IX
「オマエは……相馬ソラ!? 」
「オマエ……オレらを騙したな?」
突然現れた少年・相馬ソラはイクトを睨みながら冷たく言い、そして右手に銃を持つとそれをイクトの方に向けて構えた。
彼の構えた銃はハンドガン、いわゆる拳銃というにはサイズが少し大きく、どちらかと言うと自動小銃と言った方が良さそうなものだ。
その見た目からイクトはそれが闇市で流通しているものではないと確信するが、同時にその銃のまだ見えぬ全容に警戒せざるを得なかった。
(ヤバいなあの銃……。
片手で扱える限界のサイズ、さらに拳銃の携行性を両立されてるのは確かだけど、それよりもさっきのだ。
炎の弾丸……どうやって撃ったかは分からないけど原理的には弾薬を独自に改良して……)
「おい、聞こえてるよな?」
イクトが頭の中で考えているとソラは引き金を引き、銃口から炎の弾丸を放つ。
放たれた炎の弾丸は勢いよくイクトに向かっていくと彼の右の頬を擦れるように横切り、彼の背後の壁に命中するとそのまま壁を破壊してみせる。
「な……」
(今のは何だ!?
引き金を引いた瞬間に炎が弾丸になったのか!?
だとしたらありえない!!
銃の内部で着火してるなら他の弾薬に引火して……)
「今のは警告だ、次は頭を狙う。
……オマエはオレたちを騙したのか?」
ソラは銃の照準を定め直すように構える中でイクトに告げると質問し、身の危険を感じたイクトはありのままのことを説明した。
「誤解を招いたかもしれないけど騙してはいない。
オレは彼とここに来てキキト……情報屋について調べようとしただけだ」
「調べに来ただけならこの惨事はどう説明する気だ?
コイツらは明らかにオマエだけでなくガイも攻撃しようとしてた。
違うか?」
「それはたしかにその通りだ。
けどオレはオマエたちを騙すつもりはない」
「その場しのぎの嘘ならオマエの四肢を焼き切った後にオマエの喉を焼いて二度と言葉を発せなくする。
それを忠告した上でもう一回聞くぞ。
オマエはオレたちを……」
「このガキ、調子に乗るなよ!!」
イクトの影によって拘束されていたはずの男の一人が力任せに拘束を解くと身に隠していたナイフを手に持ってソラの方へと走っていく。
「オマエらみたいなガキにナメられたまま終わると思……」
「……うるせぇよ」
ソラは銃を向かってくる男の方へと構え直すと何の躊躇いもなく引き金を引き、三発の炎の弾丸を放つ。
放たれた炎の弾丸は男の両足にそれぞれ一発ずつ、そしてナイフを持つ手に一発命中し、三発の弾丸は命中した男の体を抉るように貫通していく。
そしてそれが普通の弾丸ならそこで終わっていた。
だがソラが放ったのは未知の弾丸、炎の弾丸だ。
体を貫通した炎の弾丸の残り火と思われる小さな炎が男の全身を飲み込むような大きな炎となり、男の体を燃やそうと飲み込んでいく。
「ああああああああぁぁぁ!!」
炎に包まれた男は熱さと徐々に負っていく火傷の痛みから悲鳴を上げる。
その悲鳴は戦場となった店内に響き、それを聞いた他の男たちは拘束を解こうなどという行為をやめるほどに恐怖を感じていた。
が、その恐怖はソラによって塗り替えられる。
「黙れ」
悲鳴を上げる男に向けてソラはさらに弾丸を放ち、躊躇うことを知らぬ弾丸は放たれると男の脳天に命中、先程の三発の弾丸と同じように貫通してみせた。
悲鳴が止むと同時に男は倒れ、男の全身を包む炎も静かに消えていく。
脳天に弾丸が貫通した、その結果から分かる光景がこの狭い店内にいる全員の目に焼き付けられている。
「こ、コイツ……」
「殺しやがった……!!」
「迷うことなく人の命を……」
怯える男たち、その言葉を聞くとソラは次の狙いをその男たちに決めると構えた。
「何勘違いしてんだ?
