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XXIX


夜明け


朝日が地上を照らして明るくしていく。


当然その朝日は関西圏をも照らしている。


そしてここ……大阪にあるホテルの一室にもカーテンにより閉ざされた窓から陽が差し込む。


その一室に一人の少年がいた。


銀髪の髪、額には黒いバンダナを巻いた少年は携帯電話で誰かと連絡を取っていた。


「……つまりオマエはウィンターって野郎の依頼を引き受け、その依頼を成功させるためにオレに連絡してきたってことか?」


『ああ、そうなる。

金を受け取った以上は相応の仕事をする必要がある』


「素性も分からん相手からの仕事を?

オマエにしては無謀すぎないか?」


『残念だが相手の素性は既に分かっている。

氷の能力者、大金を容易に用意した上でオレの始末したい男について知っていた。

それだけのことが出来る氷の能力者となれば……○○しかいない』


「……オレが数日前にオマエから聞いた話だとオマエが殺したいってあの男は「八神」に媚び売ってるんだろ?

身内で争うような真似するのか?」


そうなるな、と電話越しに通話の相手が返すと少年はため息をつき、ため息をついた少年は電話の相手に向けて少し冷たく言った。


「オマエが安易に引き受けたこの依頼のせいでオレらの肩身が狭くなったら……オマエに責任取らせるから覚悟しとけよ?」


『当然のことだ。

そのくらい覚悟してるさ』


「……オマエの護衛をしてたテンセイは?」


『ちょうどウィンターが現れた時に最初に遭遇して真っ先に金を受け取っていた。

金を受け取った時点でアイツも傭兵らしくやる気にはなってる』


「傭兵?

傭兵の真似事の間違いだろ?」


『あれでもテンセイは大人に顔負けしない実力を持った傭兵だ。

キミが天才的なスピードを発揮するようにテンセイはその心意気と根性でその地位を築き上げたんだからな』


電話の相手の言葉にどこか呆れた様子でため息をついてしまう少年。


そんな少年のため息を聞いた電話の相手は面白そうに笑うと続けて少年に向けて伝えた。


『今回の件はさすがにキミ一人に頼むのは申し訳ない。

実力は申し分ないが、利用できるものが多い方が嬉しいだろ?』


「……一つ教えろ。

そいつらは同じ賞金稼ぎか?」


『安心したまえ。

今回の件で発生する報酬はキミとオレとで山分け。

他の同行者に対する報酬は別でオレが用意しておく』


「……オマエにしては気前がいいな。

ドケチなオマエにしてはな」


『今回の件が成功すればこれからのあらゆる流れが変わる。

そしてその結果オレのもとに来る金の流れも何もかもが今までの数倍以上に膨れ上がる』


「……オマエがそこまで話すってことはよほど機嫌がいいようだな。

で、オマエが用意してくれる駒になる人間は今どこにいる?」


『いや、正確に言うならばオレは用意していない。

数時間前に東から遠路はるばるある男が仲間を引連れてこの地に来たとの情報が入ったんだ』


「東から?

一体誰が……」


『それが誰かは会えばすぐに分かるよ。

とくに注目すべきは彼が連れてきたお仲間の方だ。

使い方次第ではキミは楽できるぞ』


「これだけ教えろ。

オマエの言うそいつは異名持ちか?」


『察しがいいね。

そう、彼の異名は「死神」だ』


電話の相手から出た「死神」の名を聞いた少年は言葉を奪われ、少年は思わずその場に座り込んでしまう。


「……アイツが来るのか?」


『苦手だったか?』


「オレとアイツではやり方も考え方も違うからな。

一度顔を合わせた程度だがヤツと気が合わないのはすぐ分かる」


『その「死神」が連れてきたお仲間の中にあの伝説の賞金稼ぎがいるとすれば?』


「……何?

