XXXXIII
天晴やクラン、そしてソラが倒され次にガイがキキトに狙われそうになる中、大きく膨れ上がる魔力の中から紫色の瘴気を発しながらイクトは瞳を金色に光らせていた。
それだけではない、彼は自身の顔に髑髏を模したような白い仮面を付けていたのだ。
「オレはまだ死んでねぇぞ、キキト」
「死んでない?
死んだとは思ってないし、オマエも必ず殺す」
「オレは殺されない。
オマエを殺して全てをハッキリさせるまではな」
「無駄だ。
オマエではこのシェンショウジンの力を超えるのは不可能だ」
イクトの言葉を否定するかのように言葉を発するとキキトは右手を動かしてイクトを包む膨れ上がる魔力と天に昇るかのように放出される紫色の瘴気を消し去ろうとする。
シェンショウジン、キキトが身に纏うその力と鎧はレプリカだが、あらゆるものを歪めることが出来るほどの力を有している。
そして、その力でキキトはイクトの力を消し去ろうとしていた。
しかし……キキトが消そうとしたイクトの魔力や紫色の瘴気は消えようとせず、それどころか魔力はさらに膨れ上がり、さらに紫色の瘴気は色濃くなっていく。
「何……?
シェンショウジンの力を受けないだと?」
「やっぱりだ」
「何をした?」
「アイツが……ソラが命を賭してでもオマエを倒そうと放った炎をオマエは消せなかった。
その理由を考えたのさ。そしたら分かったんだよ……オマエの纏うそのシェンショウジンは力を歪ませてるんじゃない、オマエのそれが歪ませてるのは能力を使用するその人間の感覚を狂わせてるだけだ」
「デタラメを言うな。
そんなはずは……」
「オマエの力で何もかも歪められるのなら最初からオレたちの体を滅茶苦茶にするべきだ。
けどオマエはそうしなかった、オレたちの能力による攻撃を無力化して利用してた。
それが答え、オマエのその力はそれしか出来ない」
「なら今のオマエの力を歪められないことについてはどう説明する?
適当な憶測で話すのは……」
「適当じゃないさ」
キキトのシェンショウジンのレプリカとその力について自身の見解を話すイクトに対し、キキトはそれに対して自分の力が及ばぬ彼の纏う魔力と紫色の瘴気についてどう説明するのかを突きつけるように言うが、イクトはそのキキトの言葉に対して一言返すと反論するように言葉を発すると右手を前にかざしてどこからともなく大鎌を出現させてそれを装備する。
「シェンショウジンのレプリカの力で干渉出来るのは相手の力量、だとしたら制御し切れていない力はどうなると思う?
元々御しれてない力、つまりはオレたち自身の力量が対応していないとなればオマエのその力も干渉してきたところで何も出来ない、だからどうにも出来なかったんだよ」
「戯言だな。
そんなのは何とでも言えばどうにかなる事だ。
たまたま起きた偶然を当たり前のように語るな」
「なら……試してみるか?」
イクトは大鎌を強く握ると構え、そして白い仮面からのぞく金色になった瞳を一瞬光らせると膨れ上がる魔力を音もなく消してしまう。
そして……
紫色の瘴気は魔力が消えると膨れ上がる。
まるで魔力に束縛され、その束縛から解放されて自由を得たかのように大きく膨れ上がるようにイクトの全身から溢れ出し、紫色の瘴気を放出しながらイクトは音もなく消えるとキキトの背後に移動する。
「!!」
「ざぁ!!」
イクトの一瞬での移動にキキトが驚く中、イクトは大鎌を振り上げると勢いよく斬りかかる。
が、キキトは右手に魔力を集めると魔力を剣に変えて大鎌を止めると距離を取ろうとするが、イクトが仁美を光らせると彼の影から無数の影の腕が現れてキキトを捕らえようとする。
「そんなもの!!」
自身を捕らえようとする影の腕を消すべくキキトは身に纏うシェンショウジンのレプリカの力を発動させるが、シェンショウジンのレプリカが力を発動させても影の腕は止まろうとせずに彼に襲いかかり、襲いかかると彼の体を掴んで捕らえた。
「バカな……何故だ!?」
影の腕に捕らえられたキキトは必死になって振りほどこうとするが、キキトを掴む影の腕は振りほどかれぬように力強く掴んでおり、掴むと共に影の腕は何やらキキトの体からエネルギーのようなものを吸い取っていた。
僅かな光を帯びたエネルギーのようなものを吸収していく影の腕、影の腕がそれを吸収していくとイクトの体は僅かだが同じように光を帯びていく。
それを見たキキトは影の腕とイクトの身に起きていることについて一瞬で気づいた。
「まさか……シェンショウジンの力を吸収しているのか!?」
(ありえない!!
イクトの能力は影の操作だ!!
影に形を与えて操るだけの低能な能力なはずだ!!
それが……その程度でしかない能力が!!)
「新しい力に目覚めるなんてありえない!!」
「はぁぁあ!!」
イクトと影の腕が起こす事象に対してキキトはそれを否定するかのように叫ぶが、イクトは彼が叫ぶことなど気にすることも無く迫ると大鎌を振って斬りかかる。
が、キキトは右肩のアーマーを可変させたサブアームに右手に持つ魔力の剣を投げ渡すとサブアームでそれ。握ってイクトの一撃をまたしても止めてみせる。
「ふざけるな……!!
他人に利用されて生かされてるだけだったこんなヤツの能力が新しい力に目覚めるなんてありえないんだ!!