オレはヒロムの命を狙う敵を始末するためにここに来たんだ。
無駄に抵抗するか敵意を見せたヤツを殺すのに躊躇する理由なんざねぇよ」
「あ、アイツ……」
男たちに向けて冷たく言い放ったソラの冷酷な瞳、それを目の当たりにしたイクトは彼に対して畏怖の感情を抱くと同時にその内にある思考回路の異常さを危険視した。
誰かのため、その単純な理由のために目の前の命を簡単に奪えるその発想がイクトにはなく、その対照的な考えのソラがどんな行動を取るのかが怖かったのだ。
(誰かのために戦う……理由としては真っ当だ。
けどその目的のために顔色変えずに殺しを行うなんて……)
「……で、オマエはどうなんだよ「死神」。
コイツらは敵だとハッキリしたがオマエはまだだ。
オマエだけは弁解の余地を与えてやる」
ソラはイクトに向けて告げると銃を再び彼に向け、そして引き金に指をかける。
引き金をいつでも引けるように、彼はイクトの命を奪うことすら躊躇う様子はない。
「……時間くれるのは有難いね。
信じられないかもだけど、オレはここでキキトに売られたことを知ったばかりだ。
オマエが殺した賞金稼ぎもオレを殺して金を手にしようとしてたんだ」
「……そんな話をオレに信じろ、と?
ナメられたものだな……」
事実だ、とソラから守るようにイクトの前にガイは立つと銃を構える彼に向けて説明した。
「彼の話は本当だ。
ここに来てキキトについて聞き出そうとしたら手厚い歓迎を受けたんだよ」
「手厚い歓迎、か……。
オマエが言うなら信じるよ」
その代わり、とソラは銃を下ろすと歩き出し、イクトの影が未だ拘束している店のマスターの前に立った。
そして……
「さて、オマエだけは選択肢を与えねぇ。
こっちの質問に答えろよ?」
「ぐっ……誰がオマエなんかに……」
「先に言っておくが、オレが「死神」に言ってた言葉……あれは脅しではないから覚悟しとけ」
「何を……」
「さて、キキトってのはどこにいる?」
「だ、誰がオマエなんかに……」
「オマエに拒否権はない」
ソラは右手に炎を纏わせるとマスターの右腕を掴み、そしてそのまま右腕を焼き始めた。
「ああああああああぁぁぁ!!」
「答えないなら四肢を焼き切ってでも吐かす。
それでも吐かないならすぐに終わらぬ苦痛で痛めつける」
「ぐううう……あああ……うう!!」
「答えろ。
キキトってのはどこにいる?」
ソラはマスターの右腕から手を離すと、右手に纏わせた炎を見せつけながら問い詰める。
マスターは痛みに悶えながらもソラを睨み、その態度に少しイラッとしたソラは左腕を掴み、同じように焼いていく。
「がああああああああぁぁぁ!!」
「答えろって言ってんだろ?
オマエにはまだ聞きたいことが山ほどあるからな。
……答えられるのから聞いてやるよ」
するとソラは右手の炎を消すとポケットから何かを取り出し、取り出したものをマスターの顔に近づけるとしっかりと見せた。
「これ、分かるよな?」
「それは何だソラ」
「ああ……ガイは話聞いてなかったからいいか。
これは遠隔送受信式の広域追跡装置だ。
Wi-Fiなどのように広範囲から電波を送受信する装置だが、これはさっきの戦闘を行っていた場所の他にオレたちの学校やここに来るまでの道中に設置されていた」
「盗聴器か?」
「所謂、な。
戦時中に米軍が敵地に設置して手軽に情報を得ていたものだ。
ヒロムがある人物に調べさせたらこれは国内に設置された数と国が回収した数が合わなかったらしい」
まさか、とガイが何かに気づくとソラはそれに応えるように頷き、そして続きを話した。
「おそらくは「十家」が密かに回収していたものが裏ルートで回りに回って情報屋の手に渡った。
その情報屋がコイツだ」
「ぐっ……」
「何のためにそんなものが?」
「気づかないのか「死神」?