あの賞金稼ぎも来てるのか?」


予想もしていなかったのか男の口から出た言葉に少年は思わず聞き返してしまう。


その少年た反応を期待してたのか電話の相手の男は嬉しそうに話し始めた。


『どういう因果かは分からないが伝説の賞金稼ぎは彼とそのお仲間二人と一緒に行動している。

彼に雇われたのかお仲間の方に雇われたのかは定かではないがただ一つ言えることは……』


「ロビン・ケルトマンに会えるってことだよな?」


『そうだ。

キミが長らく会いたがっていたロビンに会える』


「……いいだろう」


ロビンの名を口にした途端顔色が変わり、少年は立ち上がるとやる気を見せながら電話の相手に向けて言った。


「その依頼、引き受けてやる。

まずオレはどうすればいい?」


『どうやら彼らは二手に分かれるらしい。

「死神」とロビンは別行動だ。

まずはオレがテンセイとともにロビンを迎えに行く。

キミは「死神」に会え』


「待て。

面識があるのならオマエが「死神」と……」


『キミには「死神」と合流後にすぐに捜索に取り掛かってほしい。

こうなったらすぐにでも終わらせたいだろ?』


「まさかヤツはこの地域にいるのか?」


『ああ、「八神」の力を使って情報操作をしながらこの関西圏に雲隠れしてる。

まずは炙り出してもらいたい』


「方法は問わないよな?」


『ああ、どうせ最後には殺す相手だ。

死に顔が間近で拝めるかどうかの違いだから好きにしていい』


「……了解した」


『じゃあ、頼んだよクラン』


電話の相手は少年に一言言うと通話を切り、少年は携帯電話を服のポケットに入れるとすぐに出立するために荷造りを開始した。


「ロビンと会えるってのは予想外だったが有難いことだ。

そして大金も手に入るなら好都合。

だが……まさかあの「死神」と手を組むことになるとはな」


少年は二本の短剣を手に持つと専用のケースに収めて腰に携行し、さらに服の内側に施された収納部に拳銃を隠すように入れていく。


「……やるからには全力だ」


荷物をまとめると少年は……「暗撃」のクランはバンダナを少し強く締め、そして荷物を持ってホテルの部屋を出ていく。


「ネクロ……オマエの目的、必ず達成させてやるよ」





***


早朝の大阪。


普段はテレビの画面越しでしかここらのことを見ていないソラは少しガッカリしていた。


「……大阪ってのも案外静かだな」


ウォーキングをする人や通勤中のサラリーマンの姿はあっても彼がいつも見ていた大阪の賑やかな光景は時間帯が時間帯だからかまだ広がっていない。


賑やかな街の光景を期待していたのかソラはため息をつくと足早に歩いていくが、そんなソラの後を追うようにイクトも早足で歩きながら彼を慰めでもするかのように話し始めた。


「こんなに早い時間だとさすがに盛り上がりに欠けるかもだけど今は観光に来たわけじゃないだろ?

街は賑わう方がいいけどオレたちの目的を果たす上では……」


「あん?

何の話してんだよ?」


「いや……大阪が静かすぎて落ち込んでるんだろ?」


「誰が?」


「ソラが」


そんなわけない、とまたため息をつくとソラは周囲を見ながらイクトについて自身の内にある考えを明かしていく。


「たしかに賑わってるのを見てみたいとは思ってはいたが、オレはどちらかと言えばこの静かさが逆に怪しく思えるんだよ」


「どういうこと?」


「オレたちはネクロを探しにこの関西圏に来たわけだがネクロってヤツはオレたちがここに来ていることもここに来る理由も知らずにいる。

仮にも有名なヤツなら不審人物を取り締まるはずだしそのために能力者を監視のために配備しててもおかしくない」


「考えすぎだろ?

たしかにネクロなら情報網張ってはいるだろうけどそんなに警戒しなくても……」


「甘いな。

オマエは心当たりがある程度でネクロを探すことを提案した。

数度の面識のある相手程度の人間を情報に優れた人間が何の疑いもなく簡単に受け入れてくれると思ってるのか?」


「それは……」


「ましてネクロってヤツはオレを知らない。

そんなヤツがここに何の警戒も疑いも無しにオレたちを招くと思うか?」


考えすぎだよ、とイクトはソラの言葉に対して考えすぎたということを伝えると彼の意見に対して補足するように話した。


「ネクロが仮に警戒して能力者を配備していたとしても何に危機感を抱くんだ?

そもそもわざわざここに来たオレたちを招いて目的を聞いてから始末した方が情報を扱うネクロにとっては有意義だと思うけど」


「危機感を抱く理由ならある。

オマエがキキトに利用されていたってことだ。

キキトを消したいと望んでるヤツからすればオマエはキキトに自分の居場所を教えかねない危うい存在だ」


「だから考えすぎだって。

大体……」


黙れ、とソラは拳銃を取り出すなり右手に構え、そして構えた拳銃の銃口をイクトの方に向ける。


「ちょっ……タンマタンマ!!」


「黙ってろ……」


突然のソラの行動に驚くイクトは彼を落ち着かせようとするもソラは聞く耳を持たずに引き金に指をかける。


「何でこうなんだよ!!」


「消えろ……!!」


ソラが引き金を引くと銃口から炎の弾丸……炎弾が放たれ、放たれた炎弾はイクトに向かって飛んでいく。


「ヤバ……」


放たれた炎弾は速い速度で撃ち出されたためにイクトは回避が間に合わないと感じた。


(何でこんな……)


終わった……。

ソラの炎弾が迫る中で避けれぬことを悟ったイクトは何故こうなったんだと自問しながら炎弾に襲われることに覚悟を決める。


だが……


イクトに迫っていく炎弾は突然高速で回転すると軌道を変えるように曲がり、イクトの横を通り過ぎて行くとその先で何かにぶつかって炸裂する。


「ぐぁぁあ!!」


炎弾が炸裂して爆発となると何も無いはずの所から突如全身武装された兵士が現れ、現れた兵士は炸裂した炎弾の勢いによって吹き飛ばされてしまう。


「……へ?」


「やっぱり待ち伏せしてたか」


ソラが一言つぶやくとそれに反応するかのように二人を包囲するように全身武装された兵士が次々に姿を現す。


現れる時、何やら光のようなものが歪み、それを見たイクトは兵士がどのようにして現れたのか理解した。


「光学迷彩の類か!!」


「ステルスとは卑怯な真似してくれるじゃねぇか」


「いつから気づいてたのさ?」


「オマエがオレの言葉に対して考えすぎだって否定したくらいからだ」


「……気配は感じてたんだな」


「オマエが間抜けすぎる。

そんなんでよく賞金稼ぎが務まったな」


うるさいな、とイクトはソラの言葉に対して言い返すと影を膨らませ、膨らませた影の中から大鎌を出現させてそれを手に取って構える。


「オレの本領はここからだよ」


「本領ね……そういうのはせめて初めから見せてくれねぇか?」


「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ?」


「オマエは単に馬鹿なだけだ」


「酷くない!?

オレらコンビなのに……」


知らん、とソラは兵士に向けて炎弾を放つと走り出し、そんなソラに続くようにイクトも走り出す。


「とりあえず……コイツら潰すぞ!!」


「賛成だね!!」



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