XXXIX
「オレはオマエが今力を貸しているあの男と同じなのさ」
「オレが今……?」
リュクスの告げた言葉、それを聞いたイクトは彼の言う力を貸しているとされる人物について考えようとした……が、考えようとするまでもなくその人物は頭にすぐに浮かんだ。
「ヒロムのことか……!?」
「その通りだ。
そこが分かったなら説明を今更しなくても分かるよな?」
「……オマエは精霊使いなのか?」
恐る恐るリュクスに問うイクト。
問われたリュクスは不敵な笑みを浮かべながら拍手をし、拍手をするよリュクスはイクトに言った。
「素晴らしいねぇ。
少しヒントを与えただけなのに答えにたどり着けるなんて……驚きだよ」
「わざと答えに誘導したくせに……」
「どうかな?
オマエはその可能性に薄々気づいてたんじゃないのか?
どこからともなく現れたジャスミン、そしてオレに仕えるように動く彼女と姫神ヒロムの精霊とが重なったんじゃないのか?」
「そんなわけ……」
「ないって?
それはどうかなって話だ」
リュクスが指を鳴らすとどこからともなく炎が現れてイクトに襲いかかり、イクトは炎を避けようと躱すと大鎌を構え直そうとするが、ジャスミンは烈風を発生させるとイクトを吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
「リュクス様に気を取られて私が見えていませんでしたか?
隙だらけですよ」
「くっ……」
(厄介な女……だけど今の炎は……)
ジャスミンの烈風に吹き飛ばされたイクトは立ち上がると大鎌を構える中、今さっき現れた炎を気にしていた。
敵を前にしてリュクスとジャスミン、どちらかが放ったとされる炎を気にするイクトは動きが止まっており、リュクスは動きの止まったイクトに対して言った。
「どうした?
戦意喪失か?」
「そんなわけないだろ?
オレにはここでやらなきゃならない目的がある」
「やらなきゃならない、ね。
自らの意思に従ったと言うオマエが裏切ったキキトの始末のことか?
それとも……姫神ヒロムのそばにこれからも居座るために信頼を得るための行動のことか?」
「……オマエには関係ない!!」
「あるさ……十分な」
イクトはリュクスを黙らせようと大鎌を大きく振って斬りかかろうとするが、リュクスは右手に魔力を纏わせると大鎌をを止めるべく手刀で攻撃を放ち、リュクスの周囲にの攻撃はイクトの大鎌を弾いてしまう。
「!!」
「オマエが言ったんだぞ。
熱海の集会所で出会った時からオレとオマエは運命とか因縁があるんだろ?
なら無関係じゃない。運命で結ばれているのならオレはそれを知る権利がある」
「だとしても教えるつもりはない!!」
「そうか。
なら……」
リュクスはその場で回転するとイクトを蹴り飛ばし、蹴り飛ばすとどこからか数枚のカードを出現させて右手に持ってイクトに言った。
「無理やりにでも聞き出すまでだ」
「……そうかよ!!
そうしたいなら勝手にしろ!!」
蹴り飛ばされたイクトは地面を転がるように倒れるもすぐに立ち上がると自身の影を膨れ上がらせて影の腕を無数に出現させ、さらに影から無数の銃器を出現させると影の腕に持たせて次々に弾丸を放っていく。
イクトの攻撃にリュクスは余裕の笑みを崩すことなく右手に持つカードの一枚を左手で取るとイクトに向けて投げる。
投げられたカードは勢いよく飛び、飛んだ先で光を発すると無数のミサイルを出現させる。
「!?」
「さぁ、ショータイムだ!!」
リュクスが指を鳴らすと現れた無数のミサイルはイクトに向けて撃ち放たれ、放たれたミサイルは次々にイクトに襲いかかっていく。
「この……!!」
迫り来るミサイルを何とかして避けようとするイクトは回避出来るものは防御しようとせずに躱し、躱しきれないミサイルは影を隆起させて壁にして直撃を防いでいく。
……が、ミサイルは影の壁に防がれると大きく爆発し、爆発したミサイルの衝撃がイクトを吹き飛ばす。
「ぐぁっ!!」
(コイツ……こんなことも……!!)
