XXXIII
どこかの施設か建物の中と思われる場所……
イクトが探すキキトはそこにいた。
黒い装束に身を包み、無数の資料が壁に貼られ場所で静かに座るキキト。
そんな彼のもとに黒いスーツを着用した男が報告にやってくる。
「キキト様、ご報告があります」
「……何だ?」
「先程黒川イクト、相馬ソラ、雨月ガイが大阪に現れたとの報告がありました」
「迎撃部隊は?」
「対処しようと向かいましたが全滅です」
「そうか……」
(イクトのヤツ、まさか自分からこっちに来るなんてな……。
オレのことなんて忘れて呑気に暮らしていれば死期も早まることなく生きれたのに……)
「三人が大阪に入ったということはあの「無能」は? 」
「おそらく現在は単独かと。
黒川イクト、相馬ソラ、雨月ガイの三人が護衛のような役割を担っていたわけですから……」
「その護衛無き今は無防備確定というわけか」
(ならやることは一つ……!!)
「手柄を取りに行くぞ。
急いで準備してあの「無能」のいる……」
待てよ、とキキトの言葉を遮るように氷の仮面を付けた男……ウィンターが彼の前に現れる。
現れたウィンターを見るなりキキトはスーツの男に下がるように手で指示を出し、スーツの男が退席するとキキトはウィンターに告げた。
「仮面を外して構わないぞ。
二人だけだし、ここなら素性を晒さなくて済むだろ?」
「それもそうだな……」
キキトの言葉を受けるとウィンターは氷の仮面を砕き、氷の仮面を砕いたウィンター……氷堂シンクは氷で椅子を生み出すと腰掛け、そしてキキトにあることを伝えた。
「姫神ヒロムを狙うのは後にした方がいい。
あの男を狙う前に取り巻きの三人を始末した方が賢明だ」
「何故だ?
あの男を狙い、始末すればトウマ様のためになるはずだ」
「落ち着けよキキト。
これはトウマ様の側近の一人として忠告に来たんだ。
……姫神ヒロムは何やら不穏な動きをしている。
迂闊に動けば罠に嵌るかもしれないぞ」
「不穏な動き?
そんな情報オレのところには……」
「この関西圏には腕利きの賞金稼ぎを雇用して情報を売る男がいる。
その男がオマエに近しい情報屋を買収して情報を撹乱しているとすれば……?」
「……その情報はどこで手に入れた?」
シンクの話に興味があるのかキキトは詳しく聞こうとする姿勢を見せ、それを感じ取ったシンクは頷くとキキトに向けて説明した。
「ネクロって分かるか?」
「あの隠居してる情報屋か?
あんなヤツから情報を買ったのか?」
「数万の価値はある情報だ。
ネクロの話によれば姫神ヒロムは取り巻き三人にオマエの始末を依頼し、自分は助かるためにどこかに隠れるべく暗躍しようとしているらしい」
「隠れる?
どこに?」
「これまで通りなら「姫神」の家だろうな。
いくら「十家」の一角を担う「八神」に協力するオマエといえど「姫神」に奇襲するなんてことすれば責任は当主たるトウマ様に向けられるからな」
「つまりトウマ様を思うなら狙うなってことか?」
「だが狙わない理由はない」
「今オマエは狙うなって……」
「あくまでこちらから動かなければいい話だ。
取り巻き三人をオマエが狙い、三人の首を姫神ヒロムのもとに送りつければ……」
「仲間の死に怒りを感じる男なら向こうから出てくるってわけか」
そういうことだ、とシンクは頷くが、キキトはシンクの話を聞く上である疑問を抱いていた。
「だが何故「無能」はこのタイミングでナリを潜めようとしてるんだ?
これまで堂々と生きてきた男が……」
「おそらく自分の力に限界を感じたんだろうな。
精霊に頼るだけの男だ。
そのうち限界に達して倒される」
「その限界を迎える前に逃げるのか。
哀れだな……」
「あまりに哀れで情けない話だろ?
