XXIV
「じゃあ、任せるぞ」
「オッケー!!
任せとけ!!」
ヒロムがゴーレムナイトに殴りかかろうとする中でイクトは大鎌を構えて様子を窺っており、イクトに一言伝えたヒロムは敵を攻撃していた。
「オラッ!!」
ヒロムは迫りくるゴーレムナイトを何の迷いもなく素手で殴り壊し、殴られたゴーレムナイトは粉々に砕けてしまう。
しかし……
粉々に砕かれたゴーレムナイトの欠片が魔力を纏うと新たなゴーレムナイトが次から次に現れ、現れたゴーレムナイトは一斉にヒロムに襲い掛かろうとする。
が、ヒロムは一切動じない。
それどころか先程までにはないほどに激しい攻撃を繰り出しながら敵を次々に破壊してく。
破壊されたゴーレムナイト。
だが破壊されても再び再生と創造を繰り返しながら数を増やしていき、増え続けるゴーレムナイトをヒロムはただ破壊し続けていた。
「オラッ、オラッ、オラッ!!」
一切の迷いなく拳を叩きこんで敵を破壊するヒロム。
そのヒロムの姿を見ているリトル・パープルはあくびを交えながら彼に諦めるように忠告した。
「やめときな、無駄な努力ってもんだ。
コイツらはいくら素手で破壊できるオマエでも倒しきれない。
ただオマエが体力を消耗するだけだぞ?」
「どうかな?
イクトは無限とか勘違いしてるけど、オマエはさっきちゃんと弱点を口にしてたからな」
「何?」
ヒロムに指摘されて思い出そうとするリトル・パープル。
思い出そうとしてすぐに自身が口にしたある言葉を頭の中で真っ先に思い出した。
『このあゴーレムナイトは破壊されればされるほどに増え続ける!!
つまり、オマエたちがくたばらない限りは限界に達するまで増え続けるのさ!!』
「オマエ……」
自分の口にした言葉を思い出したリトル・パープルはどこか失態を犯したと言わんばかりの表情を浮かべており、そんな表情を浮かべるリトル・パープルに向けてヒロムは忠告するとともにある言葉を告げた。
「慢心するのもいいが……よく考えてから口にするんだな。
おかげでオマエを倒すのが楽になった」
「適当なことをぬかすなよ?
オマエが考えてるよりオレの限界は……」
「もうすぐさ。
オレがこんだけ増やしたおかげでオマエを追い詰める段取りは完成した」
ヒロムが指を鳴らすと彼のもとに二人の少女が現れる。
一人は長い銀髪に赤い衣装で銃剣を持った少女・テミス。
もう一人は長いオレンジ色の髪にミニスカートを翻して拳銃を構える少女・アルカ。
二人の少女……彼女たちはヒロムの宿す精霊だ。
二人の少女の精霊は武器を構えるなりどうするかをヒロムに訊ねた。
「マスター、ご指示を」
「私とテミスはどうすればいいの?」
「なぁに、簡単な話だ。
とりあえず……目の前の大軍を殲滅しろ!!」
「「了解!!」」
ヒロムの指示を受けると二人はしっかりとした言葉で返事をし、テミスは銃剣から炎の弾丸、アルカは雷の弾丸をゴーレムナイトに向けて次々に放ち、放たれた二種の弾丸はゴーレムナイトに襲い掛かる。
だがリトル・パープルは余裕を見せていた。
「そんな弾丸ごときでオレのゴーレムナイトが破壊できるわけないだろ?
オレのゴーレムナイ……」
「長ったらしいからゴーレムでいいよ。
ご自慢のその強度はもう発揮されないから安心しろ」
ヒロムが余裕を見せるリトル・パープルに向けて言うと、テミスとアルカが放った弾丸がゴーレムナイに命中しようとする。
「無駄だ!!
オレのゴーレムナイトはそんな攻撃……」
リトル・パープルがヒロムの言葉を嘲笑おうとしたとき、二種の弾丸はゴーレムナイトに命中して敵を破壊していく。
「……は?」
余裕の表所を崩さなかったリトル・パープルの顔からその余裕が消え、何が起きているのか理解できないという顔をしていた。
そんな彼のことなど構うこともなくテミスとアルカは次々に弾丸を放ち、放たれた弾丸はゴーレムナイトを貫き、弾丸を炸裂させると粉々に爆散させていく。
「バカな……!?
どうしてだ!?」
「簡単な話だ。
オマエのゴーレムは砕かれれば欠片から新たなゴーレムを生み出す。
だがそのゴーレムが欠片から生まれてるとすればその強度はどうなるのか?
