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XXXIV


イベントを開催して観客を楽しませるはずの劇場。


だがそこは戦場となっていた。


「撃てぇぇ!!」


グリズリーが用意したと思われる武装した兵士たちが銃器を構えるなりイクトたちに向けて発砲し、イクトは弾丸を避ける中で彼らに近づくと大鎌を振って銃器を破壊すると影の拳を作り出して気絶させるべく殴り飛ばそうとした。


「寝てろ!!」

(無駄な殺しは避ける……。

ソラに甘いと言われてもオレは全ての敵を殺してまで勝ちたいわけじゃない。

なら……オレはオレのやり方で終わらせてみせる!!)


イクトが叫ぶと影の拳は銃器を破壊された兵士たちを殴り飛ばし、殴り飛ばされた兵士たちは倒れる。


「よし、これで……」


意識を失った、イクトがそう判断すると兵士たちは彼の考えを裏切るかのように突然起き上がり、起き上がるなり拳銃を取り出してイクトに向けて弾丸を放っていく。


「なっ……!?」


突然のことに驚きを隠せないイクトは慌てて影を盾のようにして弾丸を防ぐが、イクトが攻撃を防いでいると背後から武装した一人の兵士がイクトを殴る。


「!!」


攻撃を受けたイクトは倒れそうになり、倒れそうになると影の盾を維持できなくなってしまう。


影の盾が消えると兵士たちが放つ弾丸はイクトを射抜くように襲いかかる。


「しまっ……」


命の危機を感じ取ったイクト。

そんなイクトを救うかのように炎の弾丸がどこからか飛んで来て弾丸を放つ兵士たちの眉間を次々に撃ち抜き、さらにイクトを殴った兵士の頭部も炎の弾丸に撃ち抜かれる。


「な……」


「このバカが!!」


ソラはイクトに駆け寄る中で次々に現れる武装した兵士たちに向けて炎の弾丸を放ちながら倒していき、敵を倒す中でソラはイクトの胸ぐらを掴むと彼に冷たく言い放った。


「オマエは考えが甘いんだよ!!

コイツらはオレたちを殺すために雇われたんだぞ!!

そんなヤツらに情けをかけるな!!」


「そんなの……」


「オマエを利用したキキトはオマエを殺すつもりなんだぞ!!

なのにオマエは……死にたいのか!!」


「だとしてもオレは殺さない!!」


ソラが強く言った言葉に返すかのようにイクトは強く言い返し、イクトが言い返すとソラは彼を突き飛ばすようにして手を離すと冷たい眼差しを向けたまま彼に告げた。


「甘っちょろい考えで死にたいなら勝手にしろ。

オレは別にオマエが死んでも関係ない」


「なっ……」


「オレはヒロムのために戦ってる。

オマエに力を貸してるのは……ヒロムの命令だからだ」


ソラはイクトに告げると彼に背を向けて敵を撃ち殺すべく炎の弾丸を放ち、ソラに突き飛ばされたイクトは地面に腰を下ろした状態のまま黙ってしまう。


……そんなイクトを始末すべく敵が数人接近し、接近に気づかないイクトはソラの言葉に心を揺さぶられていた。


「オレは……」


「何してんだ?」


イクトが悔しそうにしているとクランが音もなく現れ、現れるとと同時に短剣を振って斬撃を放つと迫り来る敵の首と足を斬って動けなくしてしまう。


が、それでも敵は動こうとし、クランはそんな敵を黙らせるべく斬撃を放つと敵の手足の筋を斬って動けなくしてしまう。


クランの攻撃を受けた敵はあまりの痛さに悲鳴を上げ、敵が悲鳴を上げる中でクランはイクトに手を差し伸べると彼に言った。


「どうした?

