、そもそも日中に出歩くなんて命知らずとしか言いようがないもの」


 大概の吸血鬼は、日光に弱い。

 触れただけで灰になるのがほとんどだ。


 であるにも関わらず、自分の本領を発揮できない夜ではなく昼間に外に出るだなんて、よほど死にたかったお馬鹿さんなのだろう。

 自殺志願者を助けたいと思うほど、私は偽善者ではない。


「……それ、お前が言うか?」


 エリオットが茶化してくるが、私は笑って無視をした。


 それからそれに対して特に興味も示さなかった私は、踵を返して駅の方へと足を向けた。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 大通りからそれた、狭い路地裏。

 その奥、少し開けた部屋のような形になっている場所に、青年が一人、目の前に積まれた灰の山に手を突っ込んでいた。


「ちっ、こいつもハズレか」


 灰の山――正確には、そこに同時に埋まっている女性用のローブの中から、女物のショーツを引っ張り出しながら吐き捨てる。


 傍から見れば、灰の中に埋もれていた少女下着を漁っている変態に見えるかもしれないが、彼の目的は下着あさりではない。

 そもそも、この下着は隷人族ヒューマンのものではなく、彼らの言うところの吸血鬼ヴァンパイアのものだ。


 ヴァンパイアは生物ではなく現象であり、生き物ではなく魔物でもない。


 理性を持たない彼らは、隷人族――彼らは自分のことを人間と呼ぶが――からすれば、自然災害の延長線上にいるような存在なのだ。


 つまり、彼に特殊な性癖でもない限り、彼は吸血鬼の下着を漁っているわけではないのだ。


「……また、振り出しか」


 彼はそう呟くと、白いスーツを翻してその場を後にしたのだった。


⚪⚫○●⚪⚫○●


 どうも。

 特にすることもなく暇なので、早めに首都に行って観光でもしようかなと思っている朔夜ことルナです。


 ……え?

 いっそのことどっちかに名前固定しろって?


 んー、そうだね。

 前世の名前をいつまで使っていても仕方ないし、これからはルナで統一することにするよ。


 閑話休題。


 ところで、この世界には鉄道が存在する。

 電車ではなく蒸気機関車で、一部分には魔法道具による機構が組まれた列車だ。

 ちなみに、この蒸気機関は私の発案ではなく、今目の前で鉄道の切符を購入しているエリオットの親戚のおじいさんだったりする。


 そんな鉄道は、この世界において前世で言う飛行機くらいにはポピュラーな乗り物だ。

 この世界(というよりも私が住んでる大陸)の地図関係を簡単に説明しておくと、『核都市』と呼ばれる密集した街が、広い平原や山を挟んでポツポツと存在している形になっている。

 なぜこんなことになったのかと言うと、この世界特有の存在である魔物が多分に影響しているらしい。

 その魔物から民を守るための結界を作るために必要な魔力を得るための魔石にコストがかかりすぎるため、街の規模も小さくならざるを得なかったんだとか。


 そこで、核都市同士の距離がかなり開いてしまって、核都市間を行き来するのに時間がかかるというわけで、それを解消するために鉄道が開発されたらしい。 


 私達が現在拠点にしている街にもその駅が存在し、一日にニ〜三本くらいは機関車が通るのだ。


 ……まあ最も、私達のパーティはだいたい空を飛んで移動するから、あんまり鉄道使わないんだけどね。


「鉄道の切符買ってきたぞ、ルナ」


「ありがと。

 いい席取れた?」


「飛び出るほど高かったけどな」


 言いながら、私に『12:22発-首都エキック行き:一号車/窓側S席2-r1』と書かれた紙切れを手渡してくる。


 書かれている意味は、先頭車両の二階、右の窓側一番席だ。

 S席は先頭車両から三号車までを指し、その区間内の席はそれぞれ個室になっている。


 ちなみに個室がついているのはS席だけで、それ以外はソファ席だったりする。


「うん、なかなかいい席とってきたじゃない」


 私は満足そうに切符を受け取ると、自分の影の中に切符を仕舞う。


「それにしても、まだ出発まで時間あるね」


 今の時刻は、ちょうど九時を過ぎたくらいだ。

 駅に来るまでの間、直行せずにお世話になった店とか覗いて挨拶とかしてたから、それなりに時間が経っている。


 今回鉄道を選んだのは、単に暇だから列車から見える風景でも楽しみながら首都まで行こう、ということにある。

 景色を楽しむなら空を飛んでもいいが、鉄道の窓から見る景色というのも面白い。


 ただ、出発までに時間がある。

 それまでの暇をどう潰すかだけど……。


「だな。

 昼にはまだ早いが、鉄道の時間を考えると微妙な時間帯だし……駅弁でも見て回るか?

 それか、向こうの学校の先生たちにお土産とか買っていく?」


 対して、無難な返答をするエリオット。

 まあ、確かにこれから仕事に行くんだし、それくらいの手土産はあったほうがいいかな。


 そう思って駅構内の売店を巡ろうと、とりあえず近くの小物売り場へ足を向けたところで、こちらに近づいてくる血の匂いに気がついた。


 その匂いは二種類。

 だが、近づく気配は一つだけ。


 ……返り血か。


「どうした、ルナ?」


「んー、暇つぶしできそうな案件が増えたみたいだよ」


 私はくるりと後ろを振り向くと、近づいてくる存在にこちらから出向くことにした。


 エリオットはそんな私の返答を聞くと、私が足を向けた方へ視線を飛ばす。

 するとそこには、一人のエプロンドレス姿の女性がこちらへと駆け寄ってきているのが見えた。


 その白いエプロンには赤い血糊が付着していたが、周りの人たちはそれに騒ぐような事はしない。


 ここは異世界で、魔物の脅威に常にさらされ続けている。

 だから、冒険者が魔物を退治して帰ってきたとき、その体に血が付着していることは珍しくないのだ。


 だから、この世界ではその光景はさほど珍しくないのだ。


「よ、良かった……まだ出発してなかったんですね」


 その女性は私の存在に気がつくと、ほっと胸をなでおろした。

 しかし、その顔にはまだ焦りの表情が残っている。

 彼女がAランク冒険者である私を頼るような案件だ、さぞ重大な事件なのだろう。


 私はどこか胸をワクワクさせながら、私の横を素通りして(・・・・・・・・・)エリオットの前に一枚の紙を突きつけた。


 説明する時間が惜しかったのだろう。

 エリオットは紙を受け取ると、その内容に視線を走らせて目を見開いた。


「急な依頼で申し訳ありません、エリオットさん」


「いいよ、これなら仕方ない」


 エリオットはそう答えると、その紙を私の方へ投げて寄越した。

 私はそれを受け取ると、その内容を確認する。

 なるほど、たしかにこれは私向きか。


 私はエリオットの意図を汲み取ると、ニヤリと笑った。


「頼んだぞ、ルナ」


「わかったよ、マスター(・・・・)

 その代わり、お土産の準備はよろしくね?」


 私はそう言ってスクロールを影の中に落とすと、人混みの上を飛んで駅を出た。

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