XIX
新章「紅翼・不穏戦慄」STARTです
どこかにあるであろう教会。
人の手がほとんどつかない状況で放置されたと思われるほどに老朽化が進んでおり、今は使われていないと思われる。
人の気配もなく、そして人が近づく様子もない……。
そんな教会の中……聖堂に一人の少女がいた。
身の丈はある大きな旗を捧げるかのように置いて合掌して祈りを捧げる少女。
長い金髪の少女はただ静かに聖堂で祈りを捧げていた。
「……」
その少女が祈りを捧げる場所から少し離れた場所では赤い髪の青年が退屈そうに座っていた。
「相変わらずかみさまへの祈りを捧げることを欠かさない真面目な子だ」
(だけど……そんなキミだからこそ美しくて愛おしい。
そんなキミだからこそオレは……)
祈りを捧げる少女の背中を見ながら呟いた青年は一瞬笑みを浮かべると、すぐに自身の後方……聖堂の入口となる扉の方に視線を向ける。
その視線の先には……メイド服に身を包み、仮面を被ることで素顔を隠した白髪の女がおり、その周囲には数人の男が全身傷だらけで倒れていた。
「うう……」
「あ……」
倒れている男たちは意識があるらしいが、全身の傷の影響なのか他の理由なのかは分からないが、起き上がる様子はない。
「……リュクス様、終わりました」
「ご苦労さん、ジャスミン。
手を汚させてしまって申し訳ないな」
構いませんよ、と女は……ジャスミンは青年・リュクスに向けて一言伝えるとどこからともなくタオルを取り出して両手に付けるガントレットの表面にふちゃくした付着した汚れを拭いとり、タオルを捨てるとリュクスに次の指示を求めた。
「どうなさいますか?
この者たちは……」
「後はオレがやる。
さすがにこれ以上その手を汚させるわけにはいかないからな」
「私は思わず別に構いませんが……」
「オレの気持ちの問題さ。
ジャスミンはエイルにそろそろ祈りを終わるように伝えておいてくれ。
続きは明日でも十分だろうからな」
「かしこまりました」
リュクスの指示を受けるとジャスミンはカレに軽く一礼した後に祈りを捧げる少女・エイルの方に向けて歩いていき、座っていたリュクスは立ち上がるとジャスミンとすれ違うように歩いていく。
倒れる男に歩み寄るとリュクスは腰を下ろし、倒れる男たちの中の一人の頭を掴むと持ち上げて話しかけた。
「さて……少しオレの話に付き合えよ」
「て、てめぇ……誰に喧嘩売ってるか分かってるのか……?」
頭を掴まれている男はリュクスに向けて彼の行動について言及しようとするが、リュクスは男に何を言われても反応を見せない。
それどころか淡々と話を進めようとする。
「オマエに質問だが……「シェンショウジン」はどこにある?
知ってるなら早めに吐いた方が楽だぜ?」
「シェン……何だって?」
「聞き取れなかったか?
「シェンショウジン」だよ。
二回言ったんだから理解したよな?」
「……し、知らねぇよそんなもん!!
オレたち雇われが知るわけ……」
「言い訳するな」
リュクスが指を鳴らすと床に伏している男の一人が突然何かに襲われ、全身から血を吹き出していく。
リュクスに頭を掴まれている男はその瞬間を目撃してしまい、恐怖を抱くとともに何も言わずに黙ってしまう。
が、黙っていてもリュクスは許さない。
「答えないならまた誰かが死ぬ。
オマエは最後に始末するが……他のヤツらに利用価値はないからな」
「あ、悪魔め……」
「好きに呼べばいい。
雇われの始末屋ごときに何を言われてもオレには響かない」
リュクスは冷たい眼差しを男に向けながら告げると指を鳴らし、そしてまた一人倒れている男が何かに襲われて血を吹き出す。
「あ……ああ……」
「二人目……。
黙っていたいならそのまま黙ってろ。
その上で訊くが……「シェンショウジン」はどこにある?」
「ほ、本当に知らないんだ!!