オマエの覚悟はこんなもんか?」


「……分かんねぇんだよ。

無駄に殺さなくてもいいなら殺さなくていいのにアイツは……ソラは簡単に人の命を……」


「生きるためなら仕方ないだろ」


ソラのやり方に納得できないイクトが呟いているとクランは彼を無理やり立ち上がらせ、そして大鎌を握らせると彼にある事を伝えた。


「他人のやり方に影響を受けすぎるな。

ネクロから教わらなかったか?」


「クラン……?」


「戦い方はその人間の置かれた状況下によって大きく変わる。

オレやオマエが敵を生かしてでも再起不能にすることを拘るのは賞金稼ぎとしての性だ。

だがアイツは……あの炎の男はこれまで幾度となく敗者が死ぬだけの戦いをくぐり抜けているように思える。

ああいうヤツには殺すなってのは無理がある」


「ならオレは……」


生かせばいい、とクランは短剣を構えながら言うと続けてイクトに伝えた。


「命を狙われると分かりながら生かして止めることを譲れないなら譲るな。

敵を生かして己も生きる戦いをしろ」


「敵を生かして己も……」


「そのためには今までの「ハンター」としての生温いやり方は捨てろ。

賞金稼ぎではなく……一人の人間、一人の能力者としての戦い方を見つけろ」


「……」


「オレから以上だ。

これだけ言っても変わらないなら……オマエは邪魔だ」


クランは冷たく言うと敵に向けて走っていき、クランの言葉を受けたイクトは大鎌を強く握ると深呼吸し、そして顔を上げると戦う意志を瞳に強く宿して武器を構えた。


イクトが構えるとそれを待っていたかのように彼を取り囲むように次々に武装した兵士たちが現れ、現れた兵士たちはイクトに向けて銃器を構えると一斉に掃射していく。


「オレのやり方……」


弾丸が迫る中呟くイクト。

そしてイクトは大鎌を勢いよく振ると迫り来る弾丸を全て弾き飛ばし、さらに自分の影を膨らませると無数の影の刃を撃ち放って兵士の腕や足を貫いていく。


「ぐぁっ!!」


「死にたくないなら……武器を捨てろ!!」


イクトが左手を敵に向けると敵の影が膨らむと共に影の腕が現れて敵を拘束し、兵士を拘束した影の腕ら彼らの手足を強く握るとともに骨を砕き、さらに顔面を殴打して気絶させて倒していく。


先程までと打って変わって敵を倒していくイクトの姿に意外そうな顔をしてソラは彼を見ていた。


「アイツ……」


ようやくだな、とクランはソラのもとに現れると話しかけ、ソラは現れたクランに何をしたのか訊ねた。


「アイツに何をした?」


「何も。

オマエのやり方とアイツのやり方は根底にあるものが違う、それを教えただけだ」


「……何やかんやでアンタはあの男を気にかけてるのか?」


「まさか。

アイツは今回のキキトの始末に欠かせないし、アイツはネクロのお気に入りだから生きてくれなきゃオレが怒られる」


「つまり、自分のためか。

面白いなアンタ」


「オマエもな、相馬ソラ」


ソラとクラン、戦う中で互いを認め合うとどこか面白そうに笑みを浮かべ、そして武器を構えると敵を倒すべく動き出す。


二人のことなど何も知らぬイクトは次々に現れる敵の武器を大鎌で破壊しながら影の力を駆使して再起不能にし、敵の数を減らしていた。


が、キリがなかった。


現れる敵を倒してもまた現れ、それを倒してもまた現れる。


「数が多いな……もう!!」

(何か打開策を見つけないとこっちが疲弊するだけ!!

このままじゃ無闇矢鱈に敵を……)


「無闇矢鱈……そうか!!

ソラ!!」


「あ?」


イクトは何か思いついたのかソラの名を呼び、名を呼ばれたソラは敵を射殺すと反応する。


「この兵士はオレが何とかする!!

オマエはグリズリーを捕まえてくれ!!」


「バカ言うな。

この数をどうやって……」


方法ならある、とイクトは劇場の中央に位置する場所に立つとソラに再び言った。


「クランとともに追いかけてくれ」


「……信じていいんだな?」


「任せろって」


「……クラン!!