コイツは……コイツは「八神」に仇なす愚か者なんだぞ!!」
「そうさ、オレは愚か者だ!!」
イクトは大鎌を強く握ると刃に紫色の瘴気を纏わせ、瘴気を纏った大鎌を振り切るように力を入れるとキキトの魔力の剣を破壊し、魔力の剣を握っていたアームを破壊する。
アームが破壊されたキキトは再び魔力の剣をつくってイクトの攻撃に備えようと右手に魔力を集めるが、キキトが魔力を集めていく中、影の腕が彼の右腕を掴むとその魔力を吸収して消してしまう。
「なっ……」
「愚か者でいいんだよ!!
オレは神様とかそんなんになりたいわけじゃない!!
今いるこの場所を……オレを受け入れ信じてくれている人がいるこの場所を守るために戦う!!」
「それがどれだけ愚かなのか分かっているのか!!」
イクトの言葉に反論するとキキトは左手でシェンショウジンのレプリカの力を発動させようとした……が、キキトの意思に反するように彼の左腕は動かず、そして発動させようとしていた力も発動されない。
彼の左腕は酷い火傷を負っていた。
ソラの決死の覚悟、その覚悟が放った強き炎が彼の左腕を守るシェンショウジンのレプリカのアーマーを破壊して負傷させた。
その火傷によるダメージがイクトを襲おうとするキキトの邪魔をしたのだ。
「この程度のダメージで……!!」
「もらっ……」
キキトが自らの意思による攻撃ができぬ中、イクトは彼にトドメをさそうと大鎌を振り上げるが、突然彼の動きが止まってしまう。
それだけではない、彼が放ったシェンショウジンのレプリカの力を受けつけぬ影の腕がイクトの動きが止まったことに反応するかのように力を弱めていき、拘束していたキキトを手放して自由にしてしまう。
「こ、の……!!」
動きが止まったイクトは何とかして体を動かそうとしている。
おそらく、今の彼の動きが止まっている原因は彼の意思ではなく、彼が発動させている力によるものだろう。
影の腕から解き放たれたキキトはそんなイクトを見ながら不敵な笑みを浮かべると右手を動かしてイクトが持つ大鎌を歪ませて破壊し、そしてキキトは魔力を右手に収束させると撃ち放ってイクトを吹き飛ばす。
放たれた魔力を受けたイクトは先ほどまでのように吸収して防ぐようなことは出来ずに吹き飛ばされ、吹き飛ばされたイクトを見ながらキキトは魔力の剣を構えていく。
「残念だったね、イクト。
キミが求める勝利には届かなかったようだね」
「ぐっ……」
「さよならだイクト。
キミだけは……最後に殺したかったのにな」
「な、に……?」
「少なくともオレはキミを利用してる時のキミとの会話は楽しかったと思ってるからね。
せめて、最後の一時は邪魔者なしで語り合いたかったよ!!」
イクトに対する思い、嘘か真かすら分からぬ言葉を発するとイクトを仕留めるべく走り出して迫ろうとする。
そんな中……
「悪いな……オレにとっての邪魔者はオマエなんだよ!!」
吹き飛ばされ倒れていたイクトは起き上がると影の形を変えて銃にすると手に装備し、装備した影の銃を構えるとキキトに向けて瘴気を帯びた弾丸を放っていく。
放たれた弾丸をキキトは魔力の剣で防ぎ、キキトはシェンショウジンのレプリカの力で影の銃を歪ませ破壊しようとした……が、影の銃は破壊出来ず、イクトはキキトに迫ろうとする中で次々に弾丸を放っていく。
「武器破壊されることを警戒して影で造形したのか!!
その目障りな力で!!」
「目障りな力なんかじゃない!!
この力は……未来を掴み取るための力だ!!」
「黙れ!!」
迫り来る弾丸を防ぐと魔力の剣より閃光を放ってイクトの影の銃を破壊してしまう。
が、イクトは諦めない。イクトは破壊された影の銃の代わりとなる新たな武器……影の刀をつくると装備してキキトに迫ると瘴気を纏わせた武器で連撃を放ってキキトにダメージを与えようとする。
放たれる連撃、その連撃の全てはキキトの纏うアーマーに命中して傷を与えていき、そして傷を与えられたアーマーは崩壊していく。
「こ、こんなことが……「八神」に仕えるオレの力が……!!」
「ああああああああぁぁぁ!!」
イクトはキキトに連撃を放っていくと影の刀でキキトを貫こうとするが、キキトはその一撃を魔力の剣で止めると魔力を炸裂させて自身の武器ごとイクトの影の刀を破壊する。
「終わりだ、黒川イク……」
まだだ、とイクトは地面を強く蹴ると自分とキキトの影を一体化させ、一体化させた影から無数の影の刃を出現させてキキトの体を貫いていく。
「……!?」
影の刃に貫かれたキキトは吐血してしまい、一瞬動きが止まるも右手に魔力を纏わせると至近距離からイクトの頭を吹き飛ばそうと手をかざす。
「こんな、ことで……オレは……」
イクトを殺そうと纏わせた魔力を解き放ったキキト。
しかし、イクトは何とかして体を屈ませるとキキトの一撃を避け、右手に瘴気と魔力を纏わせるとその力を刃のように鋭くさせるとキキトの体を手刀で貫く。
「……なっ……に……!?」
「終わるのはオマエだ……キキト!!」
イクトが叫ぶと手刀に纏われた魔力と瘴気が炸裂して衝撃となってキキトの全身を駆けてアーマーを破壊し、そして影の刃も連動するように炸裂してキキトの体に斬撃のダメージを与えていく。
「この力は……オレを信じてくれたアイツらの力だ!!」
イクトがキキトの体から手刀を引き抜くとキキトが纏うシェンショウジンのアーマーが完全に破壊されて消滅し、シェンショウジンのレプリカと思われる機械装置が壊れながら地に転がる。
そして、致命傷を受けたキキトはゆっくりと倒れていく……




