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XX


「蓮夜……!?」


今この場にいないヒロムを呼び出しているとされる人物・蓮夜の名前を聞いたイクトは少し驚いたような顔でソラを見ていた。


そのイクトの視線に気づいたソラは何か不満でもあるのかと彼に問い返した。


「ヒロムが蓮夜に呼び出されてるのが気に食わないのか?」


「あ、いや……あの名高い白崎蓮夜に呼び出されてるって考えたら驚くしかなくてさ……。

本当にスゴいんだな、姫神ヒロムって」


「今更だな。

別に驚くことじゃないだろ?」


「いやいや、驚くことだって。

白崎蓮夜って言ったら「十家」の能力者も手が出せない「雷虎」の異名を持つ能力者だぞ?

その戦闘力は特殊訓練を受けた軍人数千人が束になっても勝てないほど強く、そして彼に対して敵意を向ければ生きて帰れないって噂されるほどの人だぞ?」


「ふーん……あの人がね」


「ホントだぞ!?

あの人は……」


「なぁ、イクト」


イクトの話を聞いてもあまり反応を示さないソラ、それでも話を続けようとするイクトに向けてガイは質問をした。


「それだけの噂が流れてるなら蓮夜にも懸賞金とか懸けられてるのか?」


「ああ……いや、あの人は懸けられてないよ。

懸けたところで誰も手出しできないし、倒せる可能性がある「十家」もその地位が揺るがない限りは手を出す理由もない。

賞金稼ぎとしてはあの人と戦って大金を得たところで負傷は免れないし損失も大きいはずだしな」


なるほど、と喫茶店のマスターが三人分の新しいコーヒーをテーブルへと運んでくるとイクトたちの前に並べる。


コーヒーのお代わりを頼んだ覚えのないイクトは不思議そうにしているとガイとソラは何の迷いもなく運ばれてきた新しいコーヒーの入ったカップを手に取る。


「えっ……あの……」


二人の行動も驚きなのだが、イクトからするとそれ以上に気になることがある。


そう、それは今イクトが話していた内容をこの店のマスターに聞かれているという事だ、


万が一を考えれば聞かれたままはまずいと考えたイクトだが、そのイクトの心配を察したかのようにガイが説明した。


「イクト、この人には聞かれても大丈夫だよ」


「いやでもこの人は……」


「この人は獅童士門、蓮夜さん率いる「月翔団」の幹部だから大丈夫なんだよ」


「……幹部?」


イクトはガイが幹部という喫茶店のマスターの方に目を向ける。


白い紙に髭、四十代と思われる喫茶店のマスター。

獅童士門と呼ばれたイクトの視線を感じると優しく微笑みながら自己紹介をした。


「初めましてだな、黒川イクト。

オレは獅童士門、普段はこうして喫茶店のマスターとして坊っちゃんの身に危険が及ばないかを見守ってるが、命令があればどこにでも駆けつけて戦う能力者だ」


「よ、よろしくお願いします……」


「コーヒーのお代はいらないから遠慮なく飲め。

日頃坊っちゃんのこと守ってくれてる駄賃代わりだ」


「ありがとうございます」


「にしても蓮夜のヤツ、妙な噂流されてるんだな。

他にもあるのか?」


蓮夜の噂話に興味を示す獅童はイクトに他の話がないかを訊ね、イクトは何か他になかったか思い出そうとしていた。


そんなイクトが考える中で話題を変えるかのようにソラは獅童に質問をした。


「ヒロムはなんで蓮夜に呼び出されたんだ?」


「ん、ああ……。

