XXXXV
気がつけば意識がなかった……
どうしてだろう……
キキトを倒そうとして限界を迎えたからなのか、ウィンターという男が現れてからあの場をガイやネクロ、負傷したソラたちと一緒に武器生産の行われていたあの工場を後にしたのは覚えている。
だけど、そこからの記憶が曖昧だ。
結局、キキトを倒した後はどうなったのかも分からない。
これでオレがキキトとの因縁にケリをつけられたって事なのだろうか?
これでオレは真実を知って、アイツに認められるのだろうか?
アイツ……姫神ヒロムはオレがキキトを倒したと聞いたらどんな反応をするのだろうか?
オレは、これから……
***
ふと目が覚めるとイクトはベッドの上だった。
体を起き上がらせて状況を把握しようとベッドの上から周囲を見渡す。
どうやら病院の個室らしいのだが、彼が寝ていたベッドの他にはこれと言ったものはなかった。
ここがどこかも気にはなってしまっていたが、それよりもイクトは何故ここで、いつの間にベッドの上で寝ていたのか気になっていた。
曖昧な記憶、キキトを倒してしばらくしてからの記憶が無いイクトはまず何が起きたのかを知りたかった。
が、体はキキトとの戦闘の影響からか思うように動かず、ベッドの上で体を起き上がらせる程度しか動けなかった。
ベッドから下りて歩く体力は無さそうなことは自分ですぐに理解した。
だから無理はしない程度に情報を得る方法を考えたイクトは病院なら必ずあるとされるものを頼ろうとした。
「たしかベッドにはナースコールのボタンが……」
ベッドのそばに必ずあるはずのナースコール、そのボタンを押して人を呼ぼうと考えたイクトはひとまず動ける範囲で体を動かして探そうとした……のだが、彼は探そうとした矢先に見つけた。
すぐに見つかった。ナースコールのボタン、見つければあとは押すだけだ。
そう思いながらボタンを押すが、イクトがボタンを押しても反応しない。
何故だ?何故なんだとイクトは何度も押すが、やはり反応しない。
どうして反応しないのか、何か理由があると考えるしかなかったイクトはナースコールのボタンが繋がれてるコードを辿ってみた。
原因があるとするならそこしか考えられない。
その結果は見事的中した。それも最悪な形でだ。
繋がれてるはずのコードは途中で切られていた。
何か鋭利な刃物か、簡単にハサミで切られたような痕跡があった。
嫌な予感がイクトの脳裏を過る。キキトを倒した後だから、病院のベッドの上で目覚めたから安心していたが、一つの発見で全てが大きく変わった。
どこか安全だと感じて安心していた思いを裏切るように押し寄せる不安、身動きが取れない自分の体がそれを増長させる。
せめて、せめてもの救いの手として……イクトは能力が使えるか試した。
ベッドの上に出来た自分の手の影をいつもの感覚で動かしてみると、彼の手の影は意志を持つかのように動こうとする。
「よしっ!!」
(このくらい動かせるなら何とかなりそうだ。
最悪の場合……死んだはずのキキトの部下かオレをここに連れてきた誰かに襲われてもこれなら……)
何とか能力「影」は発動できる、これならば身を守れるとイクトが確信した時、部屋の扉が開く。
誰かはこの時点では分からない、だがイクトは誰が来ようが警戒心は高めたまま維持しようとする。
刺し違える覚悟はない、敵ならば確実に仕留めて生き延びる。
そのためにイクトは覚悟を決めている。
「来るなら……来い」
「何を期待してるんだ?」
開かれた扉から誰が来ようが構わんとばかりにイクトはやる気を表に出すが、扉を開けた先から姿を見せた人物はそんなイクトのやる気に対して何故か呆れていた。
赤い髪の少年、ジャージを着たその少年の姿にイクトは高めていた警戒心を弱め、警戒心を弱めると能力で動かしていた自分の手の影を元に戻してしまう。
「アンタは……」
「目が覚めたか見に来たら、何の真似だ?」
「いや、これは……ナースコールのコード切られてたからつい……」
「……ああ、それか。
特に意味は無い、オマエがどう反応するか見るだけに用意したオモチャだ」
赤い髪の少年はイクトが警戒心を高める原因となったナースコールのコードについて適当にも思える言葉で説明すると彼のもとへ歩み寄る。
少年……姫神ヒロムはイクトのもとへ歩み寄ると体の状態について訊ねた。
「体の具合はどうだ?」
「……力を使った反動なのか上手く動かねぇかな。
それより、ここは?」
「ここは「姫神」が管理する病院だ。
一応は「十家」が関与してないとされる病院だから安心しろ」
「そっか……」
「……関西圏からオマエらが戻ってきてもう三日になる。
何があったかはガイから聞いたが……自分の手で終わらせたんだな」
ここがどこなのかを知ってどこか安心するイクトにキキトについての話をしようとするヒロム。
彼の口から自身が三日も寝ていたことを知ったイクトは自分の知らぬ三日間について話を聞こうとした。
「なぁ、オレが眠ってる間に何があったんだ?」
「……眠る前からについて話すべきだな。
負傷したソラとオマエが心配だとしてガイはロビンに急いでここに向かわせた。
蓮夜にバレてたから説明する手間は省けたが、おかげでオレはしつこく怒られたよ」
「ごめん、オレが……」
「気にすんな。
オレも愛咲リナの件で反論したから一方的では無かったしな。
愛咲リナは……オマエが情報をくれたおかげで助かったよ。
元々何もしてなかったわけだが、危うく犯罪者に仕立てあげられるところだった」
「そっか、あの子は大丈夫だったんだな」
「何も悪いことはしてない、それを覆すほどの状況証拠も用意してなかった蓮夜が悪いけどな。
愛咲リナに関してはこのくらいでいいとして、オマエはここに搬送された時にはすでに意識が朦朧としていたらしく、治療するとなった時には気を失って今まで眠ってたのさ」
「ソラは?
