XXIII
護衛対象である愛咲リナと遭遇し、どうにかして護衛の任務を果たそうとするヒロムまそのヒロムの仕事を穏便に済まさせようとするイクトの前に現れたリトル・パープル。
そしてリトル・パープルの背後に並ぶ白い鎧の騎士・ゴーレムナイトが槍や剣を構えてヒロムたちに攻撃しようとしていた。
「見せてやるよ。
「覇王」の力をな」
「おもしれぇ、その力とやらを見せてもらおうか」
やってやるよ、と敵を前にして意気込むヒロム。
だがヒロムがやる気になる一方でイクトは愛咲リナのことを気にかけていた。
「待てよ。
このまま戦うのか?
彼女がここにいる中で?」
「……あ?」
「愛咲リナを巻き込まずに戦うべきだ。
彼女は……オレたちとは住む世界が違う」
「なんだよ急に。
オレたちとは住む世界が違う?
オレたちか愛咲リナのどっちかが宇宙人ですってか?」
そうじゃない、とヒロムのどこかふざけたような言葉に対してイクトはため息混じりに言うと愛咲リナのことについてヒロムが茶化せなくなるように真剣な表情で話した。
「彼女は能力者の戦いとは無縁な人間だ。
巻き込むべきじゃない」
「……オレは能力者じゃない」
「多くの精霊を宿してるのならそれはもはや能力と呼ぶべきだ」
「……都合のいい話だな」
ヒロムとイクト、どこか噛み合わない二人の意見。
リトル・パープルの出現に対しては少し共闘するかのような雰囲気があったのに今ではただ対立するかのように言葉を発している。
戦うことを優先しようとするヒロム。
巻き込まないようにしようとするイクト。
リトル・パープルを倒すという目的を成し遂げるための筋書きは異なっている。
二人が対立する中、二人の中の不満よりも不安を感じているのは他でもない、愛咲リナだ。
ヒロムの精霊・フレイに守られる彼女だが、守られているからこそ不安を感じている。
「あ、あの……」
突然の敵襲、そして話についていけぬ自分を置いて話が進む。
そんな中で何もわからない彼女が不安を感じないはずがない。
「何がどうなってるんですか……?
私は……」
「少し黙っててくれ」
「黙っててくれって言われても私は……」
「アンタは必ずここから無事に助ける。
だから黙っててくれ」
「そんな……」
黙っててくれ、その言葉は彼女をただ不安にさせる。
何が起きてるか知りたいのに教えてもらえない。
どうすればいいのか聞きたいのに答えてもらえない。
言葉を発することで不安を解消したい彼女にとってヒロムの言葉はただ辛いだけだ。
「アンタな……言葉選べよ」
愛咲リナを黙らせようとするヒロムに向けてイクトは我慢が出来ないらしく思わず彼の肩を掴んで強く言った。
「アンタのやることが何であろうと彼女は巻き込まれている!!
巻き込まれて不安になってる彼女を余計に不安にさせてどうするんだよ!!」
「悪いがそれはオレには理解できないことだ。
命が助かるなら後から不安を拭えばいいだけだろ?」
「誰もがアンタのように強くはねぇんだぞ!!
アンタは……」
「なら逃がせよ。
ヤツのあのゴーレムについて何もわからないまま逃がすのならな」
「だからアンタは……え?」
何か言おうとしたイクトだったが、ヒロムの思わぬ言葉を耳にしたイクトは言葉を詰まらせてしまう。
今のヒロムの言い方、それはまるで何か考えがあったからこそ愛咲リナのことをあのような態度で済ませようとしていたというふうに聞こえなくもなかった。
「どういう……」
「オレもオマエも愛咲リナを安心させられるような情報は何も持っていない。
だから黙らせようとしてた。
逃がさなかったのもヤツのゴーレムの性能がわからないからそばにいた方がどうにでもなるからだ」
「そこまで考えてたのか……!?」
「ああ、冷酷な人間なりに考えてるさ。
もっとも、オマエには信用されないだろうけどな」
「……」
「オレはやるべき事をやるために戦う。
戦った後に全部説明する、それでいいだろ?
納得いかないってんなら……どうしても女を守りたいならオマエはここで突っ立ってろ」
ヒロムはイクトに向けて冷たく吐き捨てるように告げるとリトル・パープルの相手をしようと拳を構える。
ヒロムに冷たく告げられたイクトは一瞬悔しそうな顔を見せるが、すぐに表情を戻すと愛咲リナに今どうなっているかを伝えようとした。
「愛咲さん、何が起きてるか分からなくて不安だと思うけどよく聞いてほしい。
……正直なところ、オレも彼もあそこにいる男のことを何も知らないんだ。
だから彼は説明するくらいならあの男を倒して終わらせる気でいる」
「は、はぁ……?」
「訳わかんないと思うけど、ここで待っててほしい。
説明は……ちゃんとするから」
「わ、分かりました……」
イクトの言葉を聞いてもまだ不安を感じる愛咲リナ。
そんなリナを守ろうとするフレイに向けてイクトはお願いをした。
「彼女を頼む」
「任せてください。
アナタはマスターを頼みます」
「……任せとけ」
イクトはフレイの頼みに一言返事を返すとヒロムの隣に並び立ち、並び立つと自分の影の中から大鎌を取り出し、それを構えると彼に向けて一言謝罪した。
「悪かった。
アンタの考えてること、理解できてなかった」
「あ?
理解されたくねぇよ」
「は?」
「気持ち悪いこと言うなよ。
他人の思考なんざ理解するなんて簡単な事じゃねぇだろ?
