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XXXXVI


 ただ冷たく、イクトの言葉を最後まで聞くことなく一言告げたヒロム。

断る、ただその一言を冷たく告げたヒロムの瞳は冷たかった。

 

 あまりにも冷たい眼差し、そして冷たく放たれる言葉に戸惑いを隠せぬイクトは思わず彼に問う。

 

「どうしてなんだ?

オレはただ……」

 

「オレを倒せもしないようなヤツに心配されるほどオレは弱くない。

自分の身くらい自分で守れるし、万が一の保険としてガイとソラがいる。

オマエの力なんて無くても問題ない」

 

「アンタを狙ってるのは「八神」なんだぞ。

戦える人間は多い方がいいはずだろ」

 

「オマエがいても変わらない。

オマエは自分の身の心配をして国外に亡命しろ」

 

「それこそ断るけどね。

自分だけ安全なところに避難してアンタが全部背負うなんてどうかしてる」

 

「元々はオマエがオレの問題に首を突っ込んできたのが事の発端だろ。

最初からオレは「八神」に狙われ、命を奪おうとする刺客を難なく追い返してきた。

その中でオマエがオレを襲って、真実を知るべく動いたから手を貸しただけだ」

 

「だからこそ、乗りかかった船だからこそオレはアンタの力になりたいんだ。

オレ一人じゃキキトを見つけられなかったし、倒せなかった」

 

「現地でのオマエの判断と行動の結果としてキキトを殺せた、ただそれだけだ。

オレはオレのやりたいようにやったまでだ」

 

「けど……」

 

 やめとけ、とソラはヒロムに意見しようとするイクトの言葉を途中で止めるとイクトに伝えた。

 

「ヒロムの考えは最初から変わらねぇよ。

オマエがキキトを倒したならコイツとしてもオマエを自分から遠ざけたいのが本音なんだよ」

 

「だけどソラ、オレは「八神」の仕打ちを知って見て見ぬふりは出来ない。

オレだって……」

 

「オマエの言いたいことは分かる。

だがもう無理な話なんだよ」

 

 イクトの言い分を聞こうともしないソラ、そのソラはイクトの顔を見るとヒロムに伝えた。

 

「ヒロム、悪いけど二人で話をさせてくれ」

 

「何でだ?」

 

「少しオレに考えがある。

妙なことはしないから安心してくれ」

 

「……そうかよ」

 

 ソラの申し出にどこか疑心を抱きつつもヒロムは承諾して病室を出ていき、ヒロムが病室を出て部屋の扉を閉めるとソラはため息をつくなりイクトに話した。

 

「アイツがここまで他人のために何か用意するのは珍しいことだ。

いつものアイツならオマエなんてこうして治療受けさせたりしないし、今頃オマエなんて見捨てられてるぞ」

 

「だから優しくされてるうちに要求を飲めって?

そんなのは姫神ヒロムの勝手で……」

 

「たしかにアイツの勝手かもな。

けど、アイツからしたら自分がリスクを背負ってまで目的を果たさせた相手を野放しにして今死なれたらこれまでの行い全てが無駄になるんだよ」

 

「全てが無駄に……?

どういうことだよ?」

 

「ヒロムは愛咲リナの護衛を任された、それについてはオマエもそれは知ってるはずだ。

だが実際はヒロムに愛咲リナを見晴らせることでジルフリートの動きを表に誘き寄せる「月翔団」の思惑があり、その思惑によって愛咲リナの親は何らかの罪を着せられて利用されるところだったし、愛咲リナ自体も蓮夜がヒロムが接触しやすい相手として適当に選んだだけの一般人だ」

 

「それは知ってるよ。

彼女のことや彼女の家族のことを調べて欲しいって頼まれてオレが調べたんだし」

 

「問題はタイミングだった。

愛咲リナと接触したタイミングでリトル・パープルとかいうのが現れ、オレやオマエが関西圏に向かってからジルフリートはヒロムを倒そうと動いた。

オマエが調べた愛咲リナの情報とジルフリートの動きの二つにヒロムは僅かとはいえおかしな点を見つけ、そこからヒロムは「月翔団」の真の狙いがジルフリートだと見抜いた」

 

「まさか姫神ヒロムに「月翔団」の団長が最初にジルフリートの話をしたのは……」

 

「あえてヒロムに気づかせるためだったのかもな。

けど、ヒロムはジルフリートを倒すために利用されたと知って多少は苛立ったみたいだし、ジルフリートとアイツが戦闘をした場所なんて酷い有様だったらしいからな」

 

「そ、そんなになのか……?」

 

「数日前に盗まれた軍の装甲車両が全て破壊され、ジルフリートの構成員のほとんどは再起不能になるまで全身を負傷させられていた。

死亡者はいなかったらしいが、テロリスト相手に一個人が私情でやったとは思えないほどの惨劇に発展してるようだ」

 

「ジルフリートを一人で……。

なら「八神」も姫神ヒロムの実力を認めて……」

 

「そうはならないのが現実だ」

 

 ジルフリートをヒロムが倒した、ならば彼を「無能」と蔑んで命を奪おうとする「八神」も彼の実力を認めるとイクトは思っていた。

だがそんなイクトの思いに反するようにソラはヒロムの現実をイクトに話した。

 

「ジルフリートをヒロム単独で倒した、それは当然のことながら「八神」や他の「十家」には知られてる。

だがヤツらはテロリストの殲滅ではなく、ヒロムが個人の力でそれをやったことを危険視するような偏った報道を流してるのさ」

 

「はぁ!?

