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Aランク冒険者のデイウォーカー。

 どうも、望月朔夜もちづきさくよです。

 ある日のバイト帰りに、偶然通り魔に殺されて異世界に転生してきた高校一年生です。

 もし通り魔事件がなければ、今頃私は社会に出て、つまらない仕事をしていたんだろうけど……。

 生憎、私はそっちの世界には生きていない。

 代わりに異世界に転生して吸血鬼になってます。


「……まあ、吸血鬼と言ってもほとんど人間と変わらないんだけどね」


 物語での吸血鬼は、何かと結構物騒だ。

 闇に隠れて忍び寄り、人間の血を生きたまま吸って吸血鬼の眷属に仕立て上げる。

 鏡やビデオには一切その姿を映すことはなく、姿を霧に変えたり、またはコウモリに変身して空を飛び回る。


 映画、ドラキュラ伯爵でお馴染みの設定だ。


 ……まあ、あのドラキュラ伯爵はあまりにも耐性に難がありすぎるけど。


 私は、そんな映画のヴァンパイアとは真逆の世界を何不自由なく闊歩しながら、そんな自分に思わず苦笑した。


 血の匂いでわかる。


 さっき隣をすれ違った、この暑い真夏にめちゃくちゃ厚着してる上に日傘さしてた彼女は、紛れもなく我が同胞――つまり吸血鬼だ。

 少しは《日光耐性》があるようだが、私ほど堂々と外を出歩けるほどの耐性でもないのだろう。


 可哀想に。


 私は鼻歌交じりに人間の街を歩きながら、一つの建物の中へと足を踏み入れた。


「こんにちは〜!」


 軽く中の人に挨拶をして、酒場の席を縫うように歩きながら掲示板の前まで歩く。


 今はまだ早朝だが、そこにはかなりの人だかりが出来ていた。


「お、ルナちゃん!

 今日も早いねぇ!」


「おはよう、エリオット。

 そういう君こそ、今日も早いね」


 ルナ、というのは、冒険者に登録した際に使った偽名だ。

 この世界では私のような日本人みたいな名前は目立つから……という理由で、最初に無難な名前をつけたわけだが……。

 まあ、吸血鬼の身体能力がいい方向へと災いしまして。


 早くも去年、冒険者ランクがAまで上がっちゃいました。

 おかげで目立つ目立つ。

 だから、もう目立たないことにするのをやめて派手に生きてます。


 ……え?

 冒険者とは何かって?


 冒険者というのは、簡単に言えば国を超えた民間組織のなんでも屋かな。

 魔物退治とかいう危険な仕事から、庭の草抜きや街の清掃。はたまた吟遊詩人のコンサートの設営の手伝いとか、行承認の護衛などなど、多岐にわたる仕事をこうして『冒険者ギルド』――通称ギルドを介して請け負う人の事だ。


 そして、冒険者にはそれぞれ、その依頼の達成度や実力からくる信頼度によって、SからFランクまでランク分けされている。


「る、ルナってまさかAランク冒険者のデイウォーカー!?」


 エリオットの挨拶を耳ざとく聞きつけた冒険者の一人が、私を振り返って騒ぎ立てる。

 同時に、それを聞いた数名のパーティが私の方に関心を示した。


「ほ、ホントだ!

 デイウォーカーだ!」


「デイウォーカーさん!

 ファンです!サインください!」


 私はAランクだから、上から二番目。

 一流の冒険者という位置づけだね。


 ちなみに私はこの街を中心に活動しているので、同じくこの街で活動している冒険者からすれば『またか……』という心境である。


 彼らは多分、冒険者になりたてのルーキーか、もしくは他の街から移ってきた冒険者なのだろう。


「あはは、参っちゃうなぁ」


 笑って答えながらも、そそくさと渡されたサインボードに名前を書いてプレゼントしてあげる。


 二つ名がつくまで有名になった今の私には、このように結構ファンが多い。

 ファンが増えたのは、Cランクあたりに登ってきたころからだったかな。

 この辺りのランクになると、こうしてファンが生まれる冒険者も少なくない。

 それはつまり、その分信頼されているからと言うこともあるのだろうが……冒険者は信頼だけでは務まらない。

 実際に魔物と戦えるだけの能力。

 そこが男どもの憧れを擽って、ファンを増やすのだろう。


「ありがとうございます!

