XXXVI
イクトとソラがネクロと出会い、ネクロの指揮のもとでキキトと繋がりのある情報屋・グリズリーから情報を得た武器の生産工場を攻撃すべき作戦が動き出していた頃……
その頃の姫城中学。
学校に登校している姫神ヒロムは一人屋上にいた。
広々とした屋上からは別の校舎を眺めることが出来、下の階では昼休みなのか賑わっている。
だがヒロムは一人だ。
そして彼は誰かと電話をしていた。
「……そっちの首尾はどうだ?」
『まずまずってところかな。
イクトはソラと一緒にネクロって情報屋に会って移動してる。
オレもネクロの雇ってる傭兵と一緒に向かって合流する予定だ』
「そのネクロってのは信用出来るのか?」
『とりあえずは信用出来るよ。
彼自身もキキトに対して消えて欲しいと思ってる点があるみたいだし、わざわざオレにここら一帯の情報教えてくれるあたり信用に値すると思うけどな』
「……あまり過度な信用はするな。
イクトの顔見知りか何かは知らないけど、それはイクトが会ってた時の話だ。
こうしてイクトが再会するまでの間にその男がキキトと内通してる可能性は低くない」
『考えすぎだろ?』
そんなことはない、とヒロムは電話の相手の言葉に対して言い返すとため息をつくと屋上から見える校舎に目を向ける。
ヒロムが視線を向けた先……ヒロムのいる位置からは校舎の二階の廊下には彼が白崎蓮夜から護衛を依頼されたはずの愛咲リナが学友と思われる少女二人と歩いているのが確認出来る。
「……」
(イクトが調べた情報によればあの二人はたしかバンド活動に興味がある愛咲リナの友人だな。
友人が一緒にいるのなら多少は安心か)
彼女……愛咲リナが学友と歩く姿を確かめたヒロムは一息つくと電話の相手に伝えた。
「……こっちはもう愛咲リナに何が起きてるか話してある。
そして同時に……既に蓮夜にはバレてる」
『もうバレてるのか!?』
「それも奇妙なことにソラとイクトの姿が目撃されたと報告を受けたとかでオレに電話してきやがった。
通学中にかかってきたが……その時のそっちの動きは?」
『大阪に到着したのは早朝、父ちゃん後にイクトとソラは敵襲に遭い、オレは情けない話だがはぐれて道に迷って運良くネクロの雇ってる傭兵と会った時だな』
「……そうか」
(奇妙だな。
聞いてた話じゃ関西圏には今「月翔団」の人間は滞在してないはずだから蓮夜の耳に情報が入るのが以上に早いな。
わざわざ遠方の得体の知れない情報屋に当てがあるとは思えないし、何より「月翔団」という組織が無闇に他の存在に頼るとも思えない。
それなのに何で……)
「待てよ……」
何かに気づいたヒロム。
そのヒロムは電話の相手にある人物の所在を訊ねた。
「ロビンは今どこにいる?」
『ロビン?
ロビンは「月翔団」の動きやオレたちを狙う動きがないか調べさせてるけど、それがどうかしたのか?』
「……」
(やはり、か。
「月翔団」のいないはずの関西圏で人目のない早朝の戦闘、そしてそれの戦いの中にいたのがソラとイクトだと知れたのは……)
「……ニュースでは何かの劇場が大火事になってることしか報道されてねぇ。
オマエの言う戦闘やらはテレビでは確認できないけどな」
『なぁ、ヒロム。
まさかだけど……ロビンが洩らしたとか思ってないよな?』
「……」
電話の相手の言葉に対して沈黙を返すヒロム。
そのヒロムの反応から察したのか電話の相手はヒロムに対して伝えた。
『ヒロム、ロビンは「月翔団」の仲で唯一オマエが信頼してる相手だろ?
そのロビンがオマエを裏切るような真似はしないはずだ』
「……「月翔団」は関西圏にはいない。
そう言い切ったのはロビンだ。
なのにテレビでは確認しようのない早朝の戦闘と戦闘していた人物の特定が出来、尚且つすぐに連絡が取れる相手となればロビンを疑うのは道理だ」
『疑いたくなるのは分かるけどこっちにはまだ「月翔団」は現れてない。
もしロビンが裏切ってるなら「月翔団」のヤツらがここに現れてもおかしくないし、それがないってことはロビンが何とかしてくれてるって考えようぜ』
「……そこまで言うならロビンを信じるか。
とにかくガイ、何かあればまた連絡しろ」
『了解だ』
電話の相手……ガイは返事を返すと通話を切り、それを確認したヒロムは携帯電話を制服のポケットに入れる。
そしてヒロムが通話を終えると彼のもとに一人の少女が歩み寄る。
腰まではある長さの金色の髪を束ねており、水色の瞳を持ち、色白の肌の少女はヒロムの隣に並ぶと彼に話しかけた。
「例の子は?」
「今のところ無事だ。
この様子ならしばらくは安心だが……わざわざこの学校の制服を着て紛れてるのか?」
「郷に入っては郷に従えと言うでしょ?
