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イクトとソラが敵と思われる者と遭遇している頃……
姫神ヒロムは屋敷を出ると学校に登校しようと歩いていた。
「……」
「マスター、お荷物お持ちします」
ヒロムが歩いていると彼のそばに彼の使役する精霊の一人・フレイが現れ、現れた彼女はヒロムが持っていたカバンを預かると代わりに持って歩く。
ヒロムは何か言うわけでもなく黙って歩き、フレイはそんな彼の数歩後ろを歩いていた。
「……」
「マスター、皆さんは無事でしょうか?」
「……さぁな」
「気になりませんか?」
「……アイツらは強い。
熱海の時も自分たちの力で何とかしてる。
オレが心配しなくてもアイツらは能力者、何かあれば力で解決するさ」
「お言葉ですがマスター、ソラたちは今団長の目を掻い潜って行動してるのですよね?
でしたら大事になるような行動は……」
「ソラがそんな事で大人しくなると思ってるのか?」
ヒロムの意外な一言にフレイは目を丸くし、彼の言葉を聞き返すかのようにフレイはヒロムに訊ねた。
「もしかしてマスター、最初からソラたちが大暴れするのを期待されてますか?」
「当然、な。
元々キキト絡みとなれば穏便に済まないことは分かりきってることだし、何よりアイツらが暴れた方が本命となるキキトを誘き出すには最短の道にもなるからな」
「……団長が黙ってないと思いますよ?」
「だろうな。
そろそろだな……」
「?」
そろそろ、ヒロムのその言葉の指すものが分からないフレイは首を傾げるのだが、彼女が不思議に思っていると突然何かの音が鳴り、音が鳴るとヒロムは落ち着いた様子でポケットから携帯電話を取り出す。
ヒロムが取り出した携帯電話には誰かからの着信が来てるらしく音が鳴っており、ヒロムはそれに応じるようにボタンを押すと携帯電話を耳に当てる。
「……朝っぱらから何の用だ?」
『とぼけんなよォ?
どうなってやがる?』
「何の話だ?」
電話の相手の言葉に対して何知らぬ顔で質問するヒロム。
そんなヒロムの言葉に電話の相手は少し機嫌を悪くさせながら彼に向けて言った。
『何で黒川イクトと相馬ソラが西で目撃されてる?
しかも暴れてるって情報まで入ってきたぞ?』
「……悪いな蓮夜。
オレはアイツらの監視役でも監督役でもない。
アイツらが今何してるかなんて分刻みで把握してるわけじゃないんだよ」
『テメェ、まさかだが勝手なことしようとしてねぇよなぁ……?』
「勝手なこと?
悪いがオレは愛咲リナの護衛の指示は受けたが他については何も聞いてないぞ」
『ふざけるなよ?
オマエらには黒川イクトの監視を……』
「アイツはアイツなりに努力してる。
監視するようなヤツじゃない」
『誰の判断で……』
いいのか、とヒロムは何か企んでるかのような言い方で電話の相手……「月翔団」の団長・白崎蓮夜に向けて言葉を発すと続けてある事を蓮夜に向けて告げた。
「オマエの行動については文句は言わねぇが、事によってはオレもそれ相応のことで落とし前つけさせなきゃならねぇ」
『脅しか?』
「脅しだ。
オマエの方に奥の手があろうがなかろうが関係ない。
こっちには揃ってんだよ……オマエのその地位を滅茶苦茶にする材料がな」
『悪いがオレは何もやましいことはしていない。
でっち上げるなら……』
「でっち上げるなら他人を巻き込むなよ。
オマエの思惑に反するのかは知らねぇけど愛咲リナを巻き込んでまでオレに何もさせたくないのか?」
『……何?』
ヒロムの言葉を聞いた途端、蓮夜の電話越しの声がどこか低くなる。
まるでヒロムの言葉に不満でも……いや、何かしらの感情を抱いたかのように。
その蓮夜の声色の変化を耳にしたヒロムは不敵な笑みを浮かべると蓮夜に向けて告げた。
「この件を口外されたくなかったらアイツらを自由にしろ。
愛咲リナの件は引き続き引き受けてやるが……今イクトたちは真実を探ろうとしている」
『やっぱりオマエの差し金か……!!』
「違うな。
これはアイツらの……イクトが決めたことだ。
オレの意思は関係ない」
『……恩を仇で返す気か?』
「恩?