だ、だから……!!」
「知らないで済んだら何の苦労もしなくて済むんだよ。
それで済まないからオマエらをこうして始末しながら質問してんだろうが」
リュクスに三回目となる音を指で鳴らすと三人目の男にも何かに襲わさせ、頭を掴まれている男を着実に追い込む中で彼は最後の質問をした。
「最後に訊くぞ……。
オマエは「シェンショウジン」を知ってるか?」
「お、オレは……」
「忠告しておくが……もうチャンスはない」
***
「……くだらないな」
リュクスはため息をつくと立ち上がる。
彼が何かを聞き出そうとしていた男とリュクスが指を鳴らす度に負傷した男たちは見せしめにされるかのように壁に叩きつけられ、四肢を鋭利や刃で貫かれて磔にされていた。
「この程度のヤツらが「シェンショウジン」を知るはずもないのに……期待したオレは愚かだな」
(オレを始末しようと襲ってきたコイツらならとか期待したけど、結局は雇われの身の雑魚。
敵の情報を簡単に渡されるはずもないな……)
「さて、と。
次はどうしようかな」
思っていたほどの収穫はなかったらしく、少し考えるリュクス。
男たちを始末した際に浴びたであろう返り血によって顔は汚れており、それを見兼ねたジャスミンが彼に歩み寄るとまたしてもどこからか取り出したタオルで彼の顔の血を拭った。
「ありがとう、ジャスミン」
「せっかくの素敵なお顔が台無しですよ」
「そうかな。
オレはそうは思わないよ。
むしろオレが汚れるだけで済むなら好きなだけ汚れてやる」
「……無理だけはされませぬように」
わかってるよ、とリュクスはジャスミンに一言言い、その言葉を聞いたジャスミンはそれ以上のことは言おうとせずにただ頷くと数歩後ろへと下がった。
そしてジャスミンが下がると続いて金髪の少女が……エイルがリュクスのもとへと歩み寄る。
「お待たせしてしまいました」
「構わないよ。
それよりも少し騒がしくて集中出来なかっただろ?」
「いえ、大丈夫でした。
ただ……私がお力になれなかったことが……」
「気にしなくていいさ。
オマエはやりたいことをやりたいようにやってくれればいいんだからな」
「ありがとうございます」
「ところでリュクス様、次はどちらに向かいますか?」
リュクスとエイルが話していると二人の邪魔をするかのようにジャスミンが今後の方針について訊ね、リュクスは少し考えると二人にどうするかを伝えた。
「とりあえずは「シェンショウジン」の在り処を探る。
どうせまた他のヤツらが狙ってくるだろうけど、オレとしても動きを見せないと怒られるだろうから手掛かりのありそうなところを調べて回るぞ」
「かしこまりました。
そういえば、例の能力者についてはどうなさいますか?」
「ん?
ああ、あの化け物か。
それについてはしばらくは忘れててもいいよ。
アレは「シェンショウジン」を見つける最後の手段に利用するために置いておきたいからな」
(それに……あの化け物を相手にジャスミンやエイルが傷つくのだけは見たくないからな)
「まずはジョーカーと合流しよう。
彼が調べてくれている「ジルフリート」の件も気になるからな」
リュクスが指を鳴らすと彼とともにジャスミンとエイルが音を立てることなく姿を消し、そして三人がいた場所に一枚の紅い羽根が落ちる……
***
とある喫茶店
「全然、掴めねぇ!!」
黒川イクトは頭を抱えながら叫ぶ。
「キキトの足取りどころか関係のある人間すらも見つからねぇ!!
このままじゃマジでやべぇ!!」
黒い髪を掻き乱すように手を動かしながら嘆くイクトだが、そんな彼と同じ席でコーヒーを飲んでいる相馬ソラと雨月ガイはただ静かにしていた。
「二人は焦らねぇのか!?」
「……オマエが騒ぎすぎなだけだ」
「ソラの言う通りだ、イクト。
少し落ち着いて頭を冷やせ」
けど、とガイに落ち着くように言われても中々納得いかないイクトは言い返そうとするのだが、そのイクトの言葉を遮るようにソラはイクトが悩んでいる件について話した。
「今まで下っ端始末してきて分かってるだろ。
キキトは確実に「八神」の中で暗躍してる。
オマエが必死になっても今のままでは情報も規制されて終わりなんだよ」
「けどよ、ソラ。
そんな呑気なこと言ってる間に敵が本格的な動きみせる可能性だってあるわけだろ?