オマエがオレの考えに反発するのは至極真っ当なことだから気にしてねぇよ」
「姫神ヒロム……」
長ぇ、とヒロムはため息をつくとイクトに向けて自身の呼び方について一つ指示を出した。
「長ったらしく呼ばれるのは疲れる。
ヒロムって呼べ」
「いいのか!?」
思わぬヒロムの指示……いや、提案にイクトは声を出して驚いてしまう。
構わないさ、と言いたげな表情でヒロムは頷くと走り出し、イクトも慌ててヒロムを追いかけるように走り出す。
「じゃあ行くぞ!!」
「ああ!!」
「長ったらしく話してるのも終わったようだな……。
やっちまえ!!」
わざわざイクトたちの話が終わるのを律儀に待っていたであろうリトル・パープルが叫ぶとゴーレムナイトは走り出したイクトとヒロムを迎え撃とうと動き出す。
ゴーレムナイトが動き出すとヒロムは加速して目にも止まらぬ速さでゴーレムナイトに接近し、接近するなり拳を叩きつけてゴーレムナイトを一体破壊する。
が、一体では終わらない。
「オラァ!!」
ヒロムは次から次にゴーレムナイトに殴りかかり、殴る度にゴーレムナイトを破壊して敵を減らしていた。
「よっしゃ、オレも負けてらんねぇ!!」
ヒロムに続こうとイクトは大鎌を強く握るとゴーレムナイトを両断しようと思いっきり振り下ろして斬撃を放つ……が、イクトの大鎌はゴーレムナイトを斬ろうとすると弾かれてしまう。
「ええっ!?」
「何やってんだよ……」
攻撃を弾かれたイクトを呆れた様子で見るヒロムは拳でゴーレムナイトを破壊していく。
武器を使って倒せない相手を素手で倒している。
イクトはその現状が納得いかなかった。
「いやいやいや!!
アンタのその馬鹿力がおかしいからな!?」
「ゴチャゴチャうるせぇな!!」
イクトはゴーレムナイトを拳で破壊するヒロムの方がおかしいと訴え、それを聞いたヒロムはうるさいと一蹴するとゴーレムナイトの頭を握りつぶし、頭を握りつぶしたことで動かなくなったゴーレムナイトの足を掴むなり鈍器のように振り回して他のゴーレムナイトをも破壊していく。
そんな中でヒロムはイクトに向けてあることを伝えた。
「コイツら打撃とかの振動に弱いみたいだぞ」
それはゴーレムナイトを倒すヒントだった。
ヒロムの言葉を聞いたイクトは自分が倒せなくてヒロムが倒せるという謎が解決したらしく、ヒロムのヒントから解決策を即座に見出すとイクトは自分の影を大きく膨らませるとその影の形を変えることで拳を出現させる。
「打撃なら……影拳撃!!」
影が形を変えた拳が勢いよくゴーレムナイトに殴りかかり、影の拳に殴られたゴーレムナイトは粉々に砕けて破壊される。
「よっしゃ!!」
「……影に形を与えるとは便利な能力だな」
「こんなの朝飯前だぜ!!」
ゴーレムナイトを破壊して喜ぶイクトは影の拳をいくつと出現させると連撃を放つように影の拳を同時にゴーレムナイトに向けて放ち、ヒロムもそれに加勢するように素手で連撃を放つ。
二人の攻撃、ゴーレムナイトはヒロムとイクトの攻撃によって一掃される。
ゴーレムナイトが一掃されたことにより、リトル・パープルだけが残され、ヒロムとイクトは構え直すと敵を倒そうと距離を詰めるように動き出す。
「さっさと片付けるぞ!!」
「ゴーレムが消えたならオレの大鎌も……」
「甘いな!!」
あと少しで勝てると確信したイクトを嘲笑うかのようにリトル・パープルが指を鳴らすとイクトとヒロムが破壊したゴーレムナイトの砕けた欠片から新たなゴーレムナイトが生まれ、生まれたゴーレムナイトはリトル・パープルを守るように立ちはだかる。
その数は先程の三、四倍……!!
破壊したゴーレムナイトの欠片から生まれたせいかその数は先程までとは比べものにならないほどだった。
「また増えた!?」
「アイツ……オレたちが破壊したゴーレムナイトを分裂させたのか?」
「その通りだ!!
このゴーレムナイトは破壊されればされるほどに増え続ける!!
つまり、オマエたちがくたばらない限りは限界に達するまで増え続けるのさ!!」
不敵な笑みを浮かべながら声高らかに説明するリトル・パープル。
リトル・パープルの説明を受けたイクトは思わずヒロムにどうするか策を聞き出そうとした。
「やべぇってヒロム!!
このままじゃ無限に増えるぞ!!」
「みたいだな」
「反応薄!!」
「破壊したら増えるんだな」
「そう、そうだよ!!
このままじゃオレたちは増え続けるゴーレムに殺されるって!!」
「このまま壊してもまた増えるだけだしな。
けど……もし限界があるとしたら?」
「え?
何を……」
するとヒロムはイクトに現状を打開する策を彼にだけ聞こえるように伝えた。
「……」
「……!!」
イクトにだけ聞こえるように離すヒロム、ヒロムが伝えた現状を打開する策を聞いたイクトは驚いた顔を見せると共にそれが可能なのかヒロムに確認した。
「そんなこと出来るのか?」
「出来るはずだ。
オレたちならな」
「……その作戦、信じていいんだな?」
「ああ、信じてくれていい。
その代わり……オマエはアイツにトドメをさしてくれればそれでいい」
ヒロムから作戦を聞いたイクトは大鎌を構え直すと深呼吸し、イクトが構えるとヒロムは突然走り出してゴーレムナイトに殴りかかろうとする。
「じゃあ、任せるぞ」
「オッケー!!
任せとけ!!」