それにあのままスーツで潜入するよりはこうして紛れた方が安心でしょ?」
「……オマエみたいな綺麗な女は子の学校にはあまりいないから悪目立ちする気もするけどな」
「髪飾りは外してるから目立たないはずよ?」
「髪飾り云々の話じゃねぇよ。
それより……他の二人の仲間は?」
「今は待機させてます。
万が一の時のために備えさせてます」
「そうか。
向こうは……オレの仲間はすでに動いてる。
こちらも何かあれば動くぞ、セイナ・フローレス」
ええ、と少女……セイナ・フローレスは返事を返し、ヒロムはセイナとともに校舎の中に戻ろうと歩いていく。
「彼女を狙う敵は現れるの?」
「正確にはオレを狙う敵だ。
愛咲リナは利用されてるだけで昨日現れたリトル・パープルの時と同じように彼女は巻き込まれる可能性があるってだけだ」
「アナタはそれでいいの?」
「……オレは向かってくる敵を倒すだけ。
そしてアンタは真実を解明したい、今のオレたちの関係はそれだけだ」
「それだけ、ですか。
私は今回の件が終わってもお力になりますよ?」
「……悪いな。
オレとアンタは向かうべき目的地が違う。
だから手は組めない」
(オレは復讐のために戦っている。
それに他人を巻き込むのは……目的ある人間を巻き込むのは気が引ける)
***
大阪湾近郊にある建屋。
その建屋の中にはイクトとソラ、彼らと行動していたクラン、ガイが最初に出会った人物である天晴、そしてイクトたちが話歩いてようやく出会えたネクロがいた。
電話を終えたガイは彼らのもとに戻り、全員が揃うとネクロはこれからについて話し始めた。
「これから我々はグリズリーの記憶から得た情報に記された場所にある武器生産工場を襲撃する。
そしてそれを実行するにあたってまずは何故工場を襲うかを話す」
「前起きはいい。
作戦を……」
「落ち着きたまえ相馬ソラ。
キミたちがキキトを狙っているのにあえて巻き込むようなことをしてる理由も話す」
「巻き込む?
どういうことだ?」
「これから話すことはクランのような賞金稼ぎやオレのような情報屋の未来のために悪い芽を摘む行為とその動機だ。
キミたち遠方から来た能力者の目的とはかなり異なることを話さなければならない」
「……話を聞こう」
真剣な面持ちで話すネクロの言葉にソラは話を聞くべく余計な言葉を発するのをやめ、イクトとガイもネクロの話を真剣に聞こうとする。
「……では話そう。
まず我々がこれから襲撃する工場が生産しているのは武器だ。
武器の生産を指揮してるのはキキトだが……その武器を買っているのは賞金首となっている犯罪者や能力者、そして海外で頻発しているテロの首謀者たちだ」
「武器を密売してるって言うのか?」
「その通りだ雨月ガイ。
キキトは高額で密売し、その金であらゆる人間を買収、そしてそこから情報を得るとともに闇社会の人間にも脈を広げるように武器を条件に取引している」
「キキトのヤツがそんなことを……」
「そして黒革イクト、驚くのはまだ早いぞ。
オマエはキキトに上手く利用されてたな」
「え?」
武器生産工場の武器が裏で暗躍する者たちに出回っていると知って驚くイクトにネクロは言うと続けてネクロは彼にキキトとイクトの関係性についてある事実を伝えた。
「キキトがオマエに依頼して始末させてたのは自分にとって取引の邪魔になると判断した者たちだ。
ヤツは都合の悪いものを「八神」の力を悪用して罪人に仕立て上げるとともにオマエに始末させ、そしてあろう事かヤツはオマエに始末させた無実の者たちに救済として自分の手駒になるように取引している」
「取引……だって?」
「自分の闇取引の協力者となる代わりに社会的に抹消される形で罪を免れるというものだ。
無実の者をオマエに始末させ、その上で手駒となるように仕向けて自分の利益を増やすようにした。
それがヤツのやり方だ」
「じゃ、じゃあオレは……無実の人間を倒して「ハンター」なんて呼ばれて……」
ネクロの口から明かされたキキトの話にイクトは動揺が隠せず、その話によって自分のこれまでの行いで無関係な人間を巻き込んだと負い目を感じ始めていた。
が、そんなイクトの様子を見たソラは彼の頭を強く殴ると彼に向けて言った。
「痛っ!!」
「何今さら迷ってんだよボケが。
賞金首と戦ってまで金稼ぐ賞金稼ぎになった時点でオマエには戦う覚悟が出来てるはずだ。
迷う必要は無いだろ」
「だ、だけど……」
「能力者の戦いってのは殺られるか殺るかの二択、それは賞金稼ぎも同じだろ。
狩られるか狩るかの二択……オマエはこれまでどんな形であれ狩る側として戦い続けて今の地位を築き上げた。
それなら迷うことは無い……オマエはこれからやるべき事を見据えて戦え」
「これから……やるべき事を」
「オマエがここに来たのはキキトを倒すためだろ。
ならキキトを倒すことだけを考えろ。
そして……オマエが着せられた汚名をヤツを倒したと言う事実で払拭しろ」
「ソラ……」
「これからどうするかは知らないがヒロムについて行くって言うならケジメくらいつけやがれ」
「……分かった」
どこかイクトを元気づけるような言葉を伝えたソラ。
そのソラの言葉を受けたイクトは気持ちを切り替えるように返事を返すとネクロに指示を求めるように話しかける。
「ネクロ、オレたちはまずどうしたらいい?」
「……この工場には二つの入口がある。
表側と裏側、搬入口のある表側は警備が厳重だから黒川イクトの能力「影」を使う形で相馬ソラとクランの三人で何とか侵入してくれ。
オレは雨月ガイと天晴を引き連れて裏側から侵入して攻撃を始めるから頃合いを見て暴れてくれ」
「立ち塞がる相手は?」
「殺しても殺さなくてもいい。
要は武器の生産ラインを滅茶苦茶にして流通を止めて金の流れと武器の流通を不可能にすれば終わりだ」
「……分かった。
なら……始めよう!!」