だったら……」
「尚更焦らなきゃってか?
悪いがオレはそうは思わねぇな」
イクトとは真逆の意見を持つとされるソラはイクトの言葉に賛同する様子もなく、ソラの反応からイクトは少し納得いかないという表情を浮かべてしまう。
そんなイクトに向けてガイは話題を変えるようにある名前を出した。
「そういえばイクトが調べてた「ジルフリート」はどうなったんだ?」
「そっちは大体は判明したよ。
あらゆる仕事をこなす傭兵集団で、その創設者は金持ちセレブの御曹司だとか言われてる。
対能力者用の装備を多数持っていることから能力者専門の掃除屋とも称されている。
規模としては大きくはなく、所属してる人間の数は約百人。
その中に腕利きの人間が山ほどいるらしい」
「傭兵集団、か。
厄介なヤツらが出てきてるんだな」
「その存在が確認されてるだけだからハッキリとしたことは言えないけど……「八神」が目をつけてる可能性があるよ」
「傭兵集団を雇ってまでヒロムを始末するってのか?」
イクトの話を聞いていたソラは彼の「ジルフリート」という傭兵集団を「八神」が目をつけているという点が気になったのか異論を述べた。
「いくら「八神」がヒロムを始末したがってるからってわざわざそんなヤツらを雇うとは思えない。
万が一ヤツらが他の「十家」と繋がってるとなればヒロムを始末しようとしてることがバレるし、その手柄を横取りされる危険性がある」
「でも他の「十家」は姫神ヒロムを狙う理由が……」
あるんだよ、とソラの考えに反論しようとしたイクトを止めるようにガイは言うと続けてそれについて詳しく話した。
「たしかに明確な理由を持ってるのは「八神」だけだ。
だけど「十家」全体としてはヒロムの存在はこの国の能力者のバランスを崩す要因になりかねないから出来ることなら排除したいだろうな」
「何で?」
「能力者は力を持つから優れている……それがヤツらの考えだからだよ。
能力者は能力を持つからそう呼ばれる。
けどヒロムはその能力を宿さずに精霊のみを使役する存在でありながら能力者を圧倒出来る力を持っている。
他国からすれば日本の能力者は能力を持たぬ人間に簡単に倒される脆弱な存在と思ってるかもしれないからな」
「自分たちの威厳と他国に対する威厳のためだけに狙うってのか?」
「他のヤツらはな。
今の地位を守るためなら平民となる弱い人間は捨て駒だ。
そして目的のために利用する価値があるなら……「ジルフリート」を「八神」以外も利用するかもな」
「オマエがどう思ってるかはさておき、今のガイの言葉は間違ってはいない。
ヒロムを殺して何かを得ようとする……「八神」にとってのそれがヒロムの存在の抹消であるのと同じで他の「十家」にとっては威厳の保持ってことなんだよ」
ガイとソラ、二人の言葉を聞いたイクトは信じられなかった。
自分の生きているこの世界、その世界は蓋を開ければ私利私欲のために無実の人間を利用するという堕ちるところまで堕ちた最悪の権力者に支配されていると捉えることが出来るからだ。
「……結局、姫神ヒロムが助かる道はないのか?」
「そのためにオレたちがいる」
「ヤツらがヒロムを狙うならオレたちはそれを迎え撃って殺すだけだ。
オマエも……キキトがやろうとしたことを知って許せなかったからここにいるんだろ。
覚悟を決めろ……少なくともオレもガイも先に進む覚悟は出来ている」
「覚悟……」
ソラが告げたもの、それは半端な気持ちでは務まらない重圧を背負わされるようなものだ。
その重さを理解したイクトは言葉を失ってしまう。
「……」
「……まぁ、オマエがどうするかはどうでもいい。
オマエはキキトってヤツを始末したいだけのようだからな」
ソラがイクトに冷たく言葉を放つと、その言葉を聞いていたガイは話題を変えようとヒロムについてソラに訊ねた。
「ソラ、ヒロムはまだ来ないのか?」
「あ?
ああ……呼び出されたんだとよ」
「誰に?」
「……蓮夜にな」