これはオマエを監視するためのものだ」
「は?」
「オマエは元々ヒロムを始末するために用意された捨て駒だ。
その駒の動きをこの男は監視してキキトか誰かに報告してたんだよ。
しかもご丁寧に逆探知したら爆発する細工までしてあるぜ」
「もしかしてオレが感づいた時のためにか?」
「ああ、悲しいことにな。
おそらくオマエが依頼を受けた時から用意されてたんだろうよ」
マジかよ、とショックを受けるイクトを見るなりソラはため息をつくと再び銃を構え、マスターの右肩に弾丸を撃ち込む。
「ぐぁぁあ!!」
「気が変わった。
キキトはどこにいる?」
「わ、分かった!!
話す、話すから待ってくれ!!」
「早くしろよ?
話すのを三秒躊躇う度に足の指を一本ずつ弾丸で破壊する」
「は、話す!!
お、オレはキキトに電話で頼まれたんだ!!」
「何をだ?」
「イクトを始末するために賞金稼ぎを招集しろって……!!
オレが裏で集めてた追跡装置のことを軍にバラすって言われたんだ!!」
「なるほど……保身のために従ったんだな。
それでそのキキトはどこにいる?」
「オレは知らない……!!
知ってるとすればリブラだ……!!」
リブラ、その単語を聞くとソラはイクトに視線を向けた。
視線を向けられたイクトは説明を求められていると理解するとソラとガイに説明した。
「リブラは情報屋の護衛を行う情報屋兼賞金稼ぎだ」
「あ?
何で情報屋と賞金稼ぎをしているヤツが護衛なんてやってんだよ?」
「少し面倒なヤツだよ、あの男は」
「そうか……で、そいつはどこにいる?」
「こ、この時期は熱海にある情報屋の集会所に滞在してるはずだ」
「本当なんだろうな?」
「あ、ああ!!
本当だ!!
その集会所の場所はイクトが知ってる!!」
マスターの言葉を確認するようにソラはイクトを見ると、イクトは答えるように頷いた。
それによりマスターの話が事実だと理解するとソラはマスターの両足に弾丸を撃ち込むと背を向けた。
「ぐぁぁあああああああああぁぁぁ!!」
「情報提供感謝する。
その代わり、アンタらに未来は与えない!!」
***
三十分後……
店の外に出たソラとガイ、そしてイクトはどこかに向かおうと歩いていた。
彼らが後にした先程の店の入口から黒煙が吹き出し、それに誘われるように野次馬が集まり出していた。
「やり過ぎじゃないか?
リブラってヤツやキキトに警戒されるだろ……」
「見せしめだよ。
誰に手を出したのか……思い知らせてやるんだ」
ガイが心配する中でソラは言うと、イクトに向けて告げた。
「集会所の場所は分かるんだな?」
「ああ、何回か行ったことがあるからな。
案内……するしかないよな?」
当然だ、とソラは冷たく言うとイクトは確かめるようにある事を質問した。
「簡単にオレを信用していいのか?
一応オレは……」
「オマエが裏切ったら殺すだけだ。
死にたくなかったらしっかりナビしろ」
「……だよねぇー」
ソラは一人先に歩いていき、そんなソラの背中を見ながらイクトはため息をついてしまう。
するとガイがそんなイクトを励ますように言った。
「アイツはヒロムのことになると手段選ばないけど無差別に攻撃するようなヤツじゃない。
オマエのことも口にはしないだけで多少は信用してるから大丈夫だ」
「多少ってのが気になるけど……怒りを買わないようにだけ気をつけるよ」
「そうしてくれ。
それより……今度は影に入らせてくれるのか?」
「あ、ああ……え!?
今の流れでそれ言うのか!?」
「オレ楽しみにしてたんだけど?」
「頼むから疑ってるのなら二人とも疑っててくれないかな!!」
うるせぇぞ、とソラが叫ぶとイクトは慌ててソラを追いかけ、その反応を見たガイは面白そうに笑っていた。
(この二人……揃うと面倒くさい!!)