こんなことしておいて今更それ言うのか?
残念だが……オマエに対する恩情はこれっぽっちも持ってねぇよ!!」
ヒロムは一方的に電話を切ると携帯電話をポケットにしまい、そして深呼吸すると足早に学校に向かおうとした。
「マスター、どちらに?」
「学校だ。
蓮夜が何かする前にオレの方が先手打ってやる」
「何を……」
「愛咲リナに全てを明かす。
そして……」
足早に歩き出したヒロムについて行くように足早になるフレイはヒロムに訊ね、訊ねられたヒロムはフレイにこれからどうするかを語ろうとする。
……のだが、そんなヒロムは突然足を止め、フレイも彼に合わせるように足を止めてしまう。
「マスター?
どうされまし……」
「……フレイ。
油断してたオレも悪いが、今度からは周りに警戒してくれ」
ヒロムがフレイに注意をすると、それに合わせるかのように二人を囲むように少女が三人現れる。
一人は長い金髪を束ねて宝石の付いた髪飾りを付け、あとの二人は紫色の髪で片方の少女はショートカットでもう片方の少女はミディアムヘアーでヘアピンを付けている。
三人の少女に共通してるのはサングラスを着用して黒いスーツに黒いミニスカートという服装だけだ。
武器を所持してる様子はなく襲ってくる気配もないが、ヒロムは彼女たちの中に何かあると警戒していた。
「……」
(このタイミングで現れたのなら能力者の可能性がある。
オレとしては愛咲リナと合流して真実を伝えたいのに……)
「……厄介だな。
退いてくれる……わけないか」
そうね、と金髪の少女はゆっくりとヒロムに歩み寄っていく。
少女が迫る中フレイは警戒して武器を出現させようとするが、ヒロムはそれを止める。
少女を警戒するヒロムだが、その一方で穏便に済ませようとしている。
「お話聞かせてくれるかしら?」
「……生憎オレはお姉さんらの望みの内容は持ち合わせてねぇぞ?」
いいわよ、と金髪の少女はどこからともなく名刺を取り出してヒロムに見せる。
名刺を見た途端、ヒロムはため息をつきながら彼女に向けて告げた。
「……一つだけ話せるな」
「あら、それはよかった。
そのお話……聞かせてもらいますよ」
***
「うりゃぁぁあ!!」
大鎌を勢いよく振り回すとイクトは周囲に斬撃を放ち、放たれた斬撃は全身武装した兵士を吹き飛ばして倒していく。
「よっしゃ!!」
敵を吹き飛ばしたことに喜ぶように叫ぶイクト。
だがイクトの斬撃で吹き飛ばされた兵士たちは何事も無かったかのように立ち上がり、そして武器である銃器を構える。
「……あれ?」
立ち上がった兵士たちを見ながらイクトは首を傾げ、彼が首を傾げていると兵士たちは銃器の狙いをイクトに定め、そして一斉に弾丸を掃射していく。
「マジかよ!?」
兵士たちが一斉に弾丸を掃射するとイクトは慌てて自身の能力「影」の力を用いて自分の影を膨らませ、膨らませた影を壁のように作り変えると弾丸を全て伏木、弾丸を防いだ影の壁をさらに変形させて無数の影の拳を生み出し、生み出した影の拳を一斉に兵士に向けて解き放つ。
解き放たれた影の拳は斬撃の時のように兵士たちに襲いかかると敵を殴り飛ばし、殴り飛ばされた兵士たちは飛ばされた先で倒れてしまう。
……が、倒れた兵士たちは斬撃の時と同じように何事も無かったかのように起き上がり、再びイクトに向けて武器を構える。