「まだだ」
リュクスは次に左手で二枚のカードを引くとそれを天に向けて投げ、投げられた二枚のカードは光を発すると無数の雷撃を放ってイクトを追い詰めていく。
「ぐぁぁあ!!」
雷撃に襲われるイクトはその力を体に受けてダメージを受けてしまい、ダメージを受けたせいなのか彼は手に持つ大鎌を離してしまう。
武器を離し戦意が削がれたと思われるイクト。
だがリュクスはイクトに対して容赦はしなかった。
「ダメ押しだ」
リュクスは右手に持つ残りのカードを周囲にばら撒くように投げ、投げられたカードは光を発すると無数のビームとなってイクトに向けて飛ばされる。
ビームが迫る中でイクトは避けようと試みるが、先程の雷撃を受けたせいなのか身体が思うように動かなかった。
「くっ……」
(ダメだ……。
力の差が……ありすぎる……)
「ここまでなのか……」
リュクスの放った攻撃が迫る中、何も出来そうにない状態に諦めつつイクトは終わりを覚悟した……が、それを阻むように大地が大きく隆起して砦のようになるとイクトを包囲してビームから彼を守って見せた。
「……?」
「……へぇ、意外だな……」
「まさか……」
攻撃が防がれても余裕を崩さないリュクスはその余裕を持ったまま以外そうな反応を見せ、今何が起きたか分かっていないイクトはただ困惑していた。
が、そのイクトの困惑はすぐに消える。
どこからか誰かが指を鳴らすとイクトを包囲してビームから彼を守った大地は元に戻り、イクトのそばに歩み寄るようにネクロが歩いてくる。
「ふむ……死神がここまで苦戦するのは想定外だな」
「アンタは……」
「意外だな。
まさか黒川イクトが追い詰められて互いに利用し合う関係のオマエが助けに現れるとはな……ネクロ」
「……勘違いしないでもらおうか、所属不明の能力者。
オレとしては今後のことを考えて介入したに過ぎない。
助けに現れたのでは無い」
「へぇ……別にどっちでもいいけどな」
リュクスはまたどこからか数枚のカードを出現させると指を鳴らしてそれをビームに変えてイクトとネクロに向けて放つが、リュクスがビームを放つとネクロは手に持つ杖で地面を叩く。
ネクロが杖で地面を叩くと彼の杖から何やら破り取られた本の一ページのような魔力を飛ばす。
飛ばされた魔力は風に揺られながらネクロの周囲を舞うと勢いよく炸裂し、炸裂すると魔力はベールのようになるとイクトとネクロを包み込み、そして迫り来るビームを弾き防いでみせた。
「すげぇ……」
「……なるほど。
これがオマエの能力……目にしたものを記憶して再現する能力の「履修」の力か」
「オレの能力のことを知ってるとは……オマエ、何者だ?」
「別に何者でも関係ないさ。
それに……知識のある人間ならアンタの能力は知ってるんだぜ?
情報屋故に多くの能力者とその能力を目の当たりにでき、あえて危険を冒してでも見聞を広げようとする一方で自身の能力で再現する能力を増やしてることもな。
そしてアンタの能力が一度再現した能力をもう一度再現するにはもう一度その能力を目で見て記憶する必要があるって欠点があることもアンタの知識の外にある能力は再現出来ないってことも知ってるんだよ」
「ほぅ……詳しいな。
そこまでくわしいとますます怪しいな。
まさかだがキキトの差し金か?」
「あんなやつに従ってるように見えるか?
わざわざアイツの資金源のこの量産工場を襲撃するような部下がいるとでも思ったか?」
「……ならジルフリートか?
対能力者専門の傭兵集団に絡んでる人間か?」
リュクスの正体を探るべくあらゆる可能性を挙げていくネクロ。
そのネクロの言葉を前にしてリュクスはため息をつくとネクロに……そしてイクトに向けても言った。
「あの手この手で素性を探るのはいいけど……オレはおたくらの思ってるほど小さな器の中に収まってる人間じゃない。
それに……ジルフリートがどこにいるのか知らないのか?」
「何?」
「対能力者専門武装傭兵集団・ジルフリート。
金持ちセレブの御曹司が生み出したそれがどこにいるのか……分かってないのか?」
「何を……」
「まさかオマエ……あのジルフリートの動きを把握してるのか!?」
リュクスの言葉の真意が分からぬイクトが悩む中、ネクロは驚きを隠せずにリュクスに問う……が、問われたリュクスは面白そうに笑うと二人にある事実を教えた。
「ハハハハハ!!
教えておいてやるよ!!
その傭兵集団を創立した金持ちの御曹司ってのはな……キキトのことなんだよ!!
アイツが自分の都合で動かしやすく集めた駒……それがジルフリートなんだよ!!」
「なっ……!?」
「バカな……!?
キキトがジルフリートの……!?」
「ネクロ、何故情報通で多くの賞金稼ぎから頼られるオマエがそれを知らなかったと思う?
その理由はただ一つ……ジルフリートのことをキキトが「八神」の権力で消していたからさ!!」
「「!!」」
「黒川イクト、いいことを教えてやるよ。
そのジルフリートはな……姫神ヒロムからオマエが離れた瞬間にあの男を狙うようにキキトから指示を受けて待機してるんだよ。
キキトを探すオマエがネクロのもとを訪れる可能性があるってことでな!!」
「そんな……!!」
「イクト、その姫神ヒロムってのは誰だ?
オレは聞いたことも……」
ダメだ、とイクトは焦りと戸惑いを隠せぬ中慌てた様子でネクロに言った。
「やばい……!!
今ヒロムは……一人で護衛の仕事をしてるはずだ!!」
「だから誰なんだ?
その姫神ヒロムってのは?」
「……今のオレに力を貸してくれてる男だ」
***
その頃……
姫城中学……
姫神ヒロムと彼に協力するセイナ・フローレスは何やら急ぐようにどこかに向けて走っていた。
「間違いないのか?」
「たった今連絡がありました。
この学校を中心とした半径四キロ圏内に軍用の武装車両が進入してこちらに何台も向かっていると」
「そのなかに傭兵集団・ジルフリートの一人が乗ってたってのか?」
「監視カメラの映像を解析した結果乗っていたようです。
狙いは間違いなく……」
「オレだな」
ヒロムはセイナの話を聞くなり全てを理解して舌打ちをし、そしてセイナとともに学校のある場所に着くと彼女に言った。
「……アンタのお仲間はいつ合流できる?」
「あと二分です。
合流次第応戦しますか?」
「応戦したいのは山々だがここを戦場にするわけにはいかない。
ひとまずオレを狙ってるのならオレが囮になって戦いやすいところに誘導する」
「では私たちは……」
「一つ……頼まれてくれ。
さっきは手を組めないと言ったがでこの一瞬だけ手を組んでくれ」
「な、何を……」
何を頼まれるのかと不安になるセイナ。
そのセイナにヒロムはある事を依頼した。
「愛咲リナを…………くれ」
「!!」