何でだよ!?」

 

「当然の話だ。

ヒロムの行動は別にヤツらが頼んだわけでも望んでいた形でもない。

自分を狙うジルフリートの目的を知り、蓮夜の策を知って苛立ったアイツが勝手に暴れた結果がこれだ」

 

「勝手も何もないだろ。

姫神ヒロムを狙って動いてたジルフリートが見境なしに街を破壊したら無関係な人間が巻き込まれてたかもしれないのに何で……」

 

「自分たちの権力とヒロムの力とのパワーバランスが崩れるからさ。

「十家」のヤツらは今や政界や軍事力、日本のあらゆる観点から干渉して自由に出来るほどの権力がある。

十の実力者が集まる「十家」、そのどこにも属さないヒロムが自分たちの存在を脅かすほどの力を持っているとなればヤツらも黙ってはいない」

 

「自分たちの立場のために姫神ヒロムを悪に仕立て上げるってのか?

そんなふざけた話……!!」

 

「あるんだよ、実際に。

だから現にヒロムは命を狙われている。

世間的にはただ何の力も無い「無能」として忌み嫌われてるようにしか見えないアイツは今、自分たちの想定を上回る力を危険視する「十家」によっていいように立場を操作されてるのさ」 

 

 ヒロムの行動についての「八神」、そして「十家」のヒロムに対する身勝手な行いについて話を聞いたイクトは驚きを隠せなかった。

キキトに言われるがまま何も知らずに命を奪おうとした相手であるヒロム、そのヒロムのことをガイやソラと行動することで少しは理解出来たと心の中で思っていた。

だが実際は何も分かっていなかった。

 

 姫神ヒロムは「八神」に狙われている。それがイクトが理解した内容。

だが実際は違う。姫神ヒロムは「十家」……いや、日本全体から狙われている。

 

 キキトに言われるがままに狙っただけのイクトの他に彼を狙う存在、その背後にある大きな存在はイクトの想像と理解を上回るほどに大きなものだった。

 

 いや、想像すら出来ていなかった。そして何も理解出来ていなかった。

ヒロムの現状にイクトは驚くと共に言葉を失ってしまい、言葉を失ったイクトにソラはある事を伝えた。

 

「正直な話をすればオマエがここに残ってヒロムの力になる意思があるのならオレは賛成したい」

 

「え?」

 

「オマエの能力は奇襲作戦にも万が一の脱出にも使える。

それにオマエ自身の能力を使う技術や戦闘における技術も並大抵の能力者を超えるものだ。

今後のことを考えればオマエがオレやガイと一緒にヒロムと戦ってくれるのは有難いことだが……アイツがそれを拒んでる以上はオレからは何も言えない」

 

「何でなんだ?」

 

「アイツが言うことは絶対だからだ。

アイツが決めたことなら……」

 

「そうじゃなくて。

何でオレが残ることを賛成してくれるんだ?

オレのことをあんなに警戒してたのに……」

 

 ソラの言葉を聞いたイクトは彼の思わぬ言葉に何故なのかと問うてしまう。

問われたソラ、そのソラは自身の言葉の中にある思いについて彼に明かしていく。

 

「形はどうであれオマエはキキトを倒してオレやガイの命を救ってくれた。

あの状況でオマエは惑わされることなくキキトを倒すことを選んだ、だからオレはオマエを信用出来ると判断した。

まぁ……ネクロと繋がりがあるオマエがいた方が情報収集が捗ると思ったのが本音だけどな」

 

「でも、オレのことを仲間として認めてくれるってことだよな?」

 

「オレはな。

オマエがオレやガイの仲間になるにはヒロムがそれを容認するしかない。

オマエがどうやってアイツを納得させるか、それにかかってる」

 

「納得させる方法があるならいいんだけどな……。

あの感じだとキキトを倒しに行く前の感じと何も変わってないから難しいかもな……」

 

「諦めるのか?」

 

 弱気になるイクトに訊ねるソラ。

ソラの問いにイクトは首を横に振ると気持ちを切り替えるかのようにソラに言った。

 

「何が何でも納得……というか説得して仲間にしてもらう。

ソラの話を聞いたら尚更オレだけ安全な場所に逃げるなんて出来ないからさ」

 

「そうか、ならオレも多少は力になるか。

とりあえずは傷を治すことに専念しとけ。その間にオレが何とかして少しはその気にさせる」

 

「あぁ、ありがとうソラ」

 

「気にすんな。

……オマエに命を助けられた借りを返すだけだ」

 

 イクトに対して小さな声で呟くように伝えるとソラは彼に背を向けて病院を出ていき、ソラが出ていくとイクトはここに残るために何とかしてヒロムを説得しようと意気込んでいく。

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