朝に目覚める吸血鬼。
突然だが、吸血鬼をご存知だろうか?
そう。
人間の生き血を吸って生き、日光に当てられると灰になる伝説の生物。
映画ドラキュラ伯爵のイメージから、吸血鬼は鏡に映らないだとか、灯りがなくてもよく目が見えるだとか、霧になることができたり、コウモリになって空を飛んだり、怪物的な膂力の持ち主だとか、そういう強くてこわーい感じを想像している一方。
実は流水が苦手、銀が苦手、聖水が苦手、ニンニクが苦手、果ては日光に当たると灰になって死んでしまうと弱点の多い存在である。
……まあ、つまり夜の間だけは無敵になれるヤバイ生き物として描かれているわけだが。
実際のところ、アレは特別ドラキュラ伯爵が弱すぎたという、ただそれだけの問題である。
「……朝か」
私は廃屋のベッドの上で、窓から差し込んでくる日光に目を細めながら上体を起こした。
念の為体を確認するが、別にいつもどおりの白っぽい肌である。
どこかが灰になって崩れているとかそういうのは一箇所も見当たらない。
「さすが、デイウォーカーは頑丈だな」
並の吸血鬼なら、この冬空の日光ですら日焼けをしていたことだろう。
しかし私にはそんなものは関係ない。
なぜなら今の私は、日光耐性スキルを極めに極めまくったデイウォーカーの吸血鬼だからだ。
「うん、こんな感じかな」
私は鏡に映した己の肉体を見ながら、体を霧化させて姿を変え、ニコリと笑みを浮かべてみせる。
「うん。
今日も良くできてる!」
この世界に転生して早くも二十五年。
大分この世界にも馴染んできたところだ。
私は黒い長髪を靡かせると、首から自分の名前が掘られたドッグタグを身に着けて廃屋を後にしたのだった。