 一生大事にします!」


 サインを強請ねだってきた少年冒険者は、満面の笑顔でそう言うと、キラキラと目を輝かせながらこちらを見つめてきた。


「あはは……ありがとう」


 正直言うと、嬉しいのは嬉しいけど対応がつかれる。


 私は乾いた笑みを浮かべると、エリオットの影に隠れた。


「それで、今日の依頼はどうするんだ?」


 そんな私の行動を皮切りに、彼は掲示板に目を向けながら私に尋ねてきた。


「うーん、最近目ぼしい強敵がいないからなぁ。

 近くのダンジョンもあらかた踏破しちゃったし」


 ダンジョン。

 地中海辺りの伝説で、ギリシアのクレタ島のミノタウロスの話を思い浮かべれば近いだろう。

 つまりダンジョンとは迷宮のことだ。

 内部で魔物が跋扈する、建造物型の魔物の事を主に迷宮ダンジョンと呼ぶのだ。


 まあ、正確には呼び名というか魔物の種別的なカテゴリかな?


「そうか……。

 そういえば、もう残ってるのって最近できたゴブリン洞窟くらいか?」


「ゴブリン洞窟なら昨日潰した」


「仕事早ぇなぁ、おい」


 眉をしかめながらそうツッコミを入れるエリオットに、私はクスリと笑う。


 とりあえず、今日は良さそうな案件が見つからないし、ここは後輩たちの踏み台として依頼は残しておいてあげるか。

 私なら、もう何年も遊んで暮らせるお金を持ってるわけだし。


 ……主に現代知識チートによる特許財産で。


 私は掲示板の前から離れると、一番近い席に腰を下ろした。

 続いて、私が冒険者になった頃からグルを組んでいるエリオットも、向かいの椅子に腰を下ろす。


「レバニラ炒めのニラ抜きでレバーは生で。

 ……んで、君も今日は休む気?」


 やってきたウェイトレスに朝食を注文しながら、私はエリオットに尋ねた。


「まぁね。

 俺もいいのが最近見つからなくてな。

 (それ、ただの生レバーだよな?)」


 続いて、彼も私と同じように朝食を注文して私の問に答える。


「そ。

 なら、いっそ活動の拠点移す?

 私ならテレポートの魔法があるからいつでも帰宅できるし」


「……お前、それ簡単に言ってるけどそれ結構ヤバイことだからな?」


「知ってる」


 苦笑いを浮かべて、私は注がれたお冷に口をつけた。

 少し酸味が効いていて、ちょっと美味しい。


「で、どうなの?」


「どうとは?」


「きょ・て・ん!

 活動の拠点を移すのは決定として――」


「あ、決定してたんだ」


「――どこに拠点を移すかって話」


 私は机に肘を付きながら、エリオットに決断を迫った。

 背凭に体を預けて、う〜んと唸ってみせるエリオット。


 この動作は、かなり面倒くさいと思っているときの仕草だ。


 私は『はぁ』とため息をつくと、運ばれてきた朝食に手を付けた。

 それとほぼ同時に、エリオットの方も配膳された朝食に視点を切り替える。


 ――と、そこに一人分の足音がこちらに近づいてきているのがわかった。


(この血の匂いは……ギルマスか)


 ギルマス。

 ギルドマスターの略で、各ギルドを統括している、コンビニで言えば店長みたいな存在だ。


 ……え?

 ギルマスとコンビニ店長を一緒にするな?


 いやいや、ギルドも便利屋と言う点で言えばコンビニの店長としてギルドマスターを説明するのもあながち間違いではないだろ。


 私は生レバーを頬張る手を止めると、ギルマスの方に頭だけを振り向かせた。


「もしかして指名依頼とか?」


「ご明察だデイウォーカー。

 ここから南に鉄道で三日のところにある首都エキックで、臨時で冒険者育成学校の講師を一ヶ月だけ頼まれてる。

 受けるか受けないかはいつもどおり君に任せるが……どうする?」


 首都で臨時講師かぁ……。

 そういえば、首都にはまだ行ったことなかったっけ。


 私はニヤリと笑いながら、片手でお金のハンドサインを送る。

 すると、ギルマスは思いため息を付きながら、懐から小切手を取り出して私に手渡した。


 ハンドサインを作った手で受け取ってみると、そこには100Gの文字が刻印されている。


 私からすればはした金だが、普通の講師の一ヶ月分の給料がこの十分の一なのだから、かなりいいお値段という事になる。


「それは前金だとよ。

 成功報酬では別途、同額の金が振り込まれる契約だ」


 ギルマスのそのセリフを聞いて、チラリとエリオットの方に視線を送った。

 その先で彼は、やれやれと首を振っている。


 どうやら私が行きたがっていたのを察したらしい。


「よし、次の拠点は首都エキックで決まりだね!」


 私はそう宣言すると、非常勤講師の依頼を受諾したのだった。

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