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XXXXVIII


 どこかにある建物の一室……

 

 

 そこに二人の青年がいた。

一人は青い髪に金色の瞳の青年で、その青年は椅子に腰かけてティーカップに注がれたコーヒーを堪能していた。

そしてもう一人の青年は毛先が紫がかった茶髪の青年で口元をマスクで隠し、そして行儀が悪くテーブルの上に座っていた。

 

 テーブルの上に座る青年は椅子に腰掛ける青年に何かを訴えるように話していた。

 

「どうするつもりだァ?

このままだとよォ、黒川イクトの身柄が国外に飛ばされるぞォ?」

 

「オマエが見た未来視ではそうなるかもしれないが、それも可能性の一つでしかない。

未来視の映像など信用して動くほどのものでは無い」

 

「おいおいィ。

黒川イクトか熱海に行くってのもォ、黒川イクトがキキトを殺すってのも全部オレの未来視が見せた映像が示した通りになっただろォ。

それなのによォ、その言い方はひどくないかァ?」

 

「未来視などなくとも結果は変わらなかった。

姫神ヒロムと黒川イクトが出会った時点で我々の計画に必要な駒が揃い始め、そしてそれに連なって黒川イクトは計画の要となるべく成長している。

とくに姫神ヒロムの功績は大きい。ジルフリートの殲滅、「無能」と呼ばれる男一人がやったとは思えぬ成果だ」

 

「正確には三分の二を潰しただけだァ。

残りの戦力は自分の手では潰さずにセイナ・フローレスとかいう女とその仲間に手柄ごと譲ってやがるゥ。

世間には傭兵の集まりのジルフリートを壊滅させてのはその女ってことになってるがよォ、実際のところは中学に通うガキが止めたって話だがなァ」

 

「どちらでもいい。

それより……ヤツの動きは?」

 

 青髪の青年は話を終わらせると話題を変えるように茶髪の青年に訊ね、訊ねられた茶髪の青年は首を鳴らすと彼に説明した。

 

「リュクスのヤツならキキトの殺害現場から立ち去って以降は目撃すらされてねェ。

ご丁寧に衛星カメラにも捕捉されねェようにコソコソ動いてやがるなァ。

おかげでオレたちの計画の邪魔ばかりされる始末だァ」

 

「お得意の未来視が役に立たないとはな。

まぁ、あの男がどう動こうと我々の計画には大した支障は……」

 

 そうでもない、と茶髪の青年は椅子に腰掛ける青年の言葉に被せるかのように言うと彼に数枚の資料を手渡した。

 

 コーヒーを嗜む青年はティーカップをテーブルに置いて資料を受け取り、受け取った資料に目を通すと少し面倒そうな顔で資料を渡してきた茶髪の青年を見ながら彼に問う。

 

「……この事は世間やメディアは知ってるのか?」

 

「まさかァ、知るわけねェだろォ。

平和を当たり前に生きる凡人と無能な報道ばかりのメディアが気づくわけねェよォ。

それに……身柄を警察に渡されたはずがどうやってか脱走して逃げた一匹の熊の存在なんて世間からしたら誰も気に止めねェよォ」

 

「ならば早々に処理すべきだ。

仮にも情報屋のそいつを野放しにすればこちらとしては都合が悪い。

キキトが消えたことで幾分か情報を掌握しようとする流れもあるだろうし賞金稼ぎを私怨で黒川イクトを潰させようと動かす危険性もある。

まして……オマエが持ってきたこの情報の通りなら、ジルフリートの生き残りが自分たちを壊滅に追い詰めた姫神ヒロムを狙うと可能性もある」

 

「ならよォ、ここはひとまず未来視でどんな結果になるかを……」

 

「落ち着け葉王。

計画の成功のために動こうとしているのは有難いが、オマエの未来視に頼り切ってまで計画を完遂するつもりは無い。

それにこれはいい機会だ」

 

「いい機会だァ?

残党と脱走犯が野放しなのがかァ?」

 

「オマエの未来視通りに姫神ヒロムが黒川イクトを国外に飛ばそうとするのはヤツが黒川イクトの実力と覚悟を知らぬからだろう。

だとすればそれらを理解するように仕向ければ姫神ヒロムは黒川イクトを国外に飛ばそうとせずに仲間として受け入れて終わるだろう。

そうなれば我々の計画は完遂に向けて無事に進んでいく」

 

「なら……グリズリーをオレたちの思惑通りに動くように仕向けるかァ?」

 

「そうだな。

ひとまずはオマエが何とかして情報を操作してグリズリーとジルフリートの残党が組むように仕向けた上で姫神ヒロムと黒川イクトに襲いかかるようにしろ。

それと例の協力者にも連絡して姫神ヒロムと黒川イクトの動きを制限するようにさせろ。

それだけ手を打てば事は上手く進むはずだ」

 

「了解だァ。

早速進めさせてもらうぜェ」

 

 茶髪の青年はテーブルから降りると青髪の青年の指示を承諾し、指示を受けた茶髪の青年は音も立てずに姿を消してどこかに行ってしまう。

 

 茶髪の青年が姿を消すと一人残った青髪の青年は手に持つ資料を一瞬で塵にして消すとため息をつき、ため息をつくと青年は窓の外に視線を向ける。

 

「リュクス、貴様の真意は知らぬが覚悟しておけ。

これ以上好き勝手するのなら貴様の希望を根絶やしにしてやる。

オマエは己の意思で生きているのではなく、オレたちに生かされている事を思い出すべきだな」

 

 

 

***

 

 イクトは姫神ヒロムを説得してこの場に留まる術をキキトとの戦いで負った傷を癒すための入院中に模索しようとしたが、結局彼を説得して納得させられるだけの方法を見つけることは出来なかった。