アイツは……」
自分のことよりもソラが気になるイクト。
イクトが限界を超えるような力を発動したようにソラは自身の力量を遥かに超える炎を発動してひどく負傷したのだ。
そのソラが今どうなったのか、イクトはそれが知りたかったのだ。
ソラはどうなったのか、それを聞きたいイクトはヒロムにそれを話させようとしたが、ヒロムはため息をつくと彼に話した。
「昨日目を覚ました。
人が使うなと忠告した力を他人のために使うとは思わなかったよ」
「あの力を知ってるのか?」
「知ってるさ。
最初にアイツがあの炎を使った相手はオレだからな」
「え?」
予想していなかった言葉に驚くイクト、そのイクトに対してヒロムは付け足すように語った。
「アイツの炎がたまに異常なまでに赤黒く燃えるのはあったわけだが、最初の時はソラ自身が炎に自我を焼かれたかのようにあの炎を纏いながら襲ってきた。
まぁ、そこまで怖くもなかったし元々オレが強かったから力で止めたけどな」
「その時はソラは……?」
「軽い火傷で済んだが代わりにバカに殴られたキズで重傷だ」
ヒロムを襲ったソラがどうなったのか気にするイクトが訊ねた時、それをヒロムが話すのではなくいつの間に扉の前に立っていた相馬ソラ本人が話した。
「バカが加減も知らねぇのか何度も顔面を殴りやがってな、それだけならまだマシだったのにこのバカはオレの腕の骨まで折って動きを封じようとしやがった」
「オマエより強いからな」
「理由になってねぇんだよバカ。
オレより強いのは認めるが、やり方がバカの一つ覚えなんだよ」
ヒロムの言葉に冷たく返すとソラはベッドの上にいるイクトに視線を向けると彼に自身の左腕を見せるように上にあげた。
あげられたソラの左腕、包帯が巻かれたその左腕はどこか痛々しいものであった。
「ご覧の有様だ。
しばらくは使いもんにならねぇな」
「ごめん、オレが……」
「別にオマエは悪くねぇだろ。
これはオレが判断してなった結果だ。オマエのその体と一緒でな」
「……キミがオレにこうする決断をさせてくれた」
「気持ち悪いこと言うな。
感謝される覚えはないし、オレを行動の原動力にされるなんて迷惑だ」
イクトの言葉に対しても冷たく返すソラ。そのソラに掛けた言葉が不適切だったのではと感じたイクトは申し訳なさそうな顔をするが、そのイクトを励ますかのようにソラは優しく伝えた。
「……ありがとうな。
オマエがヤツを倒してくれなかったら今頃は全滅してた。
オマエに助けられたことには感謝してるし、オマエがヤツを倒したことでオマエは真実……自由を掴めたわけだな」
「……その事なんだけど、この後オレはどうなるの?」
キキトを倒した今、自分はどうなるのかが気になったイクトはヒロムとソラに訊ねる。
訊ねられたソラは答えられないのか、それとも答えたくないのかは定かではないが彼は何も言わない。
だがヒロムはソラとは違ってイクトの今後について話した。
「キキトってのを倒したことでオマエは「八神」に目をつけられてるかもしれないし、何よりもオマエらの前に現れたウィンターって野郎が何企んでるか分からないから確実な安全ってのは保証はない。
オマエのこれまでの生活は……まぁオレを狙うように仕向けられた時点で終わったも同然だけどな」
「戻れないのか?」
「不可能かもな。
国内にいる限りはな」
国内にいる限り、ヒロムのその言葉が表す意味をイクトは詳しく聞かなくとも理解出来た。
国内にいる限り彼に安全も自由もない、ということだろう。
ならば考えられる道は……国内外に出ることだ。
つまりは……
「海外に逃げろってことだよな?」
「ウィンターって野郎がオマエのことを報告しているかどうかは別としてキキトは確実にオマエのことを報告しているはずだ。
この日本の情報と経済のほとんどはオマエが知ってるように「十家」によって支配されてる。
国内のどこに逃げようが追い詰められたら終わりだ。だから残された手段は……国外逃亡の他ない」
「そうなるよな……けど、それだけじゃないよな?」
自分に残された道、その道が一つしかないと告げられたイクト。
だが彼はまだ何か手があるかのようにヒロムの言葉を訂正しようとする。
「姫神ヒロム、頼みがある」
「頼み?」
ベッドの上で体を何とかして動かすとイクトは正座をし、そしてイクトはヒロムに向けて深々と頭を下げてある事を頼んだ。
「オレを……アンタの仲間にしてほしい」
「オマエ……」
「アンタがオレのことを気にかけてくれてるのは分かってる。
けどオレは……」
「断る」
イクトの話を最後まで聞くことなくヒロムは言葉を返す。
顔を上げたイクトがヒロムを見ると、彼の瞳はどこか冷たくイクトを見ていた……