熱海の件の処理についての報告とここ最近の情勢についての報告だよ。

熱海の件での後始末を頼まれてたからな」


「だとしたらキキトってヤツのことも……」


「残念だが黒川イクトを差し向けたその男については情報が掴めてないんだ。

やはり「八神」の仕立てあげた能力者って事もあって素性も分からないんだ」


「そうか……」


獅童の説明を聞くとソラは舌打ちし、獅童の話を聞いていたイクトも残念そうな表情を浮かべる。


ソラにとってはヒロムの命を狙う敵であり始末すべき相手だ。

対してイクトは自分に対してヒロムを始末するよう指示した相手であり、賞金稼ぎと情報屋という相棒関係にあった相手だ。


仕事をする上で情報提供をしてくれていた相手に利用され、そして捨て駒のように始末されそうになっていたイクトは彼と敵対することを決意して倒そうと決めている。


が、それでもイクトはまだ彼について気になっている部分もある。


「……アイツ、今何してんだよ」


「あまり気にするなよイクト」


キキトについて気にするイクトに向けてガイは軽く忠告すると、キキトの処分についての話を始めた。


「ヒロムを始末しようとしてるのはハッキリしてる。

ハッキリしてる以上「月翔団」やオレたちは何があってもヤツを始末して野望を阻止しなきゃならない」


「分かってるよ、そんなのは。

オレは……」


「迷うなよ、イクト。

キキトはオマエのその悩みすら利用するかもしれない。

敵対することを決めたのなら迷わず殺せ」


「……」


ところで、と獅童は話題を強引に変えるようにイクトにある事を訊ねた。


「オマエ、「月翔団」に興味はないか?」


「え?

それって……」


「始まったよ、いつもの勧誘が……」


「ああ、勧誘なのか……。

すいません、オレは遠慮しときます」


ソラがため息を混じえながら呟くとイクトはどこか申し訳なさそうに断り、獅童はイクトの答えに対して笑ってしまう。


「なんだ……残念だな。

若いのは将来性があるのにな」


「だからって見境なしに誘うなよ……」


「オレらみんな誘われて断ってるもんな」


「……そう、なんだ……」


呑気に笑う獅童に呆れるソラとガイ様子に少し困惑するイクトは苦笑いを浮かべていた……


***



公園。


街中にあるこの公園はとても広く、ブランコやすべり台などの遊具はもちろんのこと、憩いの場としての休憩場所もしっかりと設けられている。


夕方で園児や小学生が集まって元気に遊んでいる中、公園内にあるベンチに二人の男がいた。


「……」


一人は赤い髪の少年。

中学の制服を着ている学生……彼が姫神ヒロム。


もう一人の男は黒い髪に前髪だけが金のメッシュとなった髪をしており、どこかの民族衣装に身を包んでいた。


傍から見れば異質な空間……

中学生と思われる少年と奇抜な男、怪しさは満点だ。


そんな中、ヒロムは男に向けて話しかける。


「……報告のためなのにアンタ自らが来る必要あるのか、蓮夜」


「面倒だよなァ〜?

わざわざ報告するためだけにこんな所に来なきゃならねぇんだからなァ」


「呼び出したのはオマエだろ、蓮夜……」


男は……白崎蓮夜は面倒そうに呟くと、ヒロムに向けて茶封筒を手渡した。


ヒロムは蓮夜が渡してきた茶封筒を開封すると中から資料を取り出して目を通す。


「……相変わらず、仕事が早いな」


「ガキの仕事と本職の仕事を一緒にするなよォ?