聞こえてたな?」


「もちろん」


ソラが叫ぶとクランが現れ、二人はグリズリーがいるであろうステージの方へと向かっていく。


二人がステージの方へ向かっていき、それを確認したイクトは大鎌を地面に刺し……そして自分を取り囲む三十人はいる兵士たちを見ながら話し始めた。


「せっかくだからパーティーを始めようか」


「仲間を行かせたのは間違いだったな。

この数を一人でどうにか出来るのか?」


「大丈夫……もうオレが勝つから」


一人の兵士がイクトに現状を突きつけるかのように言うが、それを聞いたイクトは不敵な笑みを浮かべると指を鳴らす。


するとイクト自身の影が周囲の影を取り込むように大きく広がり、大きく広がっていく影は気づけば兵士たちの影をも取り込み、そしてイクトの広がった影は劇場のステージを除くほぼ全域へと渡っていた。


「また影の攻撃か?

それよりも先に……」


「言っとくけどオレは何もしない。

これは影の力を駆使したパーティー……影の庭園に招かれたものの末路を謳うショーだ!!」


イクトが叫ぶと数千にもおよぶ無数の影の腕が現れ、影の腕は一斉に全兵士に襲いかかろうとする。


「撃ち落とせぇ!!」


影の腕を迎え撃とうと一人の兵士が叫んで合図を出すと三十人全員が構えて攻撃しようとした。


しかし、攻撃しようとした瞬間、突然彼らの体は影の中に引きずり込まれていき、足が影に飲み込まれると兵士たちは錯乱したかのように銃器を乱射するが影の腕には当たらず、それどころか影の腕はそんな兵士たちを黙らせるかのように両腕の骨を砕き首を強く絞めて意識を奪い、酷く抵抗する兵士は影の中に引きずり込むように拘束してそのまま影の中に沈めていく。


「だ、誰か……助け……」


助けを求めて叫ぼうとする兵士、だがその兵士の言葉を遮るように影は兵士を完全に飲み込んでいく。


そして……


「うわぁぁあ!!」


影の中から断末魔のような叫びが響き、イクトが指を鳴らして広がった影を元に戻すと影に飲まれたはずの兵士は全身血だらけの姿で意識を失って現れる。


三十人の兵士、その全員がイクトの影に引きずり込まれながら再起不能になり、完全に意識を失って倒れていた。


「……新技・影庭の完成ってな。

改良点は多いけど、成功だな」


「派手な技を生み出したもんだな」


ステージの上からソラはイクトの技についての感想を述べ、感想を伝えるとソラはイクトに歩み寄っていく。


ソラが歩いてくるとイクトは堂々とした振る舞いで彼に向けて告げた。


「これがオレのやり方。

文句あるか?」


「別に。

ただ……一撃で楽に死なせるよりも苦痛の中で意識を奪うやり方の方が人としての道徳を疑うが……」


「その辺はほら……オレ「死神」だから」


「異名を理由にして終わらせようとするな。

つうかその理由でわざと殺さない方がよほど酷いだろ」


「うるさいな。

オレはオレのやり方でやるって決めたんだ」


イクトとソラ、二人はどこか仲良さげに話していた。


そんな中……


「連れてきたぞ」


遅れてやってきたクランはイクトの方に向けて何かを投げ、投げられたそれはイクトの前に倒れる。


イクトの前にクランが投げたもの……それはボロボロになるまで殴られたグリズリーだった。


「……クランも容赦ないんだな」


「情報のためだソラ。

それよりさっさと爆破して逃げるぞ」


だな、とソラはグリズリーを引きずり運ぶようにして歩いていき、クランも続くように歩いていく。


「重いか?」


「中年太りのオッサンは重い」


「……ってか二人めっちゃ仲良くなってないか!?」


ソラとクラン、二人の会話を聞いていたイクトは思わずツッコミを入れてしまった……

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