「なんで倒れねぇんだよ……!!」
「甘いからだな」
兵士たちが中々倒れないことに戸惑うイクトの後ろからソラは無数の炎弾を放ち、放たれた炎弾は次々に兵士たちの全身の武装を破壊しながらその体を撃ち抜いていく。
撃ち抜かれた兵士たちはフラつきながらも倒れぬように持ち堪えようとするが、ソラは敵に向けて銃を構え直すと炎弾を連射し、連射された炎弾は兵士たちの眉間を撃ち抜いていく。
眉間を炎弾に撃ち抜かれた兵士たちはさすがにもう立ってられないらしく次々に倒れていき、そして倒れるとそこから起き上がろうともしない。
「なっ……」
「あと少し」
ソラは銃を持ち直すと素早く後ろを向き、先程まで自分の後方にいたとされる武装した兵士に向けて炎弾を放つ。
が、兵士の一人は剣を構えると迫り来る炎弾を順番に対処するように切り払っていく。
「……なるほど。
弾丸の軌道を読めるのか」
けど、とソラは銃を構える中で銃口に炎を集めると収束させ、炎を収束させると引き金を引く。
「軌道を読めても対処出来ないなら無意味だよな?」
ソラが引き金を引くと収束された炎はビーム状に解き放たれ、放たれたビーム状の炎 炎弾を対象した兵士を飲み込むと瞬く間に焼き消してしまう。
そして……
炎弾を対処出来る兵士が消えると同時にソラは無数の炎弾を放ち、残った兵士の眉間を撃ち抜く形で仕留めていく。
「……」
炎弾に撃ち抜かれた兵士たちが倒れ、視界に入る範囲内の兵士たちが倒れるとソラは構えていた銃を下ろしてため息をつく。
「……こんなもんか」
「何してんだよ!!」
すると突然、イクトが血相を変えてソラの胸ぐらを掴み、そして胸ぐらを掴んだままイクトはソラに向けて強く言った。
「なんで殺した!!
殺さなくても再起不能にすればよかったんだぞ!!」
「甘いこと言ってんじゃねぇ!!
ヤツらはオレたちを躊躇なく攻撃してきたんだぞ!!
それなのにオマエは気絶させる程度の攻撃しかしねぇで……コイツらは賞金首じゃねぇ!!
生かしててもオレらか危険に晒されるだけだ!!」
「だからって殺す必要ないだろ!!
動き封じればいいだけなのに……なんでオマエはそんなやり方しか出来ないんだよ!!」
「ここでオレたちが倒れたら足止め引き受けたヒロムに迷惑かかるだろうが!!」
敵を倒したイクトとソラは互いに自分の意見を譲らず、険悪なムードになりながら睨み合っている。
そんな中……
「仲間同士喧嘩とは余裕なのか?」
イクトとソラが睨み合っているとどこからともなく声がし、その声に二人が気づくと彼らのもとに一人の少年が現れる。
銀髪の髪にバンダナを巻き、腰に短剣を携行した少年。
その少年を見たイクトは意外そうな顔をしていた。
「何でここに……」
「悪いが仕事だ。
用意しろ」
「……誰だコイツ?」
少年が誰なのか気になるソラは冷たい言葉でイクトに訊ね、訊ねられたイクトはソラに説明した。
「彼はネクロが信頼する人物……クランだ」
「つまり……」
「彼がオレたちが探してた相手だ」
***
一方……
「迷ったな……」
雨月ガイはどこかの商店街を一人で歩いていた。
「……ソラもイクトも電話に出ねぇし。
手詰まりだな」
「なぁ、そこのお兄さん」
どうしたものかと悩むガイの後ろから誰かが声をかけ、声をかけられたガイはゆっくりと後ろを見た。
そこには……