その気になりゃ半日で終わるんだよ」


「その言うわりには今回の件は二日ほどかかってるけど?」


うるせェ、と蓮夜はヒロムを冷たい眼差しで睨みながら言うが、ヒロムはそれを無視して資料についての話を進めた。


「キキトってヤツについてはやはり何も無かったか?」


「ああ、不思議なことにな。

「八神」に属してるとはいえ経歴すら分からないんだからなァ。

飾音の独自の情報網でも無理だったようだからなァ」


「アイツの、ね……。

信用出来るのかよ、その情報網とやらは」


「少しは役に立つと思っただけだ。

それよりもオマエが考えていた通り「ジルフリート」が国内に潜伏しつつあるぞ」


「そうか……」


蓮夜の話を聞きながら資料を読み進めるヒロム。

そんな中、資料の中にある写真が気になったヒロムは蓮夜に写真について質問した。


「この写真は?」


「朝方に確認されたものだ。

「ジルフリート」ではないが米国で賞金稼ぎとして名を馳せてる男だ。

名前はガレット、二つ名は「紅星」だ」


「コイツもオレを狙っているってか?」


かもな、と蓮夜はヒロムの問いに対して答えると続けてある事をヒロムに告げた。


「今回のキキトってヤツから生じてる敵の計画はオマエを始末しようと攻めてきたこれまでの敵とは規模が違う。

敵はオマエを始末するために各国から選りすぐりの能力者を用意する気だ。

集めた情報の中には「リトル・パープル」ってヤツの名前もあったし、「ジルフリート」が国内にいるのもおかしな話だ」


「今回は本気ってことか?」


「仮にもこれがもし「八神」の意向ならな。

だがこれまで大規模な計画を立ててまで攻めようとしなかったヤツらにしては少し妙な部分も多い」


「……それもそうだな」


ヒロムと蓮夜、二人はどこかに潜んでいるとされる敵について不思議に思っていた。


「八神」……「十家」の一角でありヒロムを「無能」と呼んで蔑み殺そうとしている存在。


「十家」という名家の集まりの一角を担う「八神」が大々的に行動してヒロム一人を殺そうとすることは他の名家にバレた際に追及される可能性があるし、そうなった場合「八神」自体が今の地位を剥奪される可能性があるのだ。


「八神」に属するキキトを追って生じた熱海の件もあるし、下手に行動を起こして問題に発展すれば惨事は免れないのだ。


「ヤツらに別の目的があるにしても、ここまで人を集める理由が分からないな」


「厄介なのはそこだな。

国外の組織にまで手を出すとなるとヤツらの思惑が分からねぇ」


「……つまり、打つ手は今のところないってことか」


「分かってるとは思うが、必ず敵が攻撃してきてからしか手を出すなよォ?

ヤツらの狙いが何であれ、オマエが先に手を出せば法だの何だのでいくらでもオマエを貶めることが出来るんだからなァ」


「……理解してるさ、とりあえずはな」


「そうか、なら安心だなァ。

それと……もう一人の方も調べておいたぞ」


「リュクスってヤツか」


ああ、と蓮夜は返事をするとヒロムがその名を口にした「リュクス」という人物についての話をした。


「ギリシャ語で翼を意味する言葉・プテリュクスから来てるとかいうその名前の人間を調べたが、そんな名前を聞いたことのある人間は一切いなかったし、所属すら分からなかった」


「キキトと同じか?」


「いや……リュクスという名前が本当に翼を意味する言葉から来てるのなら関係してるかもしれない件があってな」


すると蓮夜はヒロムが見ている資料の一部を取るとそれに注目させるように彼に見せた。


「ここ数日、数ヶ所の教会にて紅い羽根が落ちているのが発見されている」


「紅い羽根……」


「リュクスって男はたしか髪が赤いって話だったよな?

もしその紅い羽根と関係してるとすれば……」


「ヤツは教会に何かを求めてるってのか?」


「さぁなァ。

でも……その羽根があった場所にいたという可能性は大きいぞ。

羽根が見つかった教会には血の痕跡が複数あったらしいからな」


「……なるほど」


蓮夜の話を聞くなりヒロムは茶封筒の中に資料を戻すと立ち上がり、そしてどこかに向かおうと歩き始める。


「どこに行く気だァ?」


「アンタには関係ない。

オレはオレのやりたいようにやる」


「ふざけてんのかァ?

今回の件はそんな簡単な話じゃねぇんだよ」


「……簡単な話だよ。

オレが終わらせれば済む話だ。

オレを狙うヤツらを、な」


「……オマエが倒すつもりか?」


「悪いけど、アイツらに付き合ってもらわなくてもいいし巻き込む気もない。

オレは……オレを狙う敵を倒すだけだからな」


その場から立ち去ろうとするヒロムだが、そんなヒロムに向けて蓮夜は咳払いをすると彼に向けてある事を告げた。


「悪いがオマエには別の案件を頼みたいんだ」


「別の案件?」


「愛咲リナって分かるか?」


「……誰だそれ?」

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