 

 ソラやガイが何とかしようと力を貸してくれるも見つけることは出来ず、そして見つけることが出来ぬまま退院の日が来てしまった。

 

「……どうする?」

 

 退院するにあたって病室の荷物をまとめるイクトに窓の外の景色を見ながら問うソラ。

荷物の整理を手伝うガイも空に問われるイクトがどう答えるのか気になるような視線を向け、二人にどう答えるか期待されたような状態になっているイクトは頭を抱える形で悩んでしまう。

 

 悩むイクトはなかなか答えられず、答えられないイクトを見兼ねたガイは彼に提案した。

 

「こうなったらダメ元でヒロムに頭下げてやる他ないかもしれないな。

オレたちも頭を下げるし、それでヒロムに分かってもらおう」

 

「おい待てガイ。

コイツはまだしも何でオレとオマエまで頭下げなきゃいけねぇんだよ?」

 

「別に土下座しろとは言ってないからいいだろ。

今後のためにもイクトが残ってる方がいいってソラも言ってたんだから多少は我慢してくれ」

 

「我慢してまで頭下げるのはゴメンだ。

それならオマエが勝手にやればいい」

 

「ソラ、これはイクトだけの問題じゃない。

オレたちにとっても大事な問題なんだぞ」

 

「どの道コイツが何も考えてねぇなら時間切れで終わりだ。

時間があるならまだしも、もうじきヒロムは……いや、待てよ」

 

 イクトをどうするかでガイの提案に反論するソラは何か思いついたのかイクトの顔を見るなり病室の窓の方に歩いていき、ソラは勢いよく窓を開けるとイクトに携帯電話を投げ渡して指示を出した。

 

「時間が無いなら作るしかない。

何かあればオレの携帯にガイの携帯から連絡するようにしておくからオマエはとりあえずここから逃げて身を隠せ。

あのヒロム相手にこんな時間稼ぎは通用しないかもしれないが、オマエがここに残りたいなら今はそうしろ」

 

「……いいのか?」

 

「さっさと行け!!」 

 

「……ありがとう!!」

 

 イクトはソラに礼を言うと窓から飛び降りるようにして出ていき、イクトが出ていくとガイはどこか嬉しそうにソラに伝えた。

 

「案外優しいんだな」

 

「うるせぇ。

頭下げるくらいなら普段迷惑かけられてる分を仕返しする方が楽だと思っただけだ」

 

「仕返し、ねぇ。

まぁヒロム相手にそんなこと考えられるのはソラだけだし、いいんじゃないか?」

 

「何他人事みたいに言ってやがる。

もうじき来るヒロムに何て説明するかオマエが考えておけ」

 

「……そこは押しつけるのな」

 

 ソラの態度にガイはどこか嬉しそうに微笑んでおり、ガイの微笑む顔を見たソラも思わず微笑んでしまう。

そんな二人のもとへイクトにとって最大の難関となる姫神ヒロムが慌て気味に病室に入って来て、入って来るなり二人に伝える。

 

「最悪の事態だ。

どこかで黒川イクトを国外に逃がす話が洩れてる」

 

「何!?」

 

「どういうことだ!?」

 

 イクトが逃げたことを誤魔化そうとしていたソラとガイは姫神ヒロムの口から出た言葉に驚いてしまう。

 

 姫神ヒロムはイクトがいないことについてはすぐに気づいたらしく舌打ちをすると病室を出ていこうとする。

 

「ヒロム?」

 

「黒川イクトを逃がしたことは後で話を聞く。

とりあえず今はアイツを連れ戻すのが先だ」

 

「……」

「……」

 

((すぐにバレるとは……))

 

 

***

 

 病室を抜け出したイクトは時間を稼ぐべく走って遠くに逃げようとしていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 長く走ったことと体がまだ完全に治っていないことが重なってイクトは息を切らすと苦しそうに膝をついてしまう。

 

「……ここまで来たら……大丈夫だよな……?」

 

 かなり遠くまで来てひとまず安心するイクト。

だがそんなイクトがソラから預かった携帯電話に着信が入る。

 

「もしもし?」

 

『イクト!!

今どこにいる!!』

 

 電話に出ると、ソラの声がした。

ソラの声はどこか慌てており、ソラの声を聞いたイクトは何かまずいことが起きていると感じ取って彼に訊ねようとした。

 

 その時……何かが飛んできてイクトの前で爆発する。

 

「!!」

 

『おい!!

今の音は何だ!!』

 

「わかんねぇ!!

何かが飛んできて……」

 

「見つけたぞ!!」

 

 何が起きたか分からないイクトが戸惑っていると彼の前に一人の男が現れ、さらにイクトの逃げ道を塞ぐように背後に数人の兵士が現れる。

 

「オマエは……グリズリー……!!」

 

目の前に現れた男、その男を知っているイクトは驚くと共に立ち上がると影の中から大鎌を出現させる。

 

 グリズリー、この男はキキトを知るとして一度遭遇し、そして情報を聞き出すためにソラが尋問した情報屋だ。

 

 キキトの一件後は身柄を警察に引き渡したが……

 

「まさか、逃げたのか……!!」

 

「オマエらのせいでオレの全てがめちゃくちゃだ!!

このまま人生終わるくらいならオマエとあの炎のヤツを殺して憂さ晴らししてやる!!」

 

「なっ……」

 

「それと……姫神ヒロムとかいうガキに恨みがある傭兵が手を貸してくれるようだから……手始めにオマエを殺す!!」

 

 男が……グリズリーが叫ぶと兵士が武器を構えて走り出してイクトに迫っていく。

 

「くっ……!!

こんなところで死ねるか!!」

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