百の力から生まれたゴーレムの強度と一の欠片から生まれたゴーレムの強度……同じなわけないだろ?」
「オマエまさか……!!」
「オマエが口を滑らしてくれたおかげでこんな雑な作戦を思いついた。
限界があるのはオマエだけじゃないだろうからな」
「オレを限界に追い込むためではなく……ゴーレムナイトを殲滅するためにこんなことを!?」
「悪いな。
オレの担当はゴーレムの方だからな」
「オマエェェェエエエエ!!」
「そろそろ……オマエの人形も限界だ」
ヒロムが指を鳴らすとテミスとアルカは弾丸を放つのをやめ、弾丸が止むと弾丸に撃ち抜かれたゴーレムナイトは一斉に砕け、砕けたゴーレムナイトの無数の欠片は風に吹かれて散ってしまう。
「そんな……」
ゴーレムナイトの全滅に言葉を失うリトル・パープル。
そのリトル・パープルの反応を目にしたヒロムは彼に向けてさらなることを告げた。
「言い忘れてたが、オマエの担当の攻撃がまだ残ってるぞ?」
「何?」
「アドバイスするなら……たまには足下見るんだな」
ヒロムに言われた言葉の意味が分からないリトル・パープルは彼が言うがままに自身の足下を見ようと地面に視線を落とす。
リトル・パープルが目線をした向けると彼の影があり、その影から突然無数の鎖が放たれて彼の体を縛り上げていく。
「な……何!?」
「じゃあな……一人じゃ何もできない臆病者」
「はあああああああ!!」
ヒロムがリトル・パープルに一言告げてしゃがむとイクトが大鎌を構えながら高く跳び、跳んだ勢いを利用してリトル・パープルに接近すると鎖に拘束されて動けない敵に鋭い一閃を放つ。
「が……!?」
放たれた一閃は拘束する鎖もろともリトル・パープルの体を抉り、イクトの一撃を受けたリトル・パープルは血を流しながら倒れる。
倒れたリトル・パープルが起き上がる可能性を考えるイクトは大鎌を構えたまま警戒するが、動く気配のないリトル・パープルを見るなりヒロムはイクトに向けて伝えた。
「もう大丈夫なはずだ。
動けたとしてもこの傷だ。
最悪ゴーレムの増殖のし過ぎで魔力消耗してまともに動けないだろうから大丈夫だろう」
「……そうだな」
ヒロムに言われるとイクトは大鎌を自分の影の中に収納するように入れていき、ヒロムはテミスとアルカを撤退させるとイクトに言った。
「ご苦労さん」
「……ほとんどアンタの手柄だけどな」
「オマエじゃ無理だったろ?」
「悔しいけどね。
でも……倒せた」
どうする、とヒロムはリトル・パープルを見ながらイクトに質問をした。
イクトの一撃で意識を失って倒れているリトル・パープルをこのままにはしておけない。
ヒロムが言わなくてもイクトならそのことはわかっているだろう。
イクトはヒロムに質問されると愛咲リナのことも気にしながら返事を返した。
「リトル・パープルは彼女を襲おうとしなかった。
オレたちだけが狙いならそれで十分だけど、彼女を別の何かが狙っていたらコイツを「月翔団」に預けても安心できない」
「拷問は?」
「何?」
「拷問だよ。
そんなに気になるなら拷問して聞けばいいだろ?」
「無理だね、多分。
その手のことで口割らないように訓練受けてると思うよ」
「自分の弱点晒したような奴が?」
「そこは……気にしないで行こうよ」
そうかよ、とヒロムは携帯電話を取り出すと誰かに電話を掛けた。
「……オレだ。
イクトがリトル・パープルを倒した。
動く気配はないが回収に来てほしい。
オレはオレでやることがあるからな」
頼むぞ、とヒロムは一言残すと電話を切ってイクトに伝言をした。
「コイツは「月翔団」が回収に来る。
オマエはコイツを影の中に入れて回収に来るヤツに渡してくれ」
「今の電話でそこまでのことを?」
「うるさい。
オレは……オレのやるべきことをやる」
「わかった」
ヒロムに言われてイクトは影から鎖を出すと念のためにリトル・パープルを拘束しなおし、拘束したリトル・パープルを影の中に入れていく。
イクトが処理する中でヒロムは精霊・フレイが守っている愛咲リナに歩み寄ると彼女に話しかけた。
「気分は?」
「あの……一体何が起きてるんですか?」
戦いが終わっても混乱が隠せない愛咲リナ。
当然だろう。
イクトが言っていたように彼女はこういうことにかかわりはない。
未知の世界だろう、そんなものが目の前で繰り広げられていたとなれば混乱して当然だ。
ヒロムもそれについては多少は気にかけているようで、彼女に対して今何が起きているかを伝えた。
「さっきのやつの狙いはオレとアイツだ。
ただアイツの仲間か他の人間がアンタのことを狙っている」
「私を、ですか?」
「驚くのも無理はない。
アンタは……こっち側の人間じゃない」
「ヒロム」
愛咲リナに説明するヒロムのもとへとイクトが歩み寄ると彼はヒロムの代わりに愛咲リナに説明した。
「実を言うとオレたちも何が起きてるかわかっていないんだ。
さっきのヤツがオレたちを狙っていたのは確かだけど、これで終わりじゃないのもたしかだ。
いつ終わるかわからない……だからしばらくは彼がキミを守ってくれる」
「え?あ、あの……」
「いや、この話は後回しだ。
今は安全な場所に行こう」
「なら学校だな」
「だな」
イクトが説明して余計に混乱する愛咲リナ。
今説明してもただ混乱するだけ、そう思ったヒロムとイクトはこれ以上説明しようとせずにひとまず彼女を連れて学校に向かうことにした……
***
ヒロムとイクトが愛咲リナを連れて学校に向かおうとする中、その様子を遠く離れたビルの屋上からリュクスは眺めていた。
「リトル・パープルを倒したか。
いや、妥当だな。
粋がるだけの小心者の紫ヘアーにお似合いの末路だな」
「リュクス様」
リュクスが一人呟いていると彼のもとに仮面をつけたメイド・ジャスミンがやってくる。
彼女がやってくるとリュクスはどこか楽しそうに彼女に向けて話した。
「想定以上にあの男は強いよ。
あの調子ならオレたちの計画に利用できるまでに成長するのも遅くはない」
「うれしそうですね」
「当然だろ?
黒川イクトはここ数日で急速に成長してるし、何よりもあの「覇王」がこんなに強いとは想定してなかったからな」
「では……」
「少し早いが計画を進めよう。
オレたちの計画をな」