そんな腰抜け狙う危険に身を晒すくらいなら取り巻き三人殺した後に怒り狂って表に出てきたヤツを殺す方が安全だ」
「……分かった。
三人の動きは分かるか?」
「雨月ガイは分からないが……ネクロの情報では黒川イクトと相馬ソラは何やらオマエを誘き出すために狙ってるような口振りだった」
「オレを誘き出すために……。
ならあそこか」
「かもな」
「……すぐ人員を手配させる。
シンク、協力に感謝する」
「気にするな。
将来は角王として肩を並べる者同士、仲良くしようってだけだ」
助かるよ、とキキトは退席していき、キキトが退席するとシンクは氷の椅子から立ち上がると壁の方に歩いていき、壁に手を当てると部屋の室温を下げるかのように冷気を発生させる。
「……この辺りだったな」
壁に手を当てる中何かを探すシンク。
シンクが手探りで何かを探していると壁の窪みを見つけ、その窪みにカメラのようなものがあるのを発見した。
「これだな」
シンクは窪みにあるカメラのようなものを氷で覆い、同じようにして数ヶ所に窪みを見つけると氷で覆っていき、全ての窪みを氷で覆うと壁に貼られた資料を見始める。
「これで警戒心の強いアイツにバレなくて済む」
(ヤツは自分の集めた情報を他人に見られることを極端に嫌う。
オレの調べた通り資料を監視するためのカメラしかないし、カメラの性能も調べた通り外部から干渉しやすい構造だ。
予め用意しておいたウイルスはオレがここに来る数時間前から機能していてカメラに誤作動を起こさせている。
その上で氷でカメラの視界を妨げれば……)
「ヤツに気づかれることも無く情報を漁れるってわけだ」
シンクは次から次に壁に貼られた資料を見ていき、お目当ての資料がないかを探していく。
一枚一枚しっかり内容に目を通して必要なものかどうかを確かめ……
そして……
「見つけた」
ある資料を目にするなりシンクは呟き、携帯端末を取り出すと資料を撮影するように数枚写真を撮り、そしてしっかり撮影出来てるかを確認するとシンクは携帯端末を片付けてこの部屋から出ようとする。
「キキトがヒロムを狙わないように仕向けた。
数少ないアイツの信じる相手となっているオレの情報を疑わずに従ってくれてるおかげでヒロムの安全は保証される。
そして……ヤツらがキキトを始末さえしくれればオレの目的は果たされる 」
(黒川イクト、ソラ、ガイ……。
オマエらがヒロムの取り巻き程度で終わる男かどうかはこの戦いで見極めさせてもらう)
「全てはオレの目的……オレの生涯の目的である「天獄」の完成のために、な」
シンクは氷の仮面をつけてウィンターへと変装すると部屋を出ていく。
彼の撮影した資料……そこには「鬼月真助」と名が書かれていた……
***
その頃……
ウィンターことシンクに敗北したイクト、ソラはクランとともにある場所に向かっていた。
「ここだ」
クランの案内によって連れてこられた場所。
そこは大阪内で開かれるイベントの一つとして用意されたサーカスの劇場だった。
イベントがまだ開始されていないからか人は少なく、それ故にイクトは不安になってクランに質問をした。
「サーカス見に来たのか?」
「ここにいるある男に用がある。
キキトに繋がりを持つ男で、ここ最近はその男から情報を提供されている」
「その男を捕らえて尋問するのか?」
そうだ、とクランはソラの質問に答えを返すと続けてその理由について話した。
「その男からキキトが利用している施設を聞き出し、そこを襲撃、そして襲撃の騒ぎを聞きつけたキキトが現れるのを待つ」
「施設ってのは?」
「武器の生産工場だ。
キキトは資金回収のために「八神」には内密で武器売買を生業にしている。
ここ最近の賞金首が武器を所有しているケース場合が高いのはキキトが売買している武器が世に出回ってるからだ」
「……つまりネクロってヤツからしたら情報屋として全ての情報を取り締まることが出来、そして賞金首の弱化も狙えるってことか」
「そういうことだ。
意外と頭が切れるようだな、オマエ」
まぁな、とソラはクランの言葉に一言だけ返すと早く行動に移すべくクランに目で訴え、ソラの視線を受けたクランは頷くと劇場の中へと入っていく。
続くようにイクトはソラとともに中に入り、中に入ると開演前で薄暗い劇場と客席が三人を迎え入れる。
薄暗く、人の気配もないせいか気味悪く、三人は敵の出現に警戒しながら奥へと進んでいく。
確実に、ゆっくりと……奥に進む三人。
すると……
「誰だ?」
奥から誰かが三人の気配を感じたのか声を発し、そして薄暗い劇場に次々と照明が灯されていく。
三人の姿が確実に相手に見えるようになると同時に三人の前に中年の男が現れる。
が、その男は拳銃を構えてイクトたちに狙いを定めていた。
「オマエら、何者だ?」
「……ただの迷子だ」
「嘘をつくな。
バンダナの男、オマエ……「暗撃」のクランだな?
そっちの黒髪、オマエは「死神」だな」
クランとイクトのことを知ってるらしい男は拳銃を構えながら三人が動かないか警戒しているが、名前を呼ばれるどころか何も言われずに終わったソラは不機嫌そうに男に向けて言った。
「オマエ、オレのこと忘れてねぇよな?」
「お、オマエのことは知らん!!
誰だオマエは!!」
「……ちっ」
「ソラ、落ち着……」
黙れ、とソラは自分のことを宥めようとしてくれたイクトを黙らせるとクランに向けて言った。
「情報を聞き出すならさっさとしろ。
こんな所に長居したくない」
「……」
(相手にされなかったことめっちゃ気にしてない?)
「……分かってる。
抵抗はするな、情報屋のグリズリー」
クランは男……情報屋のグリズリーに向けて忠告すると短剣を構え、短剣を構えながらグリズリーに指示を出した。
「十秒時間をやる。
時間をやる間に返事をしろ」
「何を……」
「キキトが売買している武器が生産されてる工場の場所を教えろ」
「……オマエら、金が狙いか?」
「何?」
「キキトに警告されてたんだ。
金目当てでオレのところに生産工場の場所聞きに来るやつが現れるかもってな」
「何言って……」
「オレだってキキトのために役立ちたいんだ!!
そうすりゃ……「八神」に情報屋として雇われるかもしれないんだ!!」
グリズリーがポケットから何かのスイッチを取り出してそれを押すと突然劇場の天井から武装した無数の兵士が現れ、現れた兵士たちはイクトたちを襲おうと走り出す。
兵士の出現にイクトたちは武器を構え、クランは二人に指示を出した。
「目の前の敵を倒してグリズリーを拘束する。
証拠は残したくないから……ここは爆破する!!」
「焼くならオレに任せとけ」
「……やるしかないよな!!」
クランの指示を受けると二人は動き出し、クランも短剣を構えると兵士に襲いかかる。
「はぁっ!!」
兵士に接近すると大鎌を振るイクト。
イベントとして人を楽しませるはずの劇場は今、戦場へと